無縫地帯

【都議会選】都民ファースト対自民で置き忘れた東京都の抱える重要課題

7月2日、投開票が行われた東京都都議会選挙は、おおかたの予想通り都民ファーストの会の歴史的大勝と小池百合子都知事を支える勢力が都議会の過半数を超えそうで、今後の動きについて雑感気味に解説いたします。

小池百合子都政への信認も含めた東京都議会選挙は、大方の予想通り小池女史率いる都民ファーストの会公認候補と推薦候補、その政策連携をすでに表明している公明党の合計議席がおそらく都議会の過半数、64議席以上を占めるであろうということで落ち着きました。もちろん、現段階で当選確実が出ていない選挙区も多数残っている状態ではありますが、本稿では速報的に都民は何を考えて投票したのか、また今回の都議会選挙で何が語られたか、あるいは語られなかったかを整理してみたいと思います。

東京都民は何を考えて投票行動に臨んだか

今回の都議会選挙においては、告示前の調査でも選挙期間中も概ね「自民党本部や官邸の失点」について大変な逆風にさらされたことで、自民党が本来得意とする選挙活動が充分に実施できなかった、と総括されます。

また、それまでの期日前投票の出口調査や各種世論調査で予想されたよりも、投票日当日の自民党への投票数がはるかに低かった、という特徴が見られます。小池都政への期待と同時に、既存の自民党政治、とりわけ昨今の官邸のドタバタに対する、都民の強い拒否感が見られます。

実際、東京都議会選挙の告示前は、5月27日28日調査において東京都の有権者の投票傾向は概ね自民党17%から22%、都民ファーストの会11%から15%と、どちらかというと「都民ファーストの会」という政党そのものの知名度、政策や候補者の浸透が課題とすら見られていた状態でした(毎日新聞、読売新聞)。それが、最終的に自民党候補者への得票傾向が一気に減衰し、告示日直前の調査では互角とみられていた選挙区で自民党が議席を確保できないケースや、2議席目を落とすケースが続出し、結果的にこの自民党に対する逆風・ダウントレンドが最後まで効いて多くの選挙区を落として自民党大敗を印象付けることになってしまいました。

とりわけ、本来であれば全勝も見込んでいたはずの一人区での完敗は非常に重要で、千代田区、中央区では本来なら勝てる戦いを大きく落としたことになり、自民党都連だけでなく、逆風の原動力となった安倍政権での各種スキャンダルへの総括はどうしても必要になるでしょう。

一方で、設問は各社異なりますが都民が投票に当たって重視するという争点の項目上位はいずれも「育児・教育」「都政改革」「雇用・経済」「福祉の充実」であって、自民党だけでなく、民進党、共産党、公明党といった既存各政党への投票内容を見ても概ね満遍なくこれらの政策課題は都民から重要だと判断されていることが分かります。あくまで選挙区での当落においては政策議論が充分に行われたとは言えず、非常に流動的な票が自民党低迷のモメンタムに乗って非自民の各候補者に流れていったということが理解できます。

実のところ、育児教育にせよ雇用経済にせよ、都政でできることには限界があるとはいえ小池都政は一年にも満たず、政策に対する実績という点ではまだ都民は全く見えていないはずです。存在するはずのない小池都政の実績に対して信認が得られたというよりは、都政改革、とりわけ情報公開に対する考え方が都民の意向にフィットしたと見られます。もちろん、小池都政においては市場問題PTのメンバー承認過程が不透明であるなど、必ずしも情報公開すべてに前向きかどうかは未知数なところはありますが、都民の投票動向からすると都政改革を求める有権者が比較的多く、争点としてこれらを挙げた有権者に都民ファーストの会への投票傾向が強い以上、期待感を票に替えることに奏功したと言えましょう。

一方、都政に福祉を求める層の投票先は分散しました。投票日当日には高齢者を中心に共産党への投票が伸び、また劣勢が予想されていた民進党候補者に対しても福祉を重視する有権者の票が流れて当落線上になるなどの事例が見られます。あまり選挙戦の中で明確な争点として提示されなかった部分が一部の選挙区で勝敗を分けている部分があります。

■あまり語られなかった2020東京オリンピック、さらには東京の未来、ビジョン

今回、自民党の自滅にまつわる論点が東京都民の選挙行動に大きく影響してきたことは恐らく今後具体的に数字面でも見えてくるとは思いますが、争点として思ったほど都民の判断に左右しなかったのが東京オリンピックパラリンピックにまつわる件、豊洲市場移転問題、そして東京都の高齢化対策やインフラ老朽化対策といった生活にかかわる部分です。

一面では、2020東京五輪は「開催する前提」として都民に定着していると判断もできる一方、環状2号線や築地市場問題からの玉突き的な湾岸開発や東京五輪施設建設の致命的な遅れについては、都民に問題として浸透しなかった部分が強いのではないかとも見られます。それだけ自民党官邸や下村博文さん、豊田真由子女史といったどうしようもないスキャンダルが大きく自民党の信用を毀損し、東京都が本来抱える問題や争点を議論の俎上にすらのぼらせなかったといっても過言ではありません。

今回大勝した都民ファースト、公明党はもちろん、自民党、民進党、共産党各党においてもあまり2020年以降の東京をどうデザインしていくのか、どういう暮らし方をする社会にしていきたいのかという論点は最後まで詳らかになりませんでしたし、都民ももっぱらスキャンダラスな政治家に対する幻滅のほうが投票行動に占めるウエイトが高かったのではないかと期日前投票の動きを見ていると感じます(下村博文さんの加計学園からの献金疑惑は、事実がどうであれ、大変なダメージが自民党に出たことは歴史的事例として言えるんじゃないかぐらいに思います)。

個別の地域で言うならば、北多摩南多摩西多摩はいずれも「投票しようにも投票したい候補者がいない」傾向が強く、とりわけ民進党支持者の出足がとても鈍かった点は特筆される状況なのではないかと思います。もちろん支持政党なしはいつも「投票したい候補者がいない」わけですが、その属性はそもそもあまり投票所に足を運ばない人たちです。やはり政治に関心があり、こういう社会にしたいと考える人ほど選挙のたびに揺れ動く部分はあるわけで、今回の都議会選挙は特に最後まで投票行動を決めない傾向が強かったというのは次の選挙に大きなフラストレーションを抱えるのではないかと思うところです。

そして、これら都下・多摩地区は、東京都の中でも猛烈な高齢化と医療、インフラの不充足に見舞われることが確実な地域です。とりわけ奥多摩町や多摩市は東京都の中でも大いなる過疎となり、東京都の中でも「縮小する首都圏」の最初の犠牲者です。ここで空き家問題や交通インフラ、医療と介護といった市民生活に直結するところで東京都がどうカバーするかというビジョンを提示できるかはもう少し議論してもよかったのではないかと思うのです。

また、受動喫煙問題は都民ファーストもかなり熱心に仕掛けていましたが不発に終わり、また待機児童など子供の出生支援や育児・教育は重要な問題だと多くの都民が考えているにもかかわらず特定の政党に投票するような行動は惹起されませんでした。むしろ、積極的にPRしてきた都民ファーストよりも、公明党、共産党、民進党など既存政党のほうが政策主張は都民に浸透していたあたりは都民ファーストの反省点ではないかと感じます。活動の歴史や厚みは小池人気があってもなかなかむつかしいのかもしれず、これは追い風には強くても逆風になると厳しい選挙戦になるのだろうなあと思うわけであります。

最後に、東京都の将来の財政その他に関する争点はまったく語られないに等しい状況でした。2025年には高齢化ピークからの人口減少に陥る東京都こそ、地域の経済効率を高め、付加価値の高い産業の育成・誘致や、多様な働き方を認め子育て環境から高齢者対策まで多くの予算を今後必要とされるためにそれに見合う都税税収を確保できるかが本来の鍵です。どうにかならないのかなあと思うわけですが、そもそも都民は日本の中でもほんのり高い税金を払っていることも含めてもう少し議論があってもよかったのではないかと思う次第です。

■戦勝後の都民ファーストの今後

一般論ですが、これだけ歴史的な大勝となると、小池百合子女史の政治家としてのキャリアと同じく、日本新党的な、あるいは地域政党として成功し国政を睨みに行った日本維新の会をお手本に、組織化・統制を図りながら党勢拡大を目指していく形になろうと思います。

また、支持率が高いうちに2020年東京オリンピックのホスト都知事となるためにも、一度、都知事選を経なければなりませんので、タイミングを見て自力で都知事を降りて信を問うぞ的なネタをやるんじゃないかと考えられます。それまでの間に、小池都知事と翼賛的な都議会とを両輪で抱え、スキャンダルなく実績を挙げる必要があります。いまの都民ファーストの会にどれだけの人材が集まっているのかは未知数ですし、統制がどうとれるのかも良く分からない状況ですので、当面の2020年東京五輪と湾岸地域、次いで育児教育環境の徹底整備、高齢者対策・医療と介護あたりは喫緊の課題として取り組まなければならない問題となります。生活の安全・防犯や、電力ガス水道や下水道どれも重要ですし、一朝一夕には解決しない、地道に取り組むべき課題です。

小池女史についていうならば、ある程度その場の瞬発力で政策課題で大見得を切り、風呂敷を広げて、周辺に畳む人がいなければ散らかったままになってしまうのは防衛大臣時代も環境大臣時代も豊洲市場問題でもオリパラ開催地問題でも良く分かります。良い意味でも悪い意味でもそういう政治家であり、このような形で都議会選挙で大勝を都民がさせた以上、今回当選した都議会選挙で得られた人材をうまく問題対処にはめていきながら、都庁組織と一体になって解決していけるのか、またブレーン任せの会議体乱立政治になるのかは、良く見ておく必要があるのではないかと思います。

■語られなかった争点こそ、都民にとって必要なことではなかったか

東京都の問題は山積しています。日本の首都であり、日本のGDPのかなりの割合を占める大都市東京が、進むべき道はきちんと示されたのか、多くの論点は国政・自民党安倍政権官邸や議員のスキャンダルによってかき消され、本当の意味で東京都民の生活に直結した政策論争が行われなかったというのは残念です。

小池女史のいうところの「ワイズスペンディング」は良いとして、問題はその中身であり、意志決定の方法です。議会も掌握した以上、いつまでも決定されない、玉虫色の都政では困りますし、側近政治になってしまっては小池女史や都民ファーストを支持した都民が期待した都政改革や情報公開が行われないようではすぐにスキャンダル塗れになってしまうかもしれません。

都民の審判が小池百合子女史を支持し、都民ファーストと公明党に都政を託す決断をしたことは間違いありません。それに見合った都政がしっかりと行われるよう、一人の都民として引き続きウォッチしてまいりたいと存じます。