無縫地帯

北朝鮮で2018平昌冬季五輪「共催」を提案する韓国への疑念

21日、韓国政府が2018年開催予定の平昌冬季五輪について「北朝鮮の共催を検討」と打ち出し、大統領も追認したことで、最悪、ボイコットも含めた日本の対応もあり得るのではないかと騒ぎが拡大しています。

テレビでも一部報道され、騒ぎが拡大しているところではありますが、韓国・文在寅政権はかなり本気で北朝鮮対策の一環として「2018年に開催される平昌冬季オリンピックに北朝鮮を平和裏に巻き込もう」とする動きを加速しています。

もともとは、21日に韓国政府サイドから一方的に出た話だったのですが、その後海外メディアや日本でも本当に「北朝鮮で平昌五輪開催が韓国政府内で具体的に検討されている」ことがはっきりしてきたため、一斉に報道されたという経緯があります。

韓国文体部長官「平昌五輪種目の一部を北朝鮮のスキー場で行う案を検討」(中央日報日本語版 17/6/21)
平昌五輪韓国が北朝鮮と共同開催も検討(日テレNEWS24 17/6/22)
平昌五輪「北」と共催も? 韓国が提案 (FNN 17/6/22)

さらにIOC(国際オリンピック委員会)が韓国政府のこの動きを追認、前向きな声明を出したため、騒ぎに拍車がかかる事態となりました。

IOC、北朝鮮での平昌五輪の分散開催に「喜んで議論する」 - (SANSPO.COM 17/6/22)

ただでさえ官邸機能が低下しているところでこのニュースなので、日本政府からは具体的にこの問題についての談話はまだ出てきていません。それどころか、いま政府は北朝鮮からのミサイルの脅威があるよということでテレビコマーシャルも含めた国民への危機対応を啓蒙しようという矢先のことですから、韓国が「北朝鮮と一緒に五輪を開催するかもしれません」と言ってきても「そうですか」と受けるわけにもいかず、単なる揺さぶりにしては非常に筋の悪いネタだなと思うわけであります。

さらに折悪く、金正恩さんの顔写真が印刷されていた新聞紙に靴を包んだら金さんの顔に泥がついたとかいう事情で、北朝鮮を訪問していたアメリカ人大学生が北朝鮮当局に監禁・暴行されて死亡するという事件が発生していました。

北朝鮮で拘束のアメリカ人大学生が死亡。どうするトランプ政権(ホウドウキョク17/6/22)
【2018平昌五輪】五輪関連施設で240億円の賃金未払い生活困窮で痛切な訴え韓国では当たり前の「社会悪」(産経ニュース 17/6/24)

一応、軌道修正の意味も込めてなのか、韓国大統領・文在寅さんはあくまで北朝鮮に対し五輪へ参加し選手団を派遣するよう要請するという内容を出しているのですが、一番困るのはそのあとの2020年東京オリンピックへの影響です。

「北朝鮮は平昌五輪参加を」=韓国大統領が呼び掛け(時事通信17/6/24)

JOC(日本オリンピック委員会)はこの問題について「韓国の開催委が方針を決めること」とし、事態を慎重に見極めて判断する構えですが、東京五輪関係者はこの問題について「非常に複合的な問題なので、安易に態度を決めることはできない」としたうえで「本当に北朝鮮共催などということが万一起きてしまったら、いまの国際情勢を鑑みて日本が平昌五輪に選手を派遣できない(やまもと註:実質的な平昌五輪のボイコットを行う)ことも考えざるを得なくなる」としています。

当然、いまの北朝鮮情勢が2018年までにどのように推移するかにも大きくかかってくるのですが、いまの政府やJOC、東京都の懸念通りに韓国が2018平昌冬季五輪を北朝鮮共催に踏み切るとすれば、日本選手団を北朝鮮に本当に入国させるのかも含めた難しい綱引きが迫られるだけでなく、指摘通りボイコットもシナリオとして考えなければなりません。アメリカがどうするのかを横目で見ながら、安全確保のための水面下の交渉を外務省が担うことになるわけです。北朝鮮国内で開催される競技だけ日本人選手団を派遣しないということも考えられるでしょうが、日本としては、韓国に対して北朝鮮との共催プランをあらゆる手を使って見送るよう働きかけざるを得なくなります。

日本のボイコットが望ましくない理由は、直後の2020年東京オリンピックパラリンピックに影響が直撃することです。「強いて言えば、冬季五輪とは無関係」(JOC関係者)ながら「競技場の建設問題その他、IOCからの信頼関係が地に落ちている状況で無理を言うのはむつかしい」(JOC関係者)「本当に北朝鮮共催を強行するようであれば、東京五輪を吹っ飛ばしてでもという議論が日本国内から続発しかねない」(外務省OB)。

ここまでくると、ある種の情緒的・観念的な外交課題であった少女像よりも、より具体的な通商問題などに悪影響が出るような日韓関係の悪化は避けられず、ちょっと抜き差しならない事態になる可能性も出てくるでしょう。それでも「開催スケジュールを考えると北朝鮮との共催プランが本線とは考えづらい。あくまで韓国国内事情を考えたうえでの大統領のポーズなのでは」(JOC)という楽観論もある中で、また韓国に日本は振り回されるのかと思うと悩みが深くなる一方なのであります。