無縫地帯

小池百合子都知事、豊洲移転&築地活用の良いとこ取りをしようとして派手にコケる

小池百合子都知事が、近く中央卸売市場の豊洲への移転決断をするという報道がありますが、結局都知事就任後さんざんかき回して舛添要一さん時代の「ふりだしに戻る」あたりはきちんと吟味したほうがよいでしょう。

東京都知事の小池百合子女史が、6月23日告示、7月2日投開票を予定されている東京都議会選挙に向けて、築地市場の「豊洲移転」と市場跡地の利活用を推進するという玉虫色の決着を目指す方針だそうです。

先日、日経新聞に小池女史の方針が報じられたときは、盛大に梯子が外れた影響が各方面に飛び出し、早くも移転反対の論陣を張ってきた共産党方面からは大ブーイングが出始め、また都議会「与党」である公明党もずいぶん前から「(不倶戴天の敵である)共産党と築地移転反対という同じ政策主張を選挙戦で行うことはできない」と難色を示してきました。

そして今日6月16日、豊洲への市場移転について諮問されてきた「市場のあり方戦略本部」がいままでのすべての議論について結論を出しました。その内容は「専門家会議に諮問していた盛土欠落問題や市場建物の構造設計問題、豊洲市場の経営持続性の問題などはいずれも対策可能で、それにより豊洲市場は安心・安全かつ持続的に経営できる」とされています。

すなわち、豊洲市場に対する懸念は先日の専門家会議での「安全宣言」に続いて戦略本部でも「対策されれば豊洲への移転に障害はない」という結論となったため、豊洲への市場移転を行わない、延期する口実を完全に失ったことになります。

市場のあり方戦略本部

翻って、内容を精査するともともと小池百合子都知事が「立ち止まる」公約で豊洲移転問題を検証し続けたものの、対策の必要のない地下水の汚染が見つかった程度で、そもそも議論する必要もなかったと言えます。

当然、都議会選挙前に諮問機関も専門家会議も豊洲移転に問題なしという結論を出した以上、小池女史は決断しなければなりません。

政治的なバックグラウンドが薄く、小池女史への期待感がメインで戦う都民ファーストの会は、公明党からの選挙協力を具体的に取り付けることができなければ苦戦する選挙区も少なくないため、選挙前に小池女史がどのような決断を最終的に下すのかが注目されています。

ただし、いま報じられている「市場は豊洲移転、築地跡地は貸借に出すなどして利活用」のプランについては、これは舛添要一前都知事時代から決まっていた方針とほとんど変わりなく、土地を売るか貸し出すかの違いしかありません。
それを「立ち止まる」までは良かったとしても、事実上ひっくり返し、10か月近くにわたって、豊洲市場の建築物に問題があるとか、あたかも人体に影響があるほど汚染されているとかの風聞を流して騒ぎにしたのは小池女史本人なわけです。

「騒ぐだけ騒いで、豊洲も築地もみんな傷ついて、結果として舛添さんの決めたこととほぼ変わらない結論である」というのは、小池女史の政治家としての判断が間違っていたことになりますし、それ以上に一連の市場開場延期のプロセスは議会の承認も経ず、都知事「個人」の見解と判断に基づいたものでしかありません。

また、都知事の権限で個人的なプロジェクトチームが組成され、決して適切とは言えない人物をプロジェクトチームのメンバーに選任した過程も不透明です。
課題のある人物の一人、森山高至さんは、共産党からの推薦を得て中央区から都議会議員選挙に立候補するそうです。いったい何だったんでしょうか、この人。

さらには、都議会議員ですらない野田数さんがこの5月30日まで都民ファーストの会の代表となっていました。旧東京維新時代に極右発言を繰り返していた野田さんは、小池女史の政策担当特別秘書として要職に据えらえていましたが、週刊新潮でも国会議員・アントニオ猪木さんとの金銭トラブルが報じられ、それへの反論をしたりと場外乱闘の多い印象はあります。

テレビ朝日で森山高至さんが流した「ガセネタ」ハイライト(修正、追記あり)( Y!ニュース 山本一郎 16/10/21)

小池百合子「都庁に着いたら5分で極右」の衝撃(訂正とお詫びあり)(Y!ニュース 山本一郎 16/8/3)

「小池百合子」都民ファーストの会代表が1100万円の公金横領アントニオ猪木が告発(週刊新潮 17/5/25)

小池新党・野田代表、新潮社を提訴へ「公金横領」記事(朝日新聞デジタル 17/5/18)

そして、小池女史の豊洲市場移転延期判断は政治的なプロセスを踏まないものだったとして、当の仲卸業者から提訴されてしまうという事態に発展しました。

「移転延期判断は不当」小池知事に豊洲の維持費請求を仲卸業者ら提訴 (THE PAGE 東京 17/6/6)


住民訴訟を起こした。2回目の住民監査請求も出した。追加の監査請求しようと情報公開請求を出した。しかし情報公開が一丁目一番地と選挙公約でもおっしゃってるくせに、法定開示期間内に開示できないと都から知らせがあった。ぜひ情報公開を第一に掲げる小池知事のリーダーシップを発揮して頂きたい。


生田よしかつ - Twitter
それまで「『都民ファースト』は情報公開から」と喧伝してきた小池女史が、肝心の都民、それも利害関係の当事者である仲卸業者からの情報公開請求が出てもいまなお開示されないというのはなかなか理解できないところです。

恐らく、小池女史は頭が良く機転の利く人物であるためか、その場その場の咄嗟の判断で、刹那的な大見得を切りながら前に進んでいくタイプの政治家なのだろうと思います。その点では、人気を一時的に稼ぐ能力はものすごく高い反面、重要な判断を行う上で必要とされる根回しを終えないうちに大見得を切ってしまうので、今回の豊洲移転判断の「転向」も、小池女史を支えてきた野田数さんも、支援してきた財界人も、政策面での同質性ゆえに小池都政にシンパシーを感じてきた共産党も、見事に梯子を外されて身動きが取れなくなる現象になっているのではないかと思うわけです。

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<追記>11:00AM
日経1面トップに掲載された「豊洲へ移転」という記事は完全な誤報であると断言します。意思決定者から裏も取らずに、豊洲で決めたいという都庁の官僚の言いなりに書くからそうなる。環...


安東泰志 - Twitter
例えば、小池女史の支援者の一人で、いまは東京都政策企画局の顧問となっている安東泰志さんという金融界では名の知れた人が、事前に小池女史から耳打ちされないまま豊洲移転の報道が出てしまったため、豪快に「豊洲へ移転という記事は誤報であると断言」と言ってしまいます。もちろん、都庁詰めのマスコミや都議会重鎮は、小池女史の都民ファーストの会代表就任のタイミングで豊洲移転への具体的な段取りを調整し始めていることを知っているので「戦略本部やチームからの最終報告を待って小池知事が決断」というシナリオであることは分かっているため、日経が一番槍を取った、ということになります。

また、それまで呉越同舟の際たるものであった共産党が梯子を外され反動が懸念されるため、小池女史が「豊洲市場の土壌汚染を無害化できず陳謝」という謎の行事で手打ちをしようとします。要は、築地に市場機能も施設も残らないよという話なのですが、そもそも豊洲市場の地表に人体の触れる形で汚染物質は検出されず、適法に処理されていることは東京都の専門家会議が出した「安全宣言」の中で明記されてしまっていますから、これは小池女史の共産党など移転反対派懐柔策であることは誰の目にも明らかです。

「市場移転」築地女将さん会が会見(FNN 17/6/15)

https://twitter.com/NekoNeknm/status/875310494562660352[[twitterON|ON]]

共産党と近しいとみられる「築地女将さんの会」は、豊洲市場への移転絶対反対の立場で運動を繰り広げてきていた分だけ、明日訪問と面談が予定される小池女史が何を言うのか、あるいはどうなってしまうのか、心配事は尽きません。おそらく実質的な判断を週明けにするということで「まだ決まっていない」という話をするのだと思いますが、明日「決まってない」ものが来週早々に豊洲移転決断だという話になると、土日に何かあったのかみたいな話になってしまうわけですね。

野田数さんにいたっては、都庁詰めのマスコミに対して繰り返し「(野田さんが)ここ(都庁)にいる限り市場は移転させない」と豪語しておりましたので、こちらはこちらで側近にも見事な梯子外しが行われてメンツが失われていると言っても過言ではありません。豪遊したくなる気持ちも分かります。ツバメもツバメなりに辛い立場なのだなと同情せざるを得ません。

このように、小池女史については昨年の都知事選の前後から共産党方面からのガセネタに乗っかって無い問題を「ある」としたうえで、都庁や都議会の既得権益と戦う都知事であると自己パフォーマンスに使ってきた結果が、ちゃんと検証したら当たり前のようにシロだった、というオチを小池女史自身が始末しなければならない状況に追い込まれました。

同じ構造は、東京五輪の施設建設や周辺自治体との折衝問題や、交通渋滞解消のための政策、児童福祉関連などなど、風呂敷は広がっているけどどこにも根回しをしていないので結果が出ない、状況がより悪くなっている、という事例のオンパレードです。このあと都議会選ですが、都民ファーストの会の皆さんにおかれましては、くれぐれも小池女史がその場の判断で適当なことを言いそれまで努力してきた人の功績を無に帰したり、調整するべきポイントをスルーして根回し無しで混乱させることの無いよう、しっかりと首に鈴をつけていただきたいと願っています。

小池女史の問題についていえば、小池女史と信頼関係のあるまともな側近が一人もいないということに尽きます。小池女史の調整能力の欠如は誰が見ても明らかですが、一方で派手なパフォーマンスを繰り広げてメディア受けする耳目の惹き方は心得ているわけですから、今回の都議選を通じて一人でも二人でも調整能力や実務能力のある、小池女史好みの人材が出てきて小池都政の脇を占めてくれることを期待してやみません。