無縫地帯

護送船団方式による日の丸ビッグデータ戦略みたいなものはこれからアリなんでしょうか

経済産業大臣の世耕弘成さんが、ベンチャー向けのイベントで護送船団方式を彷彿とさせるビッグデータ国内連携構想をぶち上げたことが、いろんな意味で話題になっています。

若い世代であれば今現在IT業界で仕事をしているような人でも「情報大航海プロジェクト」や「日の丸検索エンジン」という言葉を聞いてもピンとこないということはあるのやもしれません。私自身もすっかり忘却の彼方に置き去りにしてきた言葉でありましたが、久々にネット記事中にその言葉を目にして思わずハッとしてしまいました。

グーグルが自動運転500万キロのデータでも、日本なら何兆キロも取れる―世耕経産相(TechCrunch Japan 17/6/12)

中央官庁が産業政策を決定して選択領域にリソースを配分するというと、「情報大航海プロジェクト」など、失敗した日の丸プロジェクトが目に浮かぶ。TechCrunch Japan
記事タイトルもまさに「打倒Google」を暗に宣言したかのようなノリの表現になっていて趣深いものがありますが、記事の中身は世耕弘成さんがベンチャー経営者向けイベントで一席ぶった話を簡単にまとめたものでした。まあイベントオープニングでの講演だったということでして、具体的な根拠のある話というよりは、どちらかと言えば景気付けのためのある種の与太話的なリップサービスだったのではないかと思われますが、それにしても、日の丸検索エンジン構想で立ち上げた甘い夢はやはり忘れがたいという雰囲気が醸されているようにも読めなくはありません。

大変面白いのは以下の部分です。

日本企業は国内市場で激しい競争をしているが、協力できるところは協力していかないと世界と伍して戦っていけないのではないかということだ。この状況を打破するために世耕大臣は「Connected Industries」を標語として、共有データを企業や産業の壁を超えて公共財のように持つというビジョンを説明した。TechCrunch Japan
グローバル市場での競争に打つ勝つために、日本国内の産業は一致団結してデータを公共財として共有すべしという提案のようです。日の丸検索エンジンという呼称にあやかって「日の丸ビッグデータ」とでも名付けると分かりやすいかもしれないですね。はたして日の丸ビッグデータがGoogleやFacebookのように世界規模で莫大なデータを集めている連中に互角で勝負を挑むことができるのかどうか。世耕さんは「日本の自動車関連企業が全部いっしょにやった瞬間に何兆キロというデータが入ってくる」と豪語されているのできっと大丈夫なんでしょう。このイベントに参加したベンチャー企業経営者の皆さんもこの話を聞いてやる気がもりもり出てきたのではないでしょうか。

で、世耕さん一人がノリノリでこういう与太を飛ばしているのかと思いきや、他にも似たような政府主導によるちょっと景気のいい話がメディアには出てきている印象があります。

国・自治体の不動産情報統合空き家把握し取引促進(日本経済新聞 17/6/14)

政府は全国に広がる空き家や空き地を整備するため、国や自治体がそれぞれ持つ不動産データベースを統合する。不動産登記などをもとに住所や所有者の情報をひも付け、不動産を管理する個人や法人を正確に把握する。権利者や住民、納税者が複雑に絡む不動産の情報を透明にして、企業による不動産取引や都市再開発を後押しする。日本経済新聞
これも一種の日の丸ビッグデータ戦略と解釈できそうな事案ですが、この提案の注目ポイントは次の部分です。

情報のひも付けは仮想通貨の中核技術「ブロックチェーン」を活用する。ネット上の複数のコンピューターで取引の記録を共有する仕組みだ。互いに監視しながら情報を蓄積するため、改ざん防止など安全性に優れる。日本経済新聞
でましたね、ブロックチェーン。昨今はこの魔法の言葉をつぶやけばベンチャー投資や新規企画案件は承認されやすいようなノリがあるようですが、日の丸ビッグデータ戦略とブロックチェーンはとても親和性が高そうです。おそらくはそうした会議の場で頻繁にやり取りされている単語に違いありません。ちなみにブロックチェーンについては、弁理士の栗原さんがなかなか含蓄のある記事を書かれていますので、企画会議などの場でこの言葉に出会う機会の多い方はぜひご一読をおすすめしておきます。

そのプロジェクトにブロックチェーンは必要か?(Yahoo!ニュース 個人 栗原潔 17/6/2)

ブロックチェーンは確かに注目されるべき新しいテクノロジーではありますが、いまだ発展途上のものでありビットコイン以外への応用はできてないのが実情。そんな中、すでにブロックチェーンを活用することが決定したかのような日経の報道というのはかなりに眉唾ものだなあと思ったりするのですが、これも世耕さんのアレと同じノリなんですかね。これからしばらくはこういう流れの話がたくさん飛び交いそうだなと思う今日この頃です。

ところで、世耕さんと言えば日露交渉はどうなったんでしょうか。