「食べログ」有名レビュアー買収とステマに関する解説
グルメ紹介サイト「食べログ」の有力レビュアーであった「うどんが主食」さんに対する過剰な優待取材への文春報道とレビュー記事の削除について、ステルスマーケティングの見地から解説しました。
先般、週刊文春の報道もあり、グルメ紹介サイト「食べログ」の著名レビュアーであった「うどんが主食」さんが接待を受けたとされる知人の店舗のレビューを好意的に執筆したかどで話題になっておりました。
食べログレビュアー「うどんが主食」が「高評価飲食店」から過剰接待(文春オンライン17/6/7)
いくつか論点はあるのですが、昨年私も食べログのランキング操作の問題については記事を書いておりますし、この手のランキングが買収のネタになりやすいことはかねてから指摘されてきたことであって、このような形で報じられるのは非常に残念なことです。
食べログ「飲食店の乱」騒動と、内部資料が示す残念な感じ(Yahoo!news山本一郎16/9/11)
一方で、オンライン広告については一家言あるはずの徳力基彦さんや、グルメジャーナリストの東龍さんも触れておられますが、広告業界であれネットサービスであれ、ある意味で「多かれ少なかれそのような事例はある」前提になっているのは非常に気になるところです。
記事広告PR表記問題やネイティブアドの論争が不毛と思う理由( Y!ニュース 徳力基彦 17/6/10)
文春の報道から食べログの有名レビュアーの全レビュー削除へ至った件で、みなさんに理解してもらいたいこと(Y!ニュース 東龍 17/6/12)
業界関係者や、グルメに詳しい有識者が、特定の事情をもってステルスマーケティングを容認するかのような加重平均や優待取材を是認する論考をするのはちょっと目を疑います。グルメに限らず、自動車やゲーム、アパレルなど、一般的にはプレスツアーと呼ばれるものがあったり、メディアに特典を与えてアンバサダーマーケティング気味の活動を行うことは、過去にもたくさん起きてきました。それがビジネスの基本になっているコンテンツマーケティングの会社もあるでしょう。
しかしながら、それはあくまで業界目線の話でしかありません。また、東龍さんが解説しているような「無料で取材すること自体は、ごく普通に行われています。優待取材を認めないのであれば、多くの記事は否定されなければなりません」というのはあくまで商業媒体一般のことであって、食べログレビューやその他CGMでの評点のように一般的なレビュアーも存在する媒体も実態として同じことが起きているのであれば、早々にこの問題は「問題を認知して対策している」のではなく「解決して問題が処理されている」必要があります。一般の来店者によるレビューもこれらの優待取材の結果で無料飯をいただいてレビューされているものも併せて”加重平均”されているならば、それは問題の解決を目指したものとは言えません。
「”うどんが主食”さんのレビューにおいて優待取材が過剰だった」から、彼のいままでのレビューが削除に追い込まれたのではなく、一般的な利用者のレビューが軽視され加重平均とされるレビューシステム全体の信頼が損なわれるから削除せざるを得なくなったのではないでしょうか。
また、本件では別途同時進行したヨッピーさんの広告記事タイトルに広告表記がなされなかった問題を捉えて、徳力基彦さんがこれへの議論が不毛と喝破しておられましたが、私は不毛とは思いません。記事と広告の関係性の明示については、タイトルに盛り込むかも含めてどんどん議論するべきです。質の低いコピペメディアやステルスマーケティングなどへの対応が必要だというのは全く同意ですが、これらの問題が同根なのは「PV(ページビュー)をかき集めることでビジネスになっている」という点であって、タイトルに「広告」「PR」表記を入れないことが重要なのはPVを集めるためです。
なので、タイトルに「広告」「PR」を入れるのがネット全体において望ましいかどうかは、InstagramやTwitterに広告表記をさせるかも含めて本来は重要な議論であって、ただ段階としてそれ以前のものがあるのでいまは放置せざるを得ないというレベルの状態だということは認識しなければならないと思います。私は関係性の明示の原則から考えて、タイトルにも広告表記があったほうが丁寧・親切である、広告を読みたくないという消費者に限られた通信帯域を食わせない仕組みを用意するべきだ、と考えるからです。
タイトルに「広告」と入れるとアクセスが減るので困るという話(やまもといちろう 公式ブログ 17/6/7)
CGMのレビュアー平均もステルスマーケティングも、基本的には「タイトルを見ても広告と思っていないユーザーがその記事を踏むことで薄く広く被る不利益」について、業界目線ではなく利用者・消費者の立場で何が適切であるかを考えるべきだと思います。同じことは、ネット上での個人に関する情報の取り扱いや、有害情報その他にも出てきている話ですので、このあたり、広く議論ができるといいんじゃないかと個人的には感じる次第です。