無縫地帯

HAKUTO「ムーンチャレンジ」プロジェクトで感じる先端技術の良い見せ方

東京ドームシティ「TeNQ」で、民間月探査プロジェクト「HAKUTO」のイベントをやっていて、最新技術やチャレンジの見せ方に感銘を受けました。

山本一郎です。子育ては人生をもう一度体験すること、みたいな言説に改めて共感をする、auドコモ二台持ちであります。

ゴールデンウィーク中、東京ドームシティ内ににある宇宙ミュージアム「TeNQ」に足を運んだんですよ。宇宙系のネタが大好きな拙宅山本家三兄弟がTeNQのシアター宙や特別企画展(生物がいると予想される木星の衛星、エウロパをモチーフにした、エウロパ生物の想像図などが飾られている)を見たいというので。

宇宙に興味を持つまでの三兄弟(7歳6歳3歳)は、まあ単なる腕白でしたので、宇宙のような一生を注ぎ込むに足る趣味を持ってくれそうなのは親として幸せなことです。ゴールデンウィークに連れ出される以外は。それまでの三兄弟のありさまは別の記事にも掲載しておりますが、人間の育ち方と、関心の持ち方とを見ると、産業が先端技術をどのように分かりやすく提示するかがものすごく大事なのだなと思うようになりました。

「スマホde子守」の是非(山本一郎 Y!ニュース 13/11/17)

実際、子供がまだ分別つかないころは、無制限にYoutubeを見て楽しんでも良いのでしょうが、そこから何か知識を得るようになってくると、やがては「与えられた動画を観る」のではなく「勝手に動画を検索して興味があるものを探す」行動に移ってきます。まだ物事が良く分かっていない三男はともかく、長男次男はおのおの別々の分野やモノに興味を持つのかなと予想していたのですが、長男は衛星や探査機、ロケットの構造に、次男はブラックホールやガスの広がりに興味を持ち、同じ宇宙好きでも着眼点の違いが大きいのが分かります。次男が宇宙ガス円盤や宇宙ジェットについて語りだすと、長男がそれはどうやったら観測できるのかを吟味し始める、といった具合です。話し出すと終わらないので放置していると、それに見合った動画を探してきて、三男交えて三人で動画を観ているのは良いことなのかどうか。

そんな宇宙好き三兄弟がTeNQにいったところ、ちょうど月面探査プロジェクトのHAKUTOがイベントをやっておりまして、これが三兄弟のハートに大ヒット。滅茶苦茶に興味を持つわけですよ。

TeNQ

HAKUTO


[[image:image01|left|「要するにカメラ付いたラジコンが月に行くんだよね」「分かってるじゃん!」]]

説明を聞く限りでは、民間の資金で月面にて500mを走破するなどのミッションを達成できそうなプロジェクト5つが選ばれ、そのうちのひとつが日本チーム「HAKUTO」であって、その月面に降り立つのが重量わずか4kgちょいのSORATOという銀色に輝くローバーであるといいます。もうこの時点で次男は全力なわけですよ。「月にはどうやって行くのか」から「月をどこまで掘ったら溶岩が出るのか」といった質問責めをされることになります。

さらに、このHAKUTOは地球から38万km離れた月面から月の様子を映像で送ってくるというミッションがあるわけで、そんな遠くから探査、観測して映像を送るのはどういう仕組みなのかと長男が俄然関心を持ちます。ついでにこのローバーは製作費がいくらで、できあがった暁には幾らで売れるのかと気にし始めるのは血の争えないところですが、電波で精密画像データを遠い距離送信するには確かに欠けたデータを補正する技術が必要ですし、それを小さいローバーに機能として詰め込み、14日間続く昼間は延々摂氏150度以上になるわけですから、それは大変なことだと説明するわけです。

ほかにも、なぜ4輪ローバーなのか、車体になぜ車をつけないのか、なぜこの角度に太陽電池がついているのか、もっと速く走れないのか、子供の疑問は尽きません。さらにローバーの操作体験コーナーまであったので、三兄弟のボルテージが最高潮に達します。そのボルテージをもう少し早起きや部屋の片づけに使ってほしい気もしますが、ガーガー言いながらゆっくり動くローバーを腹ばいになって凝視する子供たちを見ると、40年前、果たして自分もこういう目をしてのめり込めたものはあっただろうか、と遠い目になります。

日本が取り組みたい最新技術と、これからの日本に生きていく子供たちの架け橋のような小さなローバーを説明するだけで、月の成り立ちから詰め込まれた技術のあれこれまで、すべては理解できなくてもイメージの中で「これが宇宙に行くんだ」という興奮とともに吸収されるというのは素晴らしいな、と感じます。図鑑や望遠鏡で天体を想像して楽しむだけでなく、実際に「こういうのがこれから宇宙に行くのだ」というのが体感できるだけでも凄いことです。

[[image:image02|right|パンフ並べたりブロックでSORATO作って「また連れていけ」ムードを全面に出す]]

で、名残惜しそうな三兄弟を剥がすように連れ帰ると、頂戴したパンフレットを並べて明日も連れていけと強く要求され、時間をやりくりして翌日もTeNQへ行って操縦体験してきました。カメラの位置やセンサーを凝視しながら動くたびに凄い凄いと歓声を上げる兄弟。待合スペースでこのSORATOのペーパークラフトが売られると知ると、いつ売り出すのか、早く作らせろと吠えまくるわけであります、長男が。

何しろ、TeNQというのは宇宙ミュージアムですけど、楽しみ方にコツがあるというか、ハマらない人には「何が楽しいのか分からない」場所です。山本家内で一致しているのは、シアター宙は楽しいという点です。何というか、日々の生活に追われているじゃないですか。仕事に家事に学校に、やらなきゃいけないことや人間関係に押し潰されそうになりながら毎日を送っている。でも、シアター宙を観に行くとですね、特に”The Another Point of View"とかですね、これからSORATOが向かおうとしている月面に降り立った、アームストロング船長の一個の足跡という偉業から始まる。文字通り、偉大な人類の第一歩ですよ。

[[image:image03|right|陳情が通って再びTeNQへ。「このポスター欲しい」など要求もうなぎのぼり]]

逆に言えば、人間のチャレンジの限界が、いまだ月だとも言える。で、そこからずーっと引いてって、いつもお世話になっている地球、同じくお世話になっている太陽があって、さらに引いて太陽系の皆さんがいて、もうこれだけで全然人類到達してねえよ、となる。んで、銀河系まで引いてって、この時点で私らなんて所詮ガスだって分かるわけです。目にも見えない、塵とガスでしかないわれわれ。

そして、銀河には太陽のような恒星が2,000億個ほどあって、毎日活動してくださっている太陽はむしろ小さいほう。というか、超新星爆発もできないような、銀河の縁にある小さな小さな恒星で、2,000億のうちの一個。そんな太陽以上の恒星を2,000億個擁する私たちの銀河系は、宇宙の中で見ると1,000億個ある銀河のひとつに過ぎない。何それ。宇宙ヤバイ。

TeNQにいくたびに、宇宙から見た自分の小ささを痛感するとともに、日ごろの細やかな悩みのあれこれとか超どうでも良くなってくるわけです。こんなわずかなガスと塵に意識という恵みをくださった神には感謝するしかないんですけど、ほんとヤバイってことがこれでもかと脳内にぶち込まれるのでTeNQは好きです。もちろん、アステロイド帯はそんなに密集してねえよとか、土星の本体と輪の比率おかしくね?とかツッコミどころはありますけれども、気持ちですよ気持ち。

[[image:image04|center|月面ローバーが動く姿を間近で見たい三兄弟。そこには技術と想いが詰まっている]]

そういう宇宙への感謝的な鳩山由紀夫的精神でTeNQに向かい合わないと、宇宙と自分を見比べたときの塵っぽさを受け入れられなくてつまらないと感じると思うんですよね。何の気構えもなしに壮大な映像や美しい花畑観ても「お前なんてちっぽけなガスなんだよバーカ」っていう真のテーマを受け入れられないじゃないですか。

そんな場所でHAKUTOのプロジェクトを見られて、とても幸せです。うまくいこうがいかなかろうが、やろうという意識が素晴らしい。テザリング代、月1,000円ぐらい多めに払うから、いろんな人の思いを載せてどんどん月に行ってくれたらいいと思います。こういうTeNQやHAKUTOの取り組みを足掛かりにして、子供たちが科学技術や宇宙にもっと関心を持ってくれたらと親としても科学技術の進展を願う一人の国民としても願う次第であります。

[[image:image05|right|JAXAの事務所の前にはロケットや宇宙開発の最新情報が展示されています]]

そんな親ガスの気は知らずに、小さなガスである三兄弟は、少しでも先の世界を知るべくJAXA前へいって、お参りのようにH3ロケットやイプシロンを見ながら想像力を逞しくしていきます。夜更かしをしてネットでガス雲の回転を調べる子供たちを見て頼もしく思いますが、あんまり興奮しすぎると明日朝また起きられなくなるよ。