野党の「共産党ファースト」こそ変えなくてはいけない −−長島昭久衆議院議員に聞く
民進党を離党された衆議院議員の長島昭久さん(東京21区)のお話を伺う機会があり、離党の経緯や政治家としてのお考え、葛藤についていろいろ聞いてみました。
山本一郎です。先日私が主宰しております勉強会「漆黒と灯火」で、民進党から離党された衆議院議員・長島昭久さんをお呼びしてお話を伺う機会がありました。
なんかこう「思い切ったなあ」と思う反面、「なぜこの時期に」「どうして」と感じる部分も多々ありましたので、率直に質問してみましたところ、非常に実直なご回答をいただきまして。興味深かったので、お裾分けというわけではありませんが、長島さんのご許可を得て、一部内容を披露させていただきたいと存じます。
■野党の状況に強い「危機感」があった
山本:2017年4月10日、長島さんは民進党からの離脱をご決断されました。並々ならぬ熟慮を経られてのことだと存じます。ただちょっと、最初にしょっぱいことを伺ってもよろしいでしょうか。
長島:もちろんです、どうぞ。
山本:有権者の一人として正直に申し上げると、2014年12月の衆議院総選挙において、小選挙区で残念ながら敗れ、比例東京ブロックで民進党として「復活」当選したという経緯がありながらの「離党」には、ひっかかる部分もあります。”銀メダル”が離党すると、どうしてもそういう批判が出がちだと思うのですが。
長島:今回の離党は、私の政治家としての信念に沿っての行動です。ですから、まったく後悔などしていないし、みなさんに隠し立てするようなやましいところもない。ただ、おっしゃる通り、比例で復活当選した身でありながら、党を離れることに対して、躊躇や逡巡がなかったわけではありません。「党に対する不満があったとしても、自分の政治信条が党の方針と合わなかったとしても、耐えて頑張っていくべきだ」という気持ちが強くありました。
山本:うーん。比例復活の議員が離党する場合は、既存政党に合流することができませんよね。悩まれたけれども、やっぱり離党するしか選択肢はなかった、ということなんでしょうか。
長島:そうなんですよ。「一緒に党を変えていこう」と励ましてくれる同僚議員ももちろんいました。ですから、今回の「離党」の決断には、2年ほどの時間を要しました。外側から見ればむしろ「遅きに失した」というご批判もあるでしょう。しかし、それも全部含めて、覚悟した上での決断でした。
山本:具体的に「離党」を決断する決め手になったのは、具体的にどのようなことだったのでしょうか。
長島:私は、常々、野党共闘路線に引きずられる党の現状に非常に強い「危機感」を持っていました。つまり、共産党が主導する中で、野党がいわば「左に全員集合」する形になりつつある。こうした状況は、はたしてバランスの取れた政治状況なのかと。「与党だから右、野党だから左」と状況分析する方もいますが、安倍政権は教育勅語など右寄りの政策も採っていますが、経済政策はむしろリベラルで、本来は野党が主張するべき政策を推進しています。
山本:経済団体を回って安倍晋三首相自らが賃上げを求めるとか、充分かどうかは別としてもリベラル色の強い政策がアベノミクスの特徴とも言えます。その意味では、いままでの自民党政治とはかなり異なる部分が強いですね。
長島:はい、自民党は野党の提案を良しとなれば、パッと採用して実現することも多くあります。野党の左傾化の問題に関しては、政党政治の現状を顧みて「いや、そういう問題じゃないんだ」という方も党内にはおられるでしょう。「地方で苦労している浪人組の政治家を勝たせるためには、1000票、2000票といった固い票数を集めることが重要であり、そのために共産党と組まなければいけないんだ」と。そこには確かにある種の合理性があるかもしれない。しかし、私は「これではダメだ」と思ったということです。
山本:つまり、「民進党を離脱したかった」というよりは、長島さんの政治家としての主義信条として、これ以上共産党と共闘することができないと判断したということですね。
長島:いえ、誤解していただきたくないのですが、私は、共産党をただ批判しようとは思っていません。彼らは彼らなりの正義感に基づいて、いわば「ぶれずに」やってきているわけです。目先の票に飛びついて「ぶれて」しまっているのは民進党です。
それから、野党共闘そのものを否定しているわけでもありません。まず民進党がしっかりと政策の柱を立てる。その政策に共産党が賛同していただけたとする。そうなれば、「ともに闘う」という形も納得できます。しかし、今の民進党は、そうした形を取れていません。「共産党と共闘するために、消費税増税も、TPPもとりあえず反対しておきましょう。共謀罪も、審議する前から反対を表明しよう」という感覚になっている。
山本:あくまで戦略的に「政策的に折り合うべきところは折り合う」ではなく、「共産党と一体化せざるをえない」状況になってしまっていることに問題があるということですね。
長島:そうです。有権者目線ではなく、いわば「代々木ファースト」(※代々木に共産党本部があることから)になっている。そうなると、私が入党した頃の「与党とせりあって、切磋琢磨して政権を奪っていく」という民主党とは、ベクトルが違ってきていると言わざると得ない。そうした思いから、離党を決意したんです。
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■政権交代まで「10年かかる」ことを覚悟しなければならない
山本:今は、民進党からあまりにも民意が離れているように思います。少なくとも、二大政党の片割れの役割を果たすことはできていない。いまや政党支持率が6%台の民進党は、蓮舫代表の二重国籍問題以降かなり見放されてしまっているとも思えます。長島さんは、この状況をどう見ていますか。
長島:まず私は、「政権交代への準備は10年計画でやるべきだ」と思っているんです。二大政党制と聞くと、選挙のたびに政権交代が起こることをイメージする人もいるかもしれませんが、欧米の二大政党制国家を見ても、だいたい10年単位で政権が交代する。イギリスなどは、保守党から労働党へ政権交代するのに、実に17年もかかった。
しかし、民進党執行部は選挙のたびに「ある程度成果を出さないといけない」と考えていると思うんですよ。昨今の上場企業は、四半期ごと決算数字を株主から厳しくチェックされますよね。そうした「とにかく短期間のうちに目に見える成果を出さなきゃいけない」という風潮の弊害が、民進党に出ている気がするんです。
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山本:ただ、執行部としては、国民を前にして「10年計画で進めているから、その間の2,3回の選挙で負けても仕方がないんです」とは言いづらいでしょうね。「お前らの票は今回は死票だ。わりぃな」となれば、負け戦前提だと批判されてしまいます。
長島:「言いづらい」のはわかるんです。でも、それは言わなくてはいけない。その時に大事なのは、党の核となる「政策」だと思うんです。例えば、民進党は消費税増税をきっかけとして、その後野党に下ることになりました。しかし、当時、野田佳彦さんがやろうとしたことは、「社会保障を抜本的に改革するために必要な財源を確保する」ということです。日本の将来の安心を考えての痛みを伴った政策だった。今の民進党は、それこそ「目先の議席」を取りに行って、消費税増税も反対の立場になってしまいましたが、もし今でも「社会保障のための財源として消費税増税は必要だ」という主張を守っていたら、国民からの支持も違っていたと思います。
山本:社会保障改革は、まさに「国民から求められていること」の一丁目一番地ですからね。野田さんには、ツキが無いというか、「ツモが弱い」ところがありますが、政治家としてそのあたりのことはしっかり分かっていたし、大きな決断もできた。今の状況は本当にもったいないですね。
将来の日本を考えたときに、野田さんは野田さんなりに「やるべき政策はこれだが財源が足りない」という理解はあって、そこで消費税増税を切り出した形で消化。消費税増税して景気が冷えたら税収が増えないという可能性も高いわけですけれども、政策論としては王道であって理解できないわけではありません。ただ、三党合意で増税するタイミングも、その増税政策で解散総選挙に打って出るセンスも良く分かりませんでした。
長島:私の離党は、党内でも予想外だったと思います。「まさか比例代表で勝った長島が党を離れるわけないだろう」と思われていた。しかし、あえて私が行動することによって、ある種のショックを与えることができるかもしれない。また、野党の中で、「再編の気運」が出てくるかもしれない。
山本:はい、長島さんが離党というニュースが出たとき、民進党の方々が呆然とされたまま情報収集で電話をかけまくっておられたのが印象的でした。
長島:これが、吉と出るか凶と出るかはわかりません。しかし、もしそこからいわゆる「左に全員集合」ではなく、「自公政権に変わる新たな政権の受け皿」が生まれてくることがあるとすれば、自分の無謀な行動も十分に報われる。そうした気持ちで今回、行動を起こしたつもりです。
山本:それが今回お話に出ていた政策勉強会ということでしょうか。タイミングとしてどうかとも思いましたが、細野豪志さんも改憲案その他の事案もあり、代表代行を辞任する動きを見せておられました。長島さんの離党をきっかけとして、野党の中の中道保守勢力が糾合される可能性があると睨んでおられるのでしょうか。
長島:いえ、率直に申し上げて、あまり具体的な政界再編や新党の構想があるわけではないのです。いろんなお声がけはありますが、選挙のためにくっついたり離れたりする野党共闘で民進党が大丈夫なのか、という有権者の皆様や自分自身の考え方に忠実に従って熟慮したうえでのことだということです。
山本:そうなんですね。それこそ、地域政党として名乗りを上げようという「都民ファーストの会」が旗揚げする都議選前を選んだのかと最初は思ったんですが。
長島:むしろ、そういう政局に類する状況ではなく、政策本位で考えた結果です。
現時点での私の目標は、とにかく次の選挙で、小選挙区で勝ち上がるということ。政治家として、みなさんに選んでいただけるように努めるということ。かつて支持してくれた、そしていま支持してくれている方たちに、応えたいと思っています。
山本:ほ、ほんとにピュアに離党されたんですね(震え声
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