北朝鮮情勢の緊迫化について、左翼界隈が静かである件
いままで沖縄の在日米軍基地建設や移転反対を主張してきた左翼陣営ですが、いざ北朝鮮有事が起きそうだというときにあまり存在感がないのは何故なのでしょうか。
山本一郎です。ほんのりサイバーセキュリティ方面に足を突っ込んでおりますと、今回のように北朝鮮問題が非常に緊迫化していく過程で非常にセンシティブな状況が見え隠れするのが気になります。今回のアメリカ・ペンス副大統領の来日と安倍晋三首相との対談では日米韓が連携して北朝鮮問題での歩調を合わせることで強く合意に至るなど、万が一に備えた神経質な動きに拍車がかかってきています。
日米同盟を安全保障の中核に置きつつ、日本の安全を同盟国とともに守るという考え方が基軸にある以上、地理的には九州が日本の最前線となり、在日米軍が北朝鮮に有事があったときに行われる作戦の主たる役割を担うことに相違はありません。安倍首相は(実質はどうであれ)現トランプ政権との良好そうな関係を背景に、日本の国益と日本人の生命・財産の安全をどう守るのか、対応を進めていると思われます。アメリカが何らかの作戦を行う場合は、日本に事前に連絡するという確約も取り付け、何か発生した際にこれがきちんと履行されるのかどうか、一人の日本人として固唾をのんで見守る他ありません。
北朝鮮を巡る話し合いはアメリカ・中国間で込み入った内容まで踏み込まれているようですが、中国が北朝鮮の若き独裁者・金正恩に対し亡命を説得しているとか、北朝鮮が挑発的な言動を行った場合にアメリカが実力行使しても中国は黙認するなどの情報が乱舞しています。マレーシアでの金正男殺害事件以降、北朝鮮を巡る動きは以前のような米中対立の中の緩衝材としての朝鮮半島という立ち位置から米中同調の上での共同管理の方向へ向かう可能性も否定できなくなっていくでしょう。
一方で、我が国の国内事情に目を転じると、もともと在日米軍に関する国内議論はもっぱら負担の大きい沖縄にフォーカスされてきたきらいはあります。これが、沖縄県民有志による土着の反基地活動に、日本全国にいる反米・反自民を旗頭とする左派活動家たちが合流し、高江ヘリパッド建設や基地移転も含めた賛成論・反対論が日本の安全保障体制の主な議論であり続けました。これは、ヤフーニュース個人においても志葉玲さんらが精力的に発信を行ってきていて、今回の北朝鮮問題でも見解を示すなど、何を目的としてどこを妥協点にするべきかを考えるうえでは重要な示唆を与えているものであると感じます。
【北朝鮮危機】最大のリスクは在日米軍!米艦隊と海自共同訓練、地雷原に自ら飛び込む安倍政権の愚(志葉玲 Y!ニュース 17/4/14)
:お話、ごもっともであります。賛同するかどうかはともかく、主張は理解できます。
〇日本の安全を第一にせよ
日本の市民の命を最優先に考えるなら、トランプの危険な「米国第一主義」に、歯止めをかけることこそが、日本政府がまずやるべきことである。それでも、米国が日本はじめ周辺国のリスクを考えずに対北朝鮮攻撃を止めないというのであれば、いっそのこと、日米地位協定の全面的な見直しと、日本が具体的に攻撃されない限り中立の立場を貫くことを宣言したら良いのかもしれない。今回の危機は、あくまで米国VS北朝鮮という対立構造であり、日本がしゃしゃり出て何も良いことはない。だが、残念なことに、安倍政権はどこまでも対米追従を続けるようだ。北朝鮮周辺に向かっている米国の原子力カール・ビンソンに海上自衛隊が合流、あろうことか、この緊迫した情勢下で、共同訓練を行うのだという。つまり、米国VS北朝鮮という対立構図の中にわざわざ踏み込んで、北朝鮮側を挑発するようなものだ。まるで、地雷原に自ら飛び込むような愚行は、ただちに中止されるべきだろう。
この場合、日本の安全を第一にしたとき、在日アメリカ軍の存在、ひいては日米同盟による安保体制に対する是非に議論が収斂していきます。つまり、日本の安全を第一に考えるのは日本人として当然として、その安全を確保するためにアメリカ軍との協調は必要か、という本質論に有事を前にしてようやく戻ってきたとも言えます。
一方で、沖縄での基地建設や移転問題であれだけ騒いでいる日本の左翼勢力が、目の前に降って湧いた北朝鮮情勢についてはとても静かなのは気がかりです。確かに、志葉玲さんが指摘する通り今回の一連の緊張激化は「あくまで米国VS北朝鮮という対立構造」であることは間違いないのですが、ミサイル試験発射や地下核実験、あるいは第三国であるマレーシアでの金正男暗殺など挑発行為を繰り返してきたという咎は北朝鮮にもあります。本当に日本の安全を考えたときに、まず最初に「危ないから核実験を取りやめるべき」といった内容での批判対象は北朝鮮も含まれるはずです。
あるいは、緊張緩和のために北朝鮮経済を維持する支援を続けてきた中国に対しても、本来であれば何らかの言及を日本の安全のためにしなければならないはずです。ところが、実際には北朝鮮情勢を説明するパラメータとしてのみ中国を取り上げるだけで、日本の安全を脅かす北朝鮮や中国に対する議論や批判がついぞ日本の左派勢力から見られないのは何故なのでしょうか。
かくいう私もトランプ政権が行う北朝鮮への苛烈なプレッシャーはむしろ北朝鮮の暴発を促して、より悪い結果をもたらすだけなのではないかと思います。また、北朝鮮に具体的な軍事活動をした蔡に少なくない返り血をアメリカ軍、韓国軍、そして我が自衛隊が被るのだとすれば、これはこれで世論はもたないかもしれません。あらゆるオプションが考えられる中で、戦争は本当に下策です。日本の取るべき政策は、本来は「戦争を起こさせない」ことが第一にあるとも思います。
先日も、左翼系知識人の津田大介さんがパーソナリティを務めるラジオ番組で北朝鮮を取り上げていましたが、具体的な主張があるわけでもなく、単純に有識者による状況の解説を行うのみで終わってしまいました。他のメディアにおいても、連日のように北朝鮮問題について緊迫しているニュースは繰り返し報じられてきていますが、本来の左翼、リベラル陣営が存在感をもたないのは気になります。沖縄であれだけ活動していながら、いざ北朝鮮で何事かあったときに、当事者である北朝鮮やその後ろ盾でやってきた中国の外交政策の失敗について触れられないのは、とても奇異なことです。
引き続き北朝鮮が現状維持であるべきかや、平和を守るために日本がどのような活動をするべきかを本来であれば議論するべきところです。しかしながら、本当の危機が発生したときにアメリカだけでなく北朝鮮や中国の妄動も指摘して戦争をどうにかして回避する言論どころか、逆に静かになってしまうのは何故なのでしょうか。「中国は責任もって北朝鮮の冒険的軍事活動を控えさせろ」と中国大使館前でデモをする左翼活動家とか一人もいません。日本にとって平和第一なのは間違いないとして、トランプ大統領のアメリカはもちろん、北朝鮮も中国も同様に批判されるべきなのです。
北朝鮮をシリアのような状況にしてはならないし、北朝鮮の体制崩壊で望まれない難民が大量に発生するようなことは何としても日本は避けなければなりません。沖縄で座り込みやっている活動家はなぜ、平壌で人間の盾になろうとしないのでしょう。戦争を避けるために日本に何ができるかは、もっと冷静に、真剣に考えて行動して然るべきなのではないかと思うのですが。