無縫地帯

スマホアプリ「KOF '98」で深刻なトラブルが発生

SNK社の人気タイトルを使ったスマホ版「KOF '98」で、ガチャ確率表記通りにキャラが排出されない問題が勃発してユーザーが運営会社を提訴しましたが、実態に問題があることが分かりました。

山本一郎です。界隈ではすでに深刻な問題に発展しつつありますが、SNKプレイモアの人気格闘ゲーム「キングオブファイターズ(以下、KOF)」シリーズのスマートフォン版アプリでキャラクターの排出確率が実際と異なる件で、ユーザーが返金を求める訴訟をアプリ運営会社である中国・OURPLAM社と日本法人および代表者に対して提起することになってしまいました。

経緯については、私もメルマガに書いたり、ねとらぼ、ゲームキャストが記事にされていますが、どうも事態はさらに深刻な状態になってきているようです。

人間迷路【号外】スマホ版「KOF '98」返金訴訟とサービス運営会社CTW社の謎』―夜間飛行
スマホ版「KOF」景表法違反の疑いで訴訟問題に発展かさらに特商法違反も発覚 - (ねとらぼ 17/2/26)
『KOF98』のスマホゲーム、特商法違反に続き個人情報保護法違反の疑い。運営会社を中国に修正 - (ゲームキャスト iPhone 17/3/31)

トラブルの原因については、今回訴訟を提起したTomasさんが自身のブログにも書いておられますが、この内容やねとらぼでの記事に対して、運営会社を名乗るCTW社代表取締役の佐々木龍一さんが記事の撤回と損害賠償を求めるメールをTomasさんに送り付ける事態となりました。

KOF98 UM OL 運営会社相手に訴訟を起こした話(ふぁんふぁーれ!17/2/28)

実際、当初Tomasさんが訴訟を提起しようとApple Storeにデベロッパーとして登録されている「KOF '98」の運営会社OURPALM社の住所に訴状を送ったところ、訴状が届かなかったため、代表取締役である石渡章博さんの個人宅に送達してようやく訴訟が成立したという事例もあるようです。

昨今のオンラインゲームと仮処分・裁判については、それなりに温度感が上がってきているという現状はあります。本件も当然のことながら業界全体に対して良い影響は与えないと思われます。

ソーシャルゲームで再び吹き荒れる”返金仮処分”とその実情(デイリーニュースオンライン 17/3/29)

そうなると、オンラインゲームを含む通信販売を日本国内で営む際に必要な特定商取引法上の記載に虚偽があったということになりますので、このスマホアプリ「KOF '98」はどういう運営実態なのかという話になります。

実際、App Storeから「KOF '98」のデベロッパーwebサイトに行こうとすると、なぜかTwitterの「KOF '98」公式アカウントページに飛んでしまいます。その先に法人ページがあるのですが、そこにはホームページ上の住所が実は間違っていましたという修正のコメントが書かれています。

OURPALM株式会社 ホームページ一部の記載修正について


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■ホームページ一部の記載修正について
ホームページに一部の誤記載が原因の為、ユーザー様が正しく弊社にご連絡できない問題が確認されております、本件に関しまして、多大なご迷惑をおかけしてしまい、心よりお詫び申し上げます。
誤記載の内容は現在修正されています。

なお、従前「特定商取引法に基づく表記」のページにおいて、「事業者OURPALM株式会社」、「代表者石渡章博」、「会社所在地〒106-0032東京都港区六本木1-9-10」と記載されておりましたが、同社は、当社とは何ら資本関係・取引関係のない会社です。関係者の皆様には、多大なるご迷惑をおかけいたしました。
本件に関しましてまことに申し訳なく深くお詫び申し上げます。
ところが、WHOIS情報を見るとそもそもこの公式サイト自体が「資本関係・取引関係のない会社」であるはずの「事業者OURPALM株式会社」、「代表者石渡章博」によって取得され現在もなお運営されており、取引関係がないとは言えない状態になっています。もしも本当に中国法人OURPALM社がこの「KOF '98」を運営しているとするならば、Appleに対するデベロッパー登録も、特定商取引法も虚偽の内容であったことになってしまいます。

興味深いのは、このCTW社についての実名はTomasさんはもちろん、ねとらぼの記事には一切入っていないにもかかわらず、佐々木龍一さんが突然ご自身の名義で(通常であれば代理人を通して通達するもの)連絡を入れてこられたというところにあります。

[[image:image01|center|ほぼ恫喝ともとれる内容だが、誰もCTW社のサービスとはこの時点では書いてなかった]]

しかも、Tomasさんが発表したブログによって損害が生じたとされるサービスをCTW社が運営しているとは外からは全く分かりません。それなのに、CTW社佐々木さんから営業妨害による損害賠償を求めてくるというのは謎です。実際にはOURPALM日本法人はダミー会社で、「KOF '98」はCTW社が運営しているというのが佐々木さんの主張になるのでしょうか。

このCTW社については、すでに情報サイト「アップトーキョー」が過去に「中華ブーストを行いApp Storeでランキング不正を行っている会社」であるとして記事にしています。

「国内ブーストのおよそ半額」AppStore無料総合1位「THEトイレ我慢」のCTWさんに直接聞いてみた。(アップトーキョー 15/5/8)

これら一連の事情から、元GMOのアジア広告部隊やアメリカでのAndroid向けゲームプラットフォーム事業などを担当した人物らがスピンアウトして設立したCTW社は、もともと中国のブーストサービス(ただしApple Storeのガイドライン違反)を日本で販売する代理店をやっており、過去にgNetop社など中国系ゲームを日本にローカライズする事業などにも手を出してきたもののヒット作には恵まれず、最近になって「KOF」版権を持つSNKプレイモア社が中国系企業に買収され中国本土で人気だということもあってサービス運営元としての権利を獲得したのかと推測はされます。

このCTW社も仕事という面では真面目に取り組んでいるのかもしれませんが、問題は特定商取引法だけでなく、残高1,000万円以上の自家ポイント発行を行っている事業者が登録しなければならない資金決済法上の発行者届け出にも「OURPALM社」「CTW社」いずれも入っていません。第三者型のポイント発行も念のために確認しましたが、やはり届け出はありません。

前払式支払手段(自家型)発行者届出事業者一覧(2017年2月28日現在)

つまり、万が一「KOF '98」の運営に問題があって過去に課金したポイントが残っていたとしても、資金決済法上必要とされる供託金も保険契約も行われていないため消費者はまるまる損害を被ることになってしまいます。

問題とされるコンテンツの版権を保有するSNK社も取材に対し「現在のところ、弊社におきましてはコメントをする立場にございません」とのことで、お気の毒としか申し上げようのない状況ではありますが、ただでさえガチャの当たり確率や広告における不実記載による返金トラブルが多発している状況でこういう事例が出るのは業界全体としても良い影響を与えるとはとても思えません。

どうせやるなら適法かつ適切にやればいいのに、せっかく面白いゲームを提供しようとしているんだからと思ってしまうのは私だけでしょうか。