無縫地帯

公衆無線LANサービスをまとめて使えるアプリが醸し出す微妙なフリーライド感は有りや無しや

公衆に提供されている無料wi-fiを利用する層が若者を中心に増えてきていますが、一方で自動でこれらを繋いでくれるタダ乗りアプリが出回り、どの辺が適正なのか議論が沸き起こっているようです。

山本一郎です。ちょっとコアなネタを一つ。

公衆無線LANサービスというのはそれほど新しいものではありません。しかし、スマホが普及することで一般ユーザーもストリーミング動画などデータ容量の大きなファイルをモバイル環境で常時利用するのが当たり前となりつつある一方で、キャリア側は定額契約におけるデータ通信のパケット上限を厳密に設定するようになったため、通信パケットにかかるコストを極力節約したいユーザー層において公衆無線LANへの需要がここ最近改めて高まっています。いわゆる「パケ死」や「7Gの壁」は主に若いユーザーにとって重要なもので、わざわざ大きいファイルを落としに行くために公衆無線LANを使う層というのは都会でも田舎でも一般化して、無視できないマーケットボリュームを持つようになりました。

本来であれば、こうした公衆無線LANサービスはユーザー本人がサービサー毎と契約を交わすことで利用を開始すべきものです。またサービサー毎に接続の切り替えなどもユーザー側がその都度設定する必要があります。そうした契約や設定の切り替えが面倒と考える人は少なくなく、そうした需要に対応して複数サービスをまとめて代行契約して設定を自動切り替えできるアプリを提供する事業者が現れてきました。しかし、こうしたアプリは本来のエンドユーザーと公衆無線LANサービス提供事業者で交わされるべき契約を反故にしている可能性が高いわけです。事実、それが問題視されて以下のような事態が起きました。

セブンの公衆無線LAN「7SPOT」、タウンWiFiの接続を遮断「規約無視は問題」(ITmedia 16/10/20)

「基本的に、規約を飛ばして接続されるようだ。規約を読まず、会員登録も経ずに、勝手につながれると問題。接続の安全性も担保できない」と考え、タウンWiFiからの接続を遮断したと、同社の広報担当者は話す。「タウンWiFiから直接、接続の交渉も受けていない」という。:ITmedia|http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1610/20/news114.html
なるほど。公衆無線LANサービス提供事業者側に無断である時点で単なるフリーライドという印象が拭えませんが、記事を読むとアプリ提供側はあまりそういう認識はないようで不思議な感じではありました。

各サービスへの接続を、事前に交渉せずに行っているのは、「独自の仕組みで接続しているわけではなく、ユーザーが接続するのをサポートするサービスなので、回線提供者の承認は不要だと考えている」ためという。:ITmedia|http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1610/20/news114.html
さらに、この7SPOTからの接続拒否という事態に対して、アプリ提供者があまり行儀の良くないTwitter利用をやらかしてしまったのも印象深いです。

「利用者の声の見える化をしたかった」街中のWi-Fiに接続できる「タウンWiFi」の大量リプライ騒動(ITmedia 16/10/20)

セブン-イレブン・ジャパン公式アカウントに対し、スパム的リプライが大量に届いたITmedia
なお、当時の同アプリについては以下のような指摘もあります。

10/20追記Japan connected-free wifiはNTTの子会社が運営しており各フリーwifiと連携していますが、タウンWIFIはWIFI事業者と交渉して提携しているかのような文言を使っていたにも関わらず、実は必ずしもWIFI提供側と契約しているわけでないことが発覚し問題となっています。もふもふ安心毛布
その後、7SPOTとタウンWiFiの間にはなんらかの和解があったようです。

「タウンWiFi」仕様変更、「7SPOT」接続可能にWi-Fi事業者が「接続自動化レベル」選べる機能追加(ITmedia 16/12/22)

こんなことならば、最初から公衆無線LANサービス提供各社とちゃんと事前交渉しておけばと思うわけですが、そういうことをしないで合法・違法を問わず先にやってしまうのがITな感じなのでしょうか。個人的にそういうやり方はあまり感心しないわけですが、そういうのがいけてると思う人達もそれなりにいるのでしょうね。

で、そうした経緯を経つつ改めて件のアプリ提供者がウェブ記事で紹介されておりました。どうにも記事広告くさいノリですがとくに広告やPRである旨は記載されていないのがまた不思議な雰囲気を醸し出しております。

iPhoneの通信料を激安にするアプリ『タウンWiFi』はクロか?シロか?(エイ出版社 17/3/12)

同記事では当該アプリが抱える数々の問題点についてアプリ開発会社CEO自らが答えることで疑問を解消し、最後は「ルールとしてタウンWi-Fiに問題がある部分はないと考える」と宣言しつつ、「感情論として『タダ乗り』であるという批判は残る」というなんだか意味不明の言い訳で終わっています。

この記事に対するネット民の反応を簡単に検索してみたのですが、「便利ならそれで良い」「いちいち規約読まなくて助かる」的な擁護の声が意外と目立つ一方で、やはり批判的な声は少なくありませんでした。まあ、事実上フリーライドされる立場にある各公衆無線LAN提供事業者がこのアプリに対してどう思っているのかその声を一緒に聞かせてほしいというのが率直な感想ではあります。

おそらくこの界隈も、ある種の「大事故」が起きないとなかなか…といったところなのでしょうか。世の常って奴ですね、はい。