近頃携帯キャリアは無料ファストフードで客寄せやってるようですね
携帯電話販売における「実質無料」など報奨金制度が見直しを余儀なくされる携帯通信業界ですが、それに代わる奇手として「牛丼などのファストフードのクーポンをばら撒き合戦」となったあたり、修羅だなと思います。
山本一郎です。若いころはかなり牛丼屋にはお世話になったものの、年を取ると「少しはいいものを食べよう」という流れになり足を向けなくなって久しいのですが、それでも携帯電話利用者の誘引の材料としては有効だったみたいです。総務省からの厳しいお達しによって「実質無料」という謎の文言で顧客を呼び寄せるような商法がじわじわと困難な状況に直面している国内携帯キャリア各社ですが、そこは皆さん達者でして、すぐに別の新しい施策を打ち出してきました。
中でも目を引くのがソフトバンクでして、昔から顧客の心をぐいと引き寄せるのが上手といいますか、世間をお騒がせすることでは他を圧倒しています。
吉野家バイト「想像以上にキツい」SBキャンペーンの余波(J-CASTニュース 16/10/11)
携帯電話サービス開始から10周年を記念したソフトバンクの「スーパーフライデー」キャンペーンの初日で、スマートフォンユーザーなら牛丼並盛380円が1杯無料になった。送られたクーポンメールの画像を見せるだけでよく、吉野家の各店舗は混雑していたようだ。J-CASTニュース牛丼1杯を無料で食べるためにソフトバンクユーザーが長蛇の列をなしたという報告が写真付きでネット上にも多数報告されておりましたが、このソフトバンクのキャンペーンはその後サーティワンアイスクリームやミスタードーナツでも実施され、やはり同じような混乱が生じていたようで、関係各者おつかれさまです。
こういうキャンペーンを実施することでソフトバンクは顧客満足度を高めようという思惑であったのでしょうが、こんな行列しなければいけないような形でファストフードを無料で手に入れて、本当に皆さん満足度が向上したのかは良く分かりません。吉野家に限らず、ファストフードのクーポンで客引きをするのは敢えて低所得層を惹きつけるマーケティングにも感じられるので、なかなか微妙に見えます。ただ、これまでも実質無料という意味不明な言葉でそれなりに効果があったようですから、やはりこの程度でもまずは話題になって利用が増えれば大丈夫なのかもしれません。
とういことで、KDDIもソフトバンクの後を追って類似キャンペーンを開始します。
毎週金曜はマックのポテトが無料! au、SUPER FRIDAY対抗の「auスマートパスプレミアム」発表(Engadget日本版 17/1/11)
auは、自社ユーザー向けの新サービス「auスマートパスプレミアム」の提供を1月20日に開始します。月曜日はTOHOシネマズでの映画鑑賞を1100円に割り引くほか、金曜日はマクドナルドのフライドポテトSサイズが無料になるなど、月曜日から日曜日まで毎日特典を用意します。Engadget日本版KDDIがソフトバンクと異なるのは、KDDIのこのサービスを受けるためには毎月499円の費用が生じるというところ。毎週ポテトを無料でもらえれば元は取れるということなんでしょうか。これも冷静かつ客観的に考えると得なんだかどうだかよく分からないのですが、やはりKDDIユーザーの満足度は向上するのかもしれませんね。「あそこが吉野家なら私のところはマックだ」という同じようなレベルでの戦いになるあたりに侘び寂びを感じます。
で、ソフトバンクとKDDIがこういう展開であると、やはりドコモも黙っていられないということで、しっかりと後追いしてきました。
ドコモも無料クーポン配布へ格安スマホへの流出防ぐ(日本経済新聞 17/1/31)
NTTドコモは31日、25歳以下の契約者にローソンや日本マクドナルドの店で使える無料クーポンの配布を3月に始めると発表した。ソフトバンクとKDDI(au)を含む携帯大手3社が「おまけ」を配る販促策がでそろった。お得感を打ち出して、格安スマートフォン(スマホ)への流出を防ぐ。日本経済新聞ドコモの場合は他社よりも条件が厳しく25歳以下の契約者で「学割サービス」加入者が条件となっているのが特徴で、まさにドコモらしい采配と見えなくもありません。手堅いドコモらしさの表れとでも申しましょうか。
こうした施策を実施する各社の思惑はどこも同じとみられ、おそらくは日経が分析するように「お得感を前面に出してスマホの通信料が高いとの批判をかわす狙い」があるのでしょう。
ドコモが一番分かりやすいのですが、今回の各キャリアにとってもっとも確保したいユーザーはたぶん若年層ということなんでしょう。さすがにいい歳をした大人のユーザーに牛丼やポテトが無料といっても有効な客寄せになるかは疑問です(中にはそういうのが大好きな年長の御仁がいることは十分知っておりますが)。
若いユーザーであればあるほど可処分所得は低いはずですから、携帯電話利用に派生するコストについても敏感にならざるを得ません。また、ガラケー時代から各キャリアがこれまで苦労して培って来たブランドイメージに左右されることも少ないでしょうし、MVNOやSIMロックフリースマホに対しても変な先入観がなくフラットに評価できそうです。そういう世代のユーザーが増えつつある状況に脅威を感じたキャリア各社が、なんとかして若い人達に訴求したいとうことから、今のような展開になっているのだと推測できます。しかし、先の日経の記事でも指摘されていたのですが「大手のスマホの通信料は月6千~8千円と格安スマホの2倍を超えることが多い。消費者からはクーポンよりも値下げを求める声が出る可能性もある」ことは否めません。はたして無料ファストフードみたいなものでキャリアブランドへの好感度や顧客満足度を高めて長期利用してくれるようなユーザーロイヤリティを築けるのかどうか、今後の展開を暖かく見守りたいと思います。
なお、スマホで通信料が高くなる傾向が強まる一方、格安スマホを引っ提げるMVNOはそれなりに好調のようです。IIJの佐々木太志さんがそのカラクリを解説をしてくれています。
MVNOの深イイ話:「格安SIM」はなぜ安いのか? (ITmedia Mobile 15/10/15)
しなしながら、そのような低価格スマホがドコモ、auの回線を借りて実現できる事業者がいるということは、ドコモやauも自前で通信をあまり使わないユーザー向けの価格体系を用意できるはずで、冒頭に述べた携帯電話販売における報奨金や、都市部一等地にあるキャリアごとの携帯電話販売ショップといった販管費がごっそり高い通信費に乗っかっているとも言えます。
適正な競争とは何かという命題は永遠のものかもしれませんが、通信費の高騰や販売方法に対する批判の回避策としてファストフードのクーポンをばら撒いてやりすごすというのは、信長の野望的に言えば下がった民忠誠度を回復させるためにお米施して体裁を整えるという雰囲気もします。
取り組むべきことはそこじゃないんじゃないのという感じもしますが、皆さん引き続き頑張ってください。