無縫地帯

ユニクロ・柳井正会長はモノの言い方を考えないのか

アパレル大手「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングの柳井正会長の面白発言が止まりません。一部正論ではありながら、経済、経営の価値観でのみ語る姿勢に違和感を強く覚えます。

山本一郎です。ちと事情あってビールをジョッキ二杯速飲みしてから走って帰宅したところ気分が悪くなりました。

ところで、最近アパレル大手「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングの柳井正会長の発言がとどまるところを知りません。もちろん、ユニクロの超絶勤務に対するブラック企業批判に対して真正面から応えたもので、原理原則を貫く柳井会長らしい物言いは良くも悪くも物議を醸しております。

甘やかして、世界で勝てるのかファーストリテイリング・柳井正会長が若手教育について語る(日経ビジネス)
「年収100万円も仕方ない」ユニクロ柳井会長に聞く(朝日新聞)

いや、まさかこんなことを文字通りの意味では言っていないだろうと思っていたんですが、どうやら本当にこのように発言しているようです。

困りました。何が困るって、いままで様々なブラック企業経営者とされる人物はおりましたけれども、どこか救いを残したり、社会に対して何らかのエクスキューズの幅を持たせる方法を取っていました。

例えば、一部で経営の神様と崇められている京セラ、KDDIから不振の日本航空を見事復活させた稲盛和夫さん。あるいは、日本電産の永守重信さん。猛烈な働き方を社員に求めつつも、バランスの取れた働き方や家族的経営の側面も残して社員を追い詰めすぎないようにしている節があります。

ところが、柳井さんの一連のインタビューは、世間的なイメージとしてのブラック企業・ユニクロを追認するような、苛烈な内容でした。3年で半分近い新卒が辞めていく職場であり、大量採用した社員の半分は20代中盤ですでに一度退職の憂き目に遭うということでもあるわけですね。

大丈夫なのでしょうか。

2年程前には、ファーストリテイリング株をオランダのファンドに売却するという話が出て、これまた騒ぎになっております。

531万株を海外へ売却ユニクロ柳井社長の「狙い」(現代ビジネス)

クロス取引をやって節税を行うために海外に株式を投げて配当への課税を減らすというのは、結構ポピュラーな方法ではありますし、基本的には企業としては利益を出して法人税を納税した後の資金が配当に回されるという意味において必ずしも脱税批判をする性質のものではないとは思います。

ただし、いわゆる「金持ちの流儀」を貫き通すその方法がいちいち搾取を思わせる言動とセットになっているのは、まさに鳴きすぎた雉のようにも感じられます。日本社会の価値観に対する挑戦とも言えます。というのは、世界共通賃金という概念は経営方針だから構わないとしても、日本人が日本の店で働いて日本人相手に商売をすることが、どうして東南アジアの人々と同一の賃金で経営されることになるのか理解できないというのがひとつ。いまひとつが、確かにファーストリテイリングは優れた経営で成長し素晴らしい利益率を上げているのは分かるけれども、日本人が甘えていて「変わらなければ死ぬ、と社員にもいっている」のはその会社単体の問題意識であって、もう少し言い方があるだろうとも思うわけです。単なる一企業としてのファーストリテイリングの取り組みを、まるで日本人全体の問題であるかのように語るのはおかしい。

私個人としては、これは柳さん、日本社会に喧嘩を売ったなあ、と感じるのです。これから日本人がワークライフバランスも考えなければならない、仕事のシェアリングも意識しながら若者の社会参画を促そうというところで、ブラック企業そのものの金満体質を隠さず披露するなどというのは社会からの報復も恐れないということであろうかと。

もちろん議論喚起のために年俸100万円で働くという言い方をしたのでしょうが、最低賃金を下回るような労働環境になることを示唆する発言が好意的に受け入れられる余地は乏しいと思います。確かに世界的な競争の中に日本も入っていくのは間違いないにせよ、それが正論だとしても日本経済には長年日本人が積み上げてきた蓄積があり、それを無視してフローとしての所得のところだけ海外の労働者と同じ水準にするのだというのは無理があります。そもそも、それが正しい評論であり、いずれは労働者の賃金は引き下げ圧力を受けて下がっていくのだとしても、それは労働者にとっての甘えの問題なのでしょうか。労働者が無原則に競争に晒されすぎないように歯止めをかけるのが最低賃金も含めた社会の仕組みだろうと思うのです。100万円の所得しかなければ、共働きであったとしても日本で暮らしていけません。それは、たとえ海外の労働者が100万以下で働くのだとしても、日本で暮らすからにはその所得では「いまは」やっていけないでしょう。東南アジアから日本のユニクロに働きに来る人と同じ給料なのだ、としても、その東南アジアの人たちが100万では日本で暮らしていけないのです。

起業家マインドを持つ以上、お金に対して執着するなというのは無理があるわけですけれども、お金を持つ人には持つ人としての社会的責任や倫理観といったものも同時に求められているのは言うまでもありません。同じことを言うにも言い方があるでしょうし、これでブラック企業批判はより一層高まるでしょうね。それは、対ファーストリテイリングというだけでなく、すべての企業、職場において、ブラック体質に対する是正を求める声が広がっていくことでしょう。

タイミングも内容も、実によろしくない発言でありました。まあ、これが号砲となって、真の意味でのブラック企業対策が進めば多少は格差も是正され日本はもう少し住みやすい社会になるのでありましょうか。

このまま本稿が終わると後味悪いので、ネットで拾った面白発言を最後に紹介しておきましょう。

ユニクロ柳井正会長の炎上案件から分かったネット民の正体(2,459字)

同じくネット民からコケにされている岩崎夏海さんという作家の人が、柳井さんの発言の是非は完全に置いておいてネットで叩かれることだけをテーマに擁護するという実にクソな議論を展開していて興味深いわけです。しかも、道中結構頭のおかしそうな文脈を呼び水にしておいて、そこから先が有料メルマガに繋がっていっているという情けなさが最高です。

どうせ擁護するにしても、国際競争力やサービス価格差といったグローバル経済とは何であるかではなく、ネットで批判されることの是非というどうしようもない方面から語るというのは知能指数に問題があるとしか考えられません。よほどネットで叩かれたくないのかもしれませんが、ああいう間抜けなことを書くからいじられているということに何故気づかないのでしょうね。

気の毒すぎて今日もゆっくり寝られそうです。皆様、良い夜を。