無縫地帯

組織の「やらかし」と情報リテラシーの微妙な関係から何を読み解くか

キュレーション騒動から文部科学省の人事データ漏洩事件まで、年末年始を挟んで情報リテラシーとは何かというネタが乱舞しており、今年もこっちの方面が騒ぎになりそうです。

山本一郎です。記事のタイトルだけ読んで分かった気になる派です。

ところで、ネットでニュースを閲覧することが習慣になっている人間にとって「情報リテラシー」というのは絶対に無視することのできない大切な価値観であると思うのですが、普通に社会の中で生きていく上ではそれほど重要ではないかもしれないと感じさせる出来事がありました。

例えば、ネット上で情報を扱う際にトラブルの種となりがちな「引用」についてですが、日本でもっとも成功している事業者の一つであることは間違いないであろうLINEの上級執行役員を務める方が以下のようなコメントをされていて、なるほどなあと妙に感心してしまいました。

「お前が言うな」の声も想定していた――キュレーション騒動を受けてNAVERまとめが新方針を打ち出した理由(TechCrunch 17/1/10)

引用される、されないの定義に関しても、どこの誰かは分からない人に引用されているから権利者は怒るのであって、ネット界隈で有名な人に引用されたら「ありがとうございます」となるのではないでしょうか。TechCrunch
何というか、この「ギリギリ分からなくもないんだけど、そこでそう開き直り方をするのか」という雰囲気はどうしてもしてしまいます。

そもそも引用というのは、有名人にされれば「ありがとうございます」と思わず感謝したくなるほどうれしいものだったんでしょうか。個人的にはこれまで一度もそんなふうに思ったことがありませんでした。もちろん、自分の書いたものや意見が拡散されるという意味では嬉しいですが、なんか剽窃や盗用だとなれば話は別ですから、あんまりそこが混同されるとモノを書く側としては困ります。世の中の人の多くがそう感じているのであれば、文化庁が引用の定義で示している「引用物が主従関係の従になるべき」という見解を逸脱したような行為が横行するNAVERまとめは社会的にはまったく問題ないということになるんでしょうか。

LINEの中の人はさらに踏み込んで検索エンジンのあり方についても問題提起されておられまして、このあたりも2017年の情報リテラシーを考える上でのポイントなのかもしれません。

Googleというと語弊があるのですが、「検索」になりたいんです。コンテンツを必要としている人とコンテンツを持っている人をいかにつなげるか、ということなのです。

一連の騒動で少しだけ違和感があるのは、検索エンジンについてどう考えるかということです。
(中略)
ロボットは良くて、ロボット以外がはダメな理由(まとめが検索サービスと認められない理由)はそもそも何だったのかと。TechCrunch
単なる乱暴なコピペ行為が実は新たなネット検索の礎になるということなのでしょうか。色々と考えさせられます。何かこう、Googleなど検索サービスがコンテンツをキャッシュして適切にユーザーと情報を繋いでいくために必要な技術やリソースだけでなく、思想や行動様式なども合わさって「信頼」なんだろうと考えると、いまそれをNAVERまとめ率いるLINEが言ってしまうというのはモゾモゾするものを感じます。

さて、もう一つの話題は、日本の情報リテラシーの大きな権威であるべき行政府で電子メールの誤送信があったという件。

文科省、人事異動案メール誤送信省内一斉で(日本経済新聞 17/1/10)

同省では年明けからメールシステムが切り替わり、操作に習熟していなかったことが原因とみられる。松野博一文科相は閣議後の記者会見で「チェックが足りなかった。再発防止に努めたい」と話した。日本経済新聞
決して起きてはいけない事が起きてしまったということですが、こうした事故はどこの組織でも起きる可能性はあるわけでして、文科省が提案する今後の再発防止策は国民すべてにとって大きな指針となり得ます。で、どんな対策が出されたかというと、これが本当に素晴らしいものでした。

「今後、機密情報は紙で」文科省のメール誤送信対策に驚きの声、話を聞いてみた(The Huffington Post 17/1/10)

--再発防止策として今後はどのようにされるのでしょうか。

人事情報などの秘密保持を要する情報は、メールを使わないようにして紙や口頭でのやり取りに切り替えます。

--メールから紙にするのは時代遅れでは?という声もありますが…。

秘匿性の高い情報について取り扱うため、現状でできる改善策としては、それが一番良いのではないでしょうか。The Huffington Post
なるほど、やはり大切な情報のやりとりで電子メールなんてものは使ってはいけなかったんですね。もちろん、昨今の機密情報を扱うビジネスにおいては、なるだけファイル類をメールに添付しないで事故を防ぎましょうという流れになっているのは事実です。また、真の意味での機密情報はデータはもちろん手書きメモも残すなという方法論はどこの国、どの社会でもあります。ロシアにいたっては、機密情報保持のために専用タイプライターを作る話もありますし、アメリカの情報部門は伝統的な情報伝達の方法をいまなお堅持しています。

しかしながら、機密と言いつつも日常的に使うであろう人事データが紙に移行してしまうというのはやりすぎではないかと思ったりもします。今回の文科省でのメール誤送信の原因は既に「職員が操作に慣れていなかったこと」だと明らかになっているわけですが、以前もどこぞの庁で協力者名簿が流出してしまう「事故」があったわけですけど、つまりはそんな事故が簡単に起きてしまうようなシステムはダメということです。

なんといいますか、情報リテラシーとは何なのか?今年は色々と大きな契機なんだなあとシミジミ感じ入る次第です。