NPO界隈「税金つかみ取り」休眠口座法案が通りそうな件で
かねてから微妙な雰囲気が漂っていた休眠口座法案が先日衆議院を通過し、近日中に参議院でも審議入りするとのことで、念のため、問題点について再度整理しておきます。
山本一郎です。関係先が大事件を起こしたようで、騒ぎが拡大しているようですが当面こちらには火の粉はかからなさそうな雰囲気です。やれやれ。
ところで、昨年いろいろ書いた懸案の休眠口座活用法案ですが、どうも明日参議院で審議されるとかで、さすがに気になるので再度ピックアップしておきます。
休眠口座の資産を「NPOの社会活動に利用」という謎の仕組みが問題視される件(ヤフーニュース個人山本一郎15/8/4)
休眠口座のように動かない財産がNPOなどの支援を通じて社会的利益に還元されるよと言われれば、確かに錦の御旗としては素晴らしいものではあるのです。ですが、海外の事例と比べてもリスクの大きい「資金が動かない休眠口座を、そのまま預金保険機構を通じ全国に一つしかない指定活用団体に投げる」という雑な運用を目指す法律案ですので、去年と変わらずガバナンスがどこまで効くのか不透明です。
また、国会での議論でも指摘されている通り、年間800億円とも言われる休眠口座の資金は概ね3年以内に四割近く、毎年240億円超が持ち主出現とともに引き出されてしまいます。
しかし、これらのお金は金融機関の管理する休眠口座から預金保険機構経由で指定活用団体を経て資金分配団体に流れていってしまっていますから、結局は税金で補填された金額が持ち主に返されることになります。
それであれば、海外の休眠口座活用法のように、銀行など金融機関や、預金保険機構その他と社会事業家が集まってファンドを作って基礎基金のみを休眠口座から拠出させ、それを国債など適切な商品で運用し、その利益をNPOに分配する、というぐらい、丁寧で慎重なやり方をしたほうが望ましいのではないかと思います。
また、この休眠口座法案で助成されるNPOなどは、以下の活動に従事するもののみが対象となります。
1.子ども及び若者の支援に係る活動
2.日常生活又は社会生活を営む上での困難を有する者の支援に係る活動
3.地域社会における活力の低下その他の社会的に困難な状況に直面している地域の支援に係る活動
4.1~3までに準ずるものとして内閣府令で定める活動
この内容だったら、一度法律が通った後に内閣府令として適当に対象となるNPOを拡充したり、準じるものとして認定したりできてしまいます。常識的には、NPO法で規定されている20分野全部が対象とされるべきではないでしょうか。大多数の実績あるNPOはまじめに取り組んでくれるとは思いますが、さすがにNPO界隈普通にNPO支援法を別枠で作って直接支援したほうがよほど合理的で公平です。
ここで流れていくお金についていうならば、NPOの監査の仕組みも不透明でありまして、最低限、ガバナンスや相互チェックの効く仕組みを作らなければ無駄銭で終わる公算が高くなりますが、あまりその辺の話が衆議院できちんと審議され、議論された節はありません。これらのお金で使われたNPO活動がどのような形で社会に貢献したのかという評価基準も曖昧なまま、NPO支援の美名のもとで国民の財産である口座のお金が動いてしまうのは大変なことです。
そうなりますと、これらの休眠口座を一手に引き受ける活用審議会や指定活用団体の人選においては、従前のNPO活動や、これらの助成活動に関わり合いの深い人物が利益相反することのないよう、法律の規定の中で排除しておく必要があります。しかしながら、現状では「自分たちの有利なように、息のかかった団体にお金を流す」といった事態を止められる仕組みになっていません。
ガバナンスもはっきりしておらず、問題となる使われ方を排除できない仕組みのまま、国民の財産である休眠口座のお金がNPO活動助成の美名のもとで流用されることは避けるべきです。また、休眠口座で発生する資金が、その後に相続などで受取人が名乗り出られたとき、補填するのは預金保険機構からの税金となることを考えると、もう少しきちんと法律に関する審議を行い、社会活動をより円滑たらしめる方法について模索したうえで、本件が海外から「特定のマフィア救済法ではないのか」などと揶揄されないよう誠意をもって取り組んでいっていただきたいと願う次第です。
志はいいんですけどね。