『トランプ大統領』爆誕、”静かなる田舎者たち”がアメリカを変えた日
11月9日に開票された2016年のアメリカ大統領選はドナルド=トランプさんの勝利に終わり、いくつか速報も出ているので「都市部対地方」「理想主義的リベラルの終わり」というところを解説してみました。
山本一郎です。お祭り騒ぎが好きです。
今日11月9日、開票が行われたアメリカ大統領選挙ですが、先ほどドナルド=トランプ陣営が事実上の勝利宣言を行ったとのことです。また、議会選挙も共和党の勝利に終わりまして、アメリカ政治は一風変わった「トランプ大統領」の選出をもって歴史的な転換点を迎えることになりそうです。
すでに各種メディアでは投票結果に対する属性別の内容から「アメリカ人の真意」を知ろうと結果報道を開始すると思われますが、数字だけ見ていきますといろんな統計モデルで事前の投票予測をかいくぐる形で各種調査機関は「ヒラリークリントン女史優勢」を伝えていました。選挙人の予測で80人近い”読み違え”をする調査機関もあったようですが、その背景には”静かなる地方”の地滑り的な共和党支持、または内向き志向を選挙結果からは読み取れます。
[[image:image01|center|トランプ支持は、圧倒的に地方在住。]]
事前予想では「トランプさん支持者はどの政策を支持しているのか」の分析が進んでいたようですが、実際のところ、投票前日に発表された調査結果でもトランプ優勢とみられるこれらの赤い地区でも「クリントン優勢」と見られる箇所が多かったのが特徴です。これらが投票日になって突然トランプさんに2.8%以上の得票の下駄を履かせる事件があったか、と言われるとこれといってないわけで、つまりは「最初からトランプ支持者か、ヒラリー女史に投票をしないことは決めていた」有権者がいた、ということになります。
逆に、ヒラリー女史に投票した人たちが多かった地域は、テキサス州、フロリダ州などを除き、明らかに都市部が中心です。都市に住む穏健なリベラル層がヒラリー女史に投票したのかなと思いきや、政治的コミットの強い人がヒラリー女史を支持し投票の中心になったと判断がつくデータが特になく、現在まだ混沌としています。
ここで強く鼻につくのは、いわゆる「負の支持率」、すなわち「ヒラリー女史を勝たせたくない」有権者対「トランプさんを勝たせたくない」有権者の争いです。まだすべての地区を解析したわけではありませんが、ヒラリー女史を強く支持する層よりも、トランプさんを絶対勝たせたくないと回答する層が都市部に多く、これらのほうがヒラリー支持者よりも固くヒラリー女史に投票する傾向が強く見受けられます。逆もまたしかりです。
そうなると、今回のアメリカの大統領選挙とそれに伴う議会選については、実は壮絶な譲り合い対決なのではないかとさえ感じるところです。選挙中盤でも「トランプさん支持者は強力な反知性主義者ではないか」という中傷が都市部を中心に、またSNSでも盛んに喧伝され、TwitterやFacebookなどでも多数の声が上がり、かなりの部分がクリントン陣営の工作だったと思われますが、実際の地方の得票の流れを見る限り、ほぼ完全に地滑り的にトランプ票になっております。それも、トランプさんを熱烈に支持する層よりもヒラリー女史を嫌う層がトランプさんに投票したようです。ネット系の調査会社でも、政治的発言において有権者のメジャーなスタイルは「トランプさんは好きではないけど」という前置きとなる文節が多数計測されるなど、トランプの過激な姿勢を支持することは留保しつつヒラリー女史を支持しないことを説明する感じの人たちがネットでは多かったのでしょうか。
その点では、トランプさんに投票した人が支持するトランプさんの政策上位に「移民反対」「国際化反対」「普遍的人権への距離感」といった、従来のアメリカのナショナルインタレスト(国益を守るために必要だとされる概念)が入っていることに気がつきます。ある意味で、世界に冠たる経済力と軍事力を持つアメリカを実現する政策に対して、アメリカ国民がNOと言った、という話になります。もしも、これらが本当にトランプ”新”大統領の政策に組み込まれることになるとTPPが批准されないどころか、移民やグローバリズム、人権に関する考え方は大きく後退する政策が打ち出される可能性さえもあります。とりわけ、アメリカの行き過ぎた人権主義、ポリティカルコレクトネスといった概念は、アメリカの地方(田舎)に住む有権者からすると、息苦しく、言いたいことも言えない世の中で、気の合う人たちとだけ地域やネットで交流するという、文字通り分断されるアメリカを体現するようなバックグラウンドになっているのかもしれません。
トランプさんを支持したり、ヒラリー女史を毛嫌いした有権者が選挙を地滑りさせたのは、これらの「繁栄から取り残された白人層」ばかりではありませんが、いままでの理想主義や、ある種の綺麗事に対する地方在住者の圧倒的反乱であった、とも言えましょう。何しろ、選挙人を落としたとはいえカリフォルニア州でもほかの週でも、予測されていたよりもトランプさんに投票していた人の所得は低くありませんでした。
これから多くの論考がこの大統領選を巡って出てくるかと思いますが、どうも直近では、理想を実現しようとした共産主義が行き詰まって
ソビエト連邦が崩壊したのと同じく、異なる立場の人たちを融合しようという理想を掲げて人権やポリティカルコレクトネスを追い求め、世界の標準になろうとしたアメリカのリベラリズムを行き詰まらせてしまったのかもしれません。世界の指導的立場になるために無理な背伸びをするのはやめ、もっと内向きに、現実的な政権運営を求めているのがいまのアメリカ人の有権者の総意のようにも感じられますが、もう二週間ぐらいすると分析も進み、もっともっといろんなことが分かっていくでしょう。
私個人としては、どのような結論であろうとも、民主主義である以上は結果を尊重し、受け入れなければならないと思います。それが良いとか悪いとかではなく、現実として受け止め、それをどのように咀嚼して日本社会が対策を打っていくのか、充分に議論していくべきだろうと考えます。
とりあえず、ロシアとの関係もそこまで劇的に変えられそうにないならば、このアメリカ大統領選の選挙結果で日本国内が解散総選挙なんてことはまずないだろうと思ったりもしますが、まずはトランプ陣営もヒラリー陣営もお疲れ様でした。