無縫地帯

ドコモが(実質)650円の低価格でスマホを投入してきた件

ドコモが19日に発表した冬春モデルの新商品13機種に「MONO」という販売価格650円の格安スマホが出たというので安いMVNOへの流出防止を思う一方、インドで格安スマホがやらかしたのを思い出しました。

山本一郎です。名前は単調ですが、中身は複雑です。

ところで近年、経済的な理由からスマホの普及が困難な市場、とくに新興国向けに10ドルを切るような低価格でスマホを販売するアイディアが検討され、実際にインドではそうしたビジネス展開も開始されました。しかし、そうした試みが諸手をあげて皆から歓迎されたかというとそうではなかったようです。

インドの世界最安420円スマホ販売大手メーカーは「不可能だ」と猛反発(産経ニュース 16/2/19)

国内外の既存メーカーが加盟するインド携帯電話協会は、「この機種を3500ルピー(約5800円)以下で売ることは不可能だ」と指摘。スマホの発表会に当初、閣僚の出席が予定されていたこともあり、政府に懸念を伝えた。協会担当者は産経新聞に「この値段では電池も買えない」と話している。産経ニュース
端末販売ビジネスだけで採算を考えれば成立しない値付けですから、当然のように他の事業者からは文句が出ますよね。単純に経済合理性をそこでだけ実現させるならば、それこそ牛丼の安売り競争のように「価格破壊」をすることはできます。ただ、持続可能性とか業界全体の安定性といった物事を加味すると、一時的な安値競争が業界全体の疲弊を産み、適切な利益を生み出せない過当競争を引き起こす可能性もあるわけですから悩ましいところです。

実際、この低価格スマホメーカーは将来的に政府から支援を受けるという目論見の元、赤字スタートであることを公言していたわけですが、予約開始から2日間で5000万台の予約受注に対して初回250万台の出荷を4月に約束していながら果たせず、さらに改めて設定された6月末の出荷予定日にも遅れ、7月になってからようやく5000台だけが市場に出たようです。なお、同社へのインド政府からの支援の目処は無いままで、先払いした人々への残りの出荷も未定ということで、半ば詐欺のような状態になっています。

インドの激安スマートフォンFreedom 251の出荷が始まる。ただし初期出荷は5,000台(スラド 16/7/10)

こういう話を見ると、やはり10ドルを切るような低価格スマホを実現するのはなかなかむつかしいものだなと思うわけです。政府補助を当て込んで盛大に営業をかけておきながら、その政府に実質的に梯子を外されるというのは凄いなインドって率直に感じます。

で、そういう世界スマホ市場のあれこれを見ていたところが、なんと驚くことに我らがドコモが「650円」という10ドルを切る価格設定でのスマホを国内市場に投入するというではありませんか。

ドコモが格安スマホ潰しの“秘密兵器”投入価格650円のオリジナル機種「MONO」(産経ニュース 16/10/19)

NTTドコモは19日、今月末から来年3月にかけて発売する冬春モデルの新商品13機種を発表した。この中で異彩を放つのが、「初のドコモオリジナルブランドのスマホ」をうたう「MONO(モノ)」だ。販売価格は約650円。格安スマホに対抗する“秘密兵器”として市場に送り込む。産経ニュース
まったく秘されておらずどちらかといえば声高に喧伝されているのに“秘密兵器”とはこれ如何に。それはさておき、こうした端末を投入してきたドコモの思惑がどこにあるのかは以下の記事などが参考になりそうです。

ドコモ吉澤社長、16冬~17年春新機種発表会での囲み取材一問一答(ケータイWatch 16/10/19)

価格としては非常に安いというところを実現し、お客さまにもベーシックに使っていただける。
(中略)
全体として利益がでるようにしている。
(中略)
FeliCaは当然載せていないし、ワンセグもない。画面のサイズなどからも、他のスマートフォンを望まれる方が多いと思う。ケータイWatch
端末単体では儲からずとも、こうした低価格モデルがあることは客寄せになるし、通信料や付加サービス利用料などの増収を見込めばトータルで十分商売になると、5月から新たに社長へ就任した吉澤和弘さんは答えているように見えます。さすがに天下のドコモのことですから、インドの格安スマホみたいに予約だけ集めて製品は出ませんみたいな顛末はあり得ないでしょうからそこは安心できるとは思います。また、端末そのものの作りもネット上の記事などを見る限りチープではない印象です。

一括648円、ドコモ初のオリジナルスマホ「MONO MO-01J」フォトレビュー(携帯総合研究所 16/10/19)

ちなみに、この格安スマホの価格ですが、当然ではありますが素でこの数字が出ているわけではない点は要注意です。

ドコモが650円の独自スマホ投入、スマホシフト後押し(ロイター 16/10/19)

1年間の利用を条件とした端末購入サポートに加入すると、一括650円程度で購入できる。
(中略)
端末購入サポートに加入しない場合は、3万円程度となる。ロイター
この条件で端末購入サポートに加入しない人がいるのはあまり想定しにくいですが。なお、1年以内に機種変もしくは解約すると1万5876円の解除料が発生するという情報もありまして、そうするとサポートに加入しない場合の3万円程度という数字との差額がどこに消えるのかは気になるところです。

また、1年間の利用が条件ということはドコモの回線契約に付随する諸費用も1年分が必要ということは言うまでもありません。端末代金を無視すれば、月額で発生する料金はMVNO事業者が提供するいわゆる格安回線サービスと比較して数倍のコストになることが見積もれますから、トータルに計算すれば必ずしも破格に安く済む話ではないことも知っておくべきでしょう。ある意味で、端末ごとレ点商法みたいにも見えますし、価格優位でごっそりMVNOにライトユーザーがシフトしてしまう前に、目玉となる低価格機で食い止めたいということなんでしょうか。

まあ、本当に激安でいきたい人は、数年後にこのドコモの格安スマホが型落ちになって投げ売りされるのを狙っていたりするのかもしれないですね。手間に見合うほどの機能があるのかどうかは別として。個人的には、一人のドコモユーザー(ただし通話用ガラケー使い)としてTizenともども期待しております。