無縫地帯

AIベースのサービスが海外で進めば進むほど日本への導入が遅れるジレンマ

先日5日に実施されたGoogleの製品発表会では、新しいAndroid スマートフォンなどハードウェアのほかにAI機能を活用した新サービス「Google Assistant」も打ち出しました。

山本一郎です。昨日、人生何度目かの痛風の発作が出まして、鼓動とともに脈打つ痛みを放つ左足をさすりながら「これが…生きている証…」みたいなことを薄れた意識で口走る程度にはまだ少年です。

ところで先日、GoogleがAndroidスマホをはじめとして、いくつかの新しいハードウェア製品を発表しておりました。

グーグル、完全自社製スマホ「Pixel」発表 AI製品群で競合に攻勢(AFP 16/10/5)

そうですか。

改めてリリースや関連ニュースを見直してみると、興味深い現象をいくつか視認することができますが、今回発表された一群の製品においての注目点は、スマホなどにおいてAI機能を活用した新サービス「Googleアシスタント(Google Assistant)」が大々的に導入された点でしょう。

Googleアシスタントは、スマホや家庭用スピーカー兼家電コントローラーなどのデバイスに向かって「OK Google」と声をかけ音声で命令すると、合成音声で受け答えをしつつ最適な情報収集やサービスの提供が実行される仕組みで、AppleのiPhoneやmacOSに搭載される「Siri」と似ていますが、Googleの検索エンジンと連携することでずっと賢いサービスを提供できるというのが売りになっています。

どれだけ賢いのか是非試してみたいと思うのが人情でありますが、残念なことに、このGoogleアシスタントに対応した最新式スマホの「Pixel」や家庭用スピーカー兼家電コントローラー「Google Home」は今のところ日本での発売は未定です。

Googleの新スマホPixel、日本発売は『現時点では未定』。なお製品ページは日本語化済み(Engadget日本版 16/10/5)

Pixelシリーズの一次発売国は米国・英国・カナダ・オーストラリア・ドイツの5か国のみ。
(中略)
Googleの広報担当者に問い合わせたところ、次のような回答をいただきました。「残念ながら日本は発売国には含まれていません。しかしこれはローンチ時点の話で、それ以降は未定となっています」。Engadget日本版
結局未定というのが泣かせるわけですが。

Googleによる新製品発表会全体のニュアンスから考えると、今回の主役はスマホなどのハードウェア製品よりもGoogleアシスタントであった感が強いため、GoogleとしてはこのGoogleアシスタントが使えない国や地域でのハード提供はあり得ないという可能性は十分ありそうです。海外の記事ですが、今回のGoogleアシスタントの導入は同社のビジネスモデルそのものを変革する可能性があり、AppleやAmazonのAI戦略のはるか先を目指しているだろうと論考しています。

Google's Assistant Is More Ambitious Than Siri and Alexa(MIT Technology Review 16/10/4)

We've noted before that Google's move to make Assistant its primary interface could challenge its business model. But more than that, or fending off Alexa and Siri, Google's biggest challenge will be making using Assistant as attractive and easy as its executives made it look on stage.MIT Technology Review
じゃあ、AppleはSiriを日本語でも提供しているのとはどこが違うのかという話にもなるわけですが、Siriは不正確な情報を伝えてきても一種の「遊び」として割切って受け入れられている現状がある中で、Googleはそういう人工無脳的な使われ方を望んでおらず、実際に「使える」サービスを提供したいと考えているのではないでしょうか。まあ、AppleもMacプラットフォームへ導入したことから考えて脱人工無脳を目指しているのでしょうが、Googleは一気に実用レベルまで踏み込んできた印象はあります。

今後、こうしたAIを基軸にしてハードとサービスを融合させたスマートな製品が数多く市場に出てくることは間違いありませんが、日本への導入においてはローカライズという大きな課題が残されることになりそうです。AIの性能が向上しリアルな人間と同じようなきめ細やかな対応が可能になればなるほど、言語や社会・文化の違いは大きな障壁となり、世界共通でのサービス提供は困難になっていくことでしょう。

このあたりのむつかしさは、自動翻訳が一昔前に比べればかなり使えるようになった一方で、微妙なニュアンスを伝えるような翻訳をしたければなんだかんだでまだ人の力に頼らなければ困ると思わせることから想像できるのではないかと思います。

Googleがどこまで完成されたサービスを目指しているのか分かりませんが、日本でGoogleアシスタントが提供されるにはまだしばらく時間が必要なのではないかと予想されます。

むしろ、この構想をヒントにしながら、日本独自のソフトウェアでも開発する会社が出てこないものかと思うところではあるんですが。