ネットに国境線が引かれる時代はやって来るのか
世界で攻撃が激しくなるサイバー攻撃にまつわる問題が広がっています。
山本一郎です。子供たちの寝相が悪くて国境線のような枕が縦に敷かれておりますが、たまに国境紛争が起こります。
ところで、世界を見わたせばネットへのアクセスに対して様々な形で国家による規制が実施されているという現実があります。規制される理由としては政治的な事情以外にも性風俗コンテンツなどを除外するといったものまで様々です。どの国がどのような規制を実施しているかについては、以下のウェブページなどが参考になるかもしれません。
ネット規制・検閲等を行っている国等の情報(きゃんせVPN 16/1/29)
上記情報を見ると、日本ではサービス提供事業者が自社のサービス提供地域以外からアクセスされることを止めるために色々と規制を実施していることが分かりますが、それは国家レベルでのネット規制とは全く別の話であり、今のところ日本では国家によるネット規制は無いと考えていいでしょう。しかし、過激化するサイバー攻撃の動向を見ていると、将来的に何らかの規制が行われるようになったとしてもあまり驚く話ではないのかなと感じています。
サイバー対策で官民会議東京五輪に向け警視庁(日本経済新聞 16/10/6)
警視庁の山下史雄副総監は「五輪では東京がサイバー攻撃や犯罪の標的になる可能性がある。これまで以上に官民が連携して最新の情勢について情報共有し、協力する体制が必要だ」と話した。日本経済新聞とりあえずは警察庁が音頭を取ってセキュリティーの啓蒙活動を始めるということのようですが、海外からのサイバー攻撃が激しくなれば最終的に一部のアクセスを遮断するといった強攻策に出ざるを得なくなる可能性は皆無ではないと思われます。
このところ報道されるサイバー犯罪事件は国家主導で行われていることを示唆するものが増えています。
米ヤフー、2014年に5億人の情報流出国家関与のハッカー攻撃か(ロイター 16/9/23)
米、サイバー攻撃「ロシアが指揮」公式声明(日本経済新聞 16/10/8)
外国政府機関が発信源=中国からサイバー攻撃か―豪(時事 16/10/12)
さらに、米国政府はロシアからのサイバー攻撃を名指しで指摘するだけにとどまらず、反撃する意志があることを明らかにしています。
ロシアによる政治団体へのハッキング、米が対抗措置を言明(CNN 16/10/12)
米ホワイトハウスは11日、ロシアによる米国の複数の政治団体へのハッキングをめぐり、これに対抗する措置を取る方針を明らかにした。米政府は先週、一連のサイバー攻撃におけるロシア政府の関与を公的に指摘していた。CNNさすがにこの米政府の発言はインパクトがあります。一体どのような形の対抗措置を行うかについて詳細は公にされていませんが、米露間がネットを介して事実上のサイバー紛争状態にあると言えるのかもしれません。
あまりそういう未来がやって来ることを考えたくはないですが、こうした国家間の軋轢がネットの各所で頻繁に起きるようになれば、今以上にネットのアクセス規制が国家レベルで実施されることは間違いありません。日本だけが、無防備に、自由に諸外国からアクセスさせられる仕組みを維持することの意味はどこにあるのか、という話にもなりかねないのです。
最終的にはすべての国家が中国の金楯のようなシステムを導入し、世界のネットはずたずたに分断される事態となるのでしょうか。まさにネットに国境線が引かれるような形となり、そこを通過するためには何らかの許可が必要とされる仕組みが出来上がるのかもしれないですね。今はまだVPNなどを利用して国家間のネットアクセスを迂回することも可能であったりしますが、テクノロジーの進化が規制する方向で加速化すれば、そうした手段も無効となっていくことになります。そこから先は規制する側と規制を逃れようとする側のイタチごっこになるのでしょうが、手軽にネットを使って世界中の情報にアクセスするといった利便性は失われます。
あまり将来を杞憂してもしかたないですが、ここ最近のサイバー事件のありようを見ていると、インターネットで世界につながるという今の状況を後から振り返るととても幸せな時代だったなということにならないよう願いたいものです。