「玉木雄一郎、民進党代表選をかく戦えり」そして、野党第一党をどう立て直していくのか
民進党代表選に敢然と出馬、蓮舫女史、前原誠司さんには及ばないものの負けてなお存在感を示した玉木雄一郎さんに、「そういえば何で泣いてたの?」とか「民進党をどうしたいんですか」など率直なお話を伺いました。
山本一郎です。「話の分かる保守主義者」を目指していたら、単なるリアリストになってしまいました。
ところで、9月15日の民進党代表選に「第三の男」として敢然と出馬し、凄い勢いで玉砕した一辻の風、衆議院議員の玉木雄一郎さんのお話を伺う機会がありまして、せっかくなので是非ヤフーニュースでご覧いただきたいと思いました。「そういえば、先日の参院選では玉木さんの香川選挙区では野党共闘のお題目の果てに共産党候補が立ってたけど、どんな気持ち?」とか「幹事長代理になってるけどいまの幹事長に就任した野田佳彦前首相ってどうせ仕事しないだろうし左派から信頼マイナスだろうから全部玉木さんが働かなきゃいけないんじゃないの?」みたいな穏やかな笑いに包まれた質問の全容は一部差し障りがあるのでヤフーニュース有料記事や私のメルマガのほうで近日公開の予定です。
ただ、玉木雄一郎さんはご経歴や立場の輝きよりも、私個人としては裏表のない真摯な政治姿勢に価値を見出す人物だと思っています。いわゆる自民党政治のアンチテーゼに凝り固まった野党政治家のスタイルよりも、官僚として自民政治の現場を見てきた玉木さんならではの是々非々で現実的な政治感覚が優れているように思います。また、往々にして「政策のリアル」を欠くことのある民進党の改革に、ひいては日本の議会政治を良くしていこうという遠大な何かを強く感じさせます。個人的には「そういう大きな絵を描ける人が代表選ごときで泣いてんじゃねえよ」と思う一方、民進党の中で国家全体や国民の間のフェアネス、何をもって公正な政治とするかを論じきれる玉木さんの姿勢には深く共感し、感銘する次第です。
ぜひ、ご笑覧賜われますと幸いです。
■民進党は、国民の役に立っていない!
山本:代表選で感極まって泣いちゃってるところすみません。
玉木:感情が高ぶってしまいまして。
山本:「あ、ネタで代表選出たわけじゃなかったんだな」と感じられて、真剣さが伝わり、好印象でしたよ。
玉木:ネタ(笑)民進党を変えないと、という一心で議論してたら、つい。いつも泣いているわけではないですよ。
[[image:image01|right|玉木「衆議院議員に挑戦したときも、同じような質問をされました。どうして?と」]]
◇リベラル保守という立ち位置
山本:まず、玉木さんにお聞きしたいのは、「どうして代表選に出たのか」なんです。玉木さんが代表選に出ると聞いたときに、正直に申し上げて、「思い切られたな」と思ったんです。いきなり出てきて、勝てるわけないでしょう。
玉木:さすがに、いきなりお答えしにくいことを切り込まれますね(笑)。うーん、実は、このような質問を受けるのは、私にとって、「はじめて」ではないんです。10年前に衆議院議員に挑戦したときも、同じような質問をされました。どうして?と。
当時の私は、大蔵省(現・財務省)に勤めていたのですが、行政の側から見ていて、「自民党に対抗する力のある党ができて、緊張感のある政治をしていかないと、日本は良くならない」と思ったんです。
山本:緊張感と言いますと?
玉木:中選挙区制の時代は、自民党内にある各派閥が、それぞれ政党のようなものでした。そこにはやっぱりダイナミズムがあったと思うんです。
でも小選挙区になって、総裁が公認権もお金もすべてを握るようになってから、ガラリと変わってしまった。みんな目を上につけて、上のご機嫌を伺うばかりになった。
山本:中選挙区制は、問題もあったけれども、派閥が政策の優劣を競っていた自民党政治の世界があった。
玉木:それがなくなり、このままではよくないと思ったんです。こんな状態では、バチバチの権力闘争を勝ち抜いてきた習近平やプーチンといった世界の政治家と伍していけるはずがない。自民党の中の派閥がなくなったのであれば、政党同士で緊張感を持って公明正大に競争をする環境を作るしかない。そういう政治環境を作るために民主党から選挙に出たんです。正直、勝算があるかないかといったことは、あまり考えなかった。
今回の代表選では、さすがにもう少しいろんなことを考えていますが、根本的には変わらない。少しでも良い政治環境を作りたい。それが私を突き動かしたという感じです。
山本:勝つかどうかというよりも?
玉木:勝つつもりでしたよ。今回の代表選でも掲げていた言葉なんですが、私は「リベラル保守」政治をやりたいので。
山本:「中道」と言わずに、敢えて「リベラル保守」というのは、不思議な感じがしますね。甘い砂糖と塩味の醤油を混ぜて砂糖醤油にしてみました的な。
玉木:(笑)自分なりには深い表現だと思っています。「中国けしからん」とか、「韓国けしからん」とか、「靖国には行くべきだ」とか、そういう意見と、「保守」という立ち位置は、そもそも関係ないでしょう?
山本:おっしゃる通りです。
玉木:私の考える保守とは、一言で言うと「継続性に対するリスペクト」です。人間がなんでもコントロールできると考えるのはおこがましい。長い歴史の風雪に耐えて残ってきたものは、そのこと自体に意味がある。そういう考え方からすると、権力を預かることになったとしても、「俺が改革をしてやる!」という感覚は、どこか薄っぺらいように感じるんです。そうではなく、「民族や国の長い歴史の中で、たまたま一時、権力を預からせていただいている」という謙虚な気持ちで政治に取り組む。それが本来の「保守」の考えだと私は思うんです。
山本:きわめてオーソドックスなバーク主義的な欧米の保守思想のお考えですね。
玉木:はい。その一方、リベラルについて言えば、本来は個人も企業も、あらゆる抑圧から自由になって、伸び伸びとした発想で縦横無尽に活躍できる社会を目指す。これが「リベラル」という立ち位置だと思います。「権力に対して反対する」ことがリベラルではないんですよ。
山本:その意味では、民進党の中にその「リベラル勢力」と「思想としてのリベラル」を履き違えて反権力に邁進している議員も多そうですね。
玉木:だから、そこはきちんと議論をしていきたい。歴史や伝統を大事にして、「惻隠の情」を持ちながら、一方では新しい挑戦や多様性を受容していく。この「保守」と「リベラル」の2つがミックスされた価値観は、昔の自民党で言えば宏池会にあったのかもしれません。でも、今の政治の中では完全に死滅してしまっているんですよ。
ですから、私は、そうした「リベラル保守」を復活させたい。でも、正直に申し上げて、今の民進党で目の前の仕事をしているだけでは、自分の目指す理想にはたどり着けない。そうした危機感に突き動かされているんです。
山本:確かに今回の代表選の埋没ぶりを見ると、玉木さんがお感じの危機感はとても良く分かる気がします。せっかくの機会でしたのに、民進党とは何だったのかがしっかりと国民に伝わる前に、蓮舫女史の二重国籍問題が前に出てしまったのは残念でした。
ただ、玉木さんは実際に代表選に出馬してみて、手応えはいかがでしたか。
玉木:現在、民進党には、衆議院議員は100人弱、参議院議員は50人程度がいる状態ですから、その中から、代表選に出るための「20人の推薦」を集めるというのは、自民党で言えば60人の推薦を集めるのと同じくらいの重みがある。とくに私は、年齢も下ですから周りは先輩ばかりです。そういう中で20人の議員が推薦を出してくれた。これは、私にとって非常に大きな意味がありました。
山本:同じような危機感を共有する仲間がいたということが、わかったというわけですね。
玉木:そうなんです。幕末における下級武士の集団ではありませんが、同じ危機感を共有する仲間がいるとわかったことは、本当に大きかったですね。
[[image:image02|center|勝てるかどうかわからない戦いに、議員20名の賛同と推薦が集まった。]]
◇何を売っているのかわからない店になっている
山本:有権者の一人として、民進党について率直なイメージをお伝えしてもいいですか。
玉木:ぜひ、お願いします。
山本:民進党は、何をするにしても、「分かっている人に分かってもらえればいい」と思って動いている感じがするんですよ。左がかった人も含め、活動家で声の大きい方がたくさん支持していらっしゃる。でもこれは有権者からすると、すごく疎外感を感じると言いますか、ぶっちゃけた話、「そんなお高く止まっているお前らなんかに興味ねえよ」という風に思ってしまうんですよね。
結果として、あれだけデモや集会、応援演説で動員がかかって大声で盛り上げて、ネットでも頑張って皆さん発言しているのに、いつまでも旧民主党から民進党の国民の政党支持率が伸びてきません。蓮舫女史が代表に選ばれておめでとう、という雰囲気になるはずが、伸びた政党支持率は調査各社平均でも1%から2%程度で、ご祝儀にもなっていません。
玉木:うーん、なるほど。それはおっしゃる通りでしょうね。今回の代表選で、私が最後に街頭演説をしたのは、東京の池袋でした。私はいつも田舎で街頭演説をしているでしょう?
はじめは「おお、すごい人数がいるな。さすが大都会東京だな」と思って演説をしていた。でも、街宣車のうえで話しながら冷静に周囲を見回してみると、「これはいかんな!」と思ったんです。なぜかというと、街宣車のすぐ近くで話を聞いてくれる人は、党員やサポーター、いわば身内です。その人数はすごいんですけど、その外側を歩いている人たちは、まったく立ち止まってくれないどころか、見向きもしてくれないんですね。
私は、「民進党の現状が見えた」と思いました。民進党に真正面から付き合ってくれる人は、熱い想いで付き合ってくれるけれども、その周辺の人たちにまったく声を届けることができていない。
[[image:image03|left|玉木「だからつい、議論の時に悔し泣きしてしまったんですよ」むしろジオン的ポーズ]]
山本:そうなんです。選挙分析屋の立場から言っても、「国民の民進党に対する興味のなさ」はかなりまずい状態になっていると思うんです。蓮舫さんが代表に選ばれたことも、二重国籍について問題になったことも、大して話題にならない。それこそ豊洲問題が出てきたら、民進党代表選という野党第一党の代表選びすら、すべて吹き飛ばされてしまいましたよね。「悪名は名なり」という言葉もありますが、民進党は「悪名」を立てることすらできていないのが現状だと思うんです。
玉木:アベノミクスが成功したのは、その中身以前に、政策を「3本の矢」にたとえて、「これがアベノミクスだ」とパッケージングしたことだと思っています。経済政策には、金融政策と財政政策と構造改革政策しかないわけですから、誰がやっても「3本の矢」になるしかない。でもそこにしっかり名付けをして、国民に「これが自民党の政策です」とアピールした。
「セルポリシーズ」という言葉があるように、政策というのは「売る」ものですから、手に売らないといけない。その点、自民党はうまいと思います。アベノミクスは批判されている面もありますが、少なくとも、みんなが注目している。でも、われわれも同じ政策を出してる。それなのに、それにわかりやすい名前を付けられていないので、会社にたとえるなら、「何を売っている会社かわからない」という状態かもしれません。
山本:今、国民に「民進党は何を売っているところか」を聞いたら、「反政府」「反安倍」ということになると思います。これは、どう考えても筋が悪いですよね。少なくとも、現政府が取り返しのつかないヘマをやらかさない限り、支持は集まらないわけですし、反対に「国民が今の政府はよくやっている」と思っている局面では、ひたすら民進党に対して「あいつらは邪魔ばかりしやがって」とマイナスイメージを溜め続けることになりますからね。
玉木:おっしゃる通りですね。
山本:さらに言えば、今、安倍さんが精力的に喧伝している最低賃金や同一労働同一賃金といった、「働き方改革」にしても、実は民進党が取り組んできたことですよね。待機児童の問題にしても、高齢者問題にしてもそうです。でも、国民からすれば、自民党が先に行動を起こしていて、民進党が後から「自分たちも考えているよ」と言っているように見える。
玉木:だからつい、議論の時に悔し泣きしてしまったんですよ。やってきたこともあるじゃないですか、と。いつまで頭下げてるんですか、と。
山本:これはやっぱり国民に対する「伝え方」がまずいんだと思うんです。民進党には、自称リベラルを名乗る活動家方面の微妙な奴らも多いけど、政策面では言うべきことはまあまあ言ってきたとは思います。問題は、それを実現できなかったり、反体制や野党体質のまま政権与党の権力者になってしまって右往左往していたところですかね。
玉木:この間ね、地元で街頭演説をしていたときの話なんですが、その日は妻も一緒に来てくれて、妻は私が演説している最中、ずっと周囲に落ちているゴミを拾っていたんですね。
それで私が街頭演説を終えたときに、「私はとりあえずこれだけのゴミを拾ったけど、あなたと私のどちらが世の中の役に立ったんだろうね」と妻がポツリと言ったんです。ガンと頭を殴られれたようなショックを受けました。妻の方が役に立ったんですよ。確かに街はきれいになったんですから。
国会論戦にしても、街頭演説にしても、良いことを言う議員もたくさんいると思いますし、政治には必要なことかもしれない。でも、それらが具体的に社会の不満や問題の解決に直結して貢献しているのかというと、そうではないこともあるんです。
そこに立ち戻らないと、民進党に支持が集まることはないと思ったんです。
山本:国民の生活の役に立たないで、政策論だけがなり立てているということであれば、確かに支持は集まらないでしょうね。「砂糖醤油でも飲んでろ」みたいな。
玉木:民進党は、野党とはいえ、国政調査権もありますし、いち個人やいち法人と比べると、工夫次第でいろんなことができる力はある。リアルな問題に誠心誠意向き合っていく。それを私は、ひとつでもいいから根本的に変えていきたい。こんな豊かな日本なのに、お腹いっぱいご飯を食べられない子どもがいる。寒い冬なのに、長袖、長ズボンを買えないお母さんもいる。そうしたリアルに存在する問題に対して、ひとつでもいいから向き合って、具体的に解決する。それをしていかない限りは、いくら正しくても、国民からは応援してもらえない。
山本:御託はともかく実態をどうにかしてくれ、という声ですね。
玉木:そうです。バラマキにならないような政策論は大事です。その意味で、我々が政権を取った時、「年金問題への取り組み」は国民に刺さっていたんだと思います。「5000万人の年金の記録がないかもしれない」という、日本人の半分くらいの人たちが抱えた漠然とした不安に対して政策を提言することで、民主党という組織として行動を起こすことができた。そのときの民主党は「国民の役に立つ」ことができていた。ある意味で、非常に単純な話なんです。
私たちとしては再びリアルな問題に向き合うしかない。現場感覚のある政党としてイチからスタートするしかない。中途半端な天下国家論を主張して、役に立たない人たちになっていてはいけないんです。がんばっている安倍首相の足を引っ張っている集団だと思われていてはいけないんです。
山本:ある意味で、政策の伝え方が悪い、国民に成果を見せられない、将来の展望を拓けない、って流れですと、民進党はなかなか国民からの支持も期待も集められないですよね。
玉木:そうなんです。そこから一歩でも前に出て、役に立てる野党としていかないとならないんです。
◇野党だからこそ「先」を見る必要がある
山本:玉木さんの政治への思いなどを伺っていると、「効率」よりもフェアネス、公平性を大事にされていると思うんです。今の政権は、アベノミクスや諸政策に代表されるように、どちらかというと「効率」を重視していますよね。だからこそ、玉木さんが中心になって、民進党が「公平性」を打ち出すのは面白いと思うんです。国民や消費者目線に立って、きっちりとした公平性を実現します、不公正を無くします、というニーズは間違いなくあると感じます。
玉木:そう言っていただけると嬉しいですね。「効率」のよい社会というのは、民間に任せていても達成できないことはありませんが、「フェアネス」のある社会というのは、政治でしか提供できないものだと思っています。
山本:ただ、これこそうまくパッケージしないとそれこそただの「理想論」になってしまいます。ですから、世代間のフェアネス、男女間のフェアネス、地域間のフェアネスなど、対立する各クラスターごとに細かく具体的な政策を割り当てていって、全体として「民進党は公平性のある国を目指します」という風呂敷で包むというのがよい気がしますね。「民進党は、リベラルな意見も、保守的な意見も、みんなも等しく重要な意見として、耳を傾けます。その上で、決して、誰かが他の誰かよりも優遇されているといったことのない社会を作っていきます」ということが、きちんと政策論としてパッケージされて国民に伝わっていけば、自民党がこれまでやってきたこととは違うことをする、新しい政党として、国民も見てくれるんじゃないかと、僕は思いますね。
玉木:実は、先ほどもお話した池袋での演説が終わった後、たまたま池袋に遊びに出てきていた中学生たちが「玉木さんの話が一番面白かったと思います」と言って、声をかけてくれたんです。彼らはきっと、私のことなんてもちろん知らない。前原さんや蓮舫さんのこともどれだけ知っているのかわからないような中学生が、そう言ってくれた。私は、素直に嬉しいと思いました。
同時に「ああ、彼らみたいな世代に向かってしゃべり続けよう」と思ったんです。今のところは有権者でもないし票も持ってない。でも、これからの日本を背負っていくのは、彼らなわけです。そういう人たちに向かって何を伝え、何を残せるのか。そこをもっと考えていこう、と。
お年寄りにウケる話をしたら票が入る。でもわれわれは野党なんだから、「今」と向かい合わなければいけない自民党以上に、「先」を見据えるべきだと思うんです。
[[image:image04|left|私のほうが年下なのにどう見てもジジイです。本当にありがとうございました。]]
山本:「種をまく」ということですよね。そういう意味で、僕は、玉木さんは今回の代表戦は「種をまきに行った」と思ったんです。戦略的に、蓮舫さんの次か、その次に勝ちにいくために、勝負を度外視してあえて出たんだろうなと。
玉木:うーん(笑)。まあ、いろんなことを考えながら行動しています、とだけ言っておきます。
山本:現在のところだけ見ると「勝算もなしにぶざまに落選しやがって。ざまあ」と煽られることもあるかと思うんですが、あとから見ると「さすが玉木さん、あそこでいったんちゃんと段階踏んで頭角を顕したな」っていうストーリーがあるとすごく良いと思うんですよね。
玉木:ぶざまでいいんです。かっこ悪いことだらけです。でもそのときの最善を重ねていくことしかできないですから。頑張り続けたいと思っています。
(第一回終わり/全三回を予定)