無縫地帯

銀行とキャリアがタイアップして新しい消費者金融事業を始めるようです

ソフトバンクとみずほ銀行が携帯電話を駆使した消費者金融事業に打って出るという素敵な提携がありましたので、記事にしてみました。

山本一郎です。東京ゲームショウで、友達が「自分がリアルに表示される」という体験VRのブースを出していたのでやってみたのですが、自分がリアルに目の前に映し出されて吐きそうになりました。毎日私と会っていたり、満員電車で触れ合っている皆さんはこんな吐き気の中で暮らしておられるのでしょうか。

ところで、なんかみずほ銀行が新しいサービスを開始するという内容。木曜日の朝一でNHKがスクープしてなんぞという感じでした。

みずほ銀行 携帯料金の支払い状況で金利決める新融資サービス(NHKニュース 16/9/15)

その後、夕方に記者発表があり、みずほ銀行とソフトバンクが個人向け金融サービスを目的とした合弁会社を11月に設立し2017年前半からの事業開始予定が知らされましたが、このプレスリリースの見出しが今流行のバズワードと覚しき横文字のオンパレードでキラキラしています。

新しいレンディングサービス開始に向けた合弁会社設立について~ビッグデータ・AIを活用した本格的なFinTechレンディング~

「レンディングサービス」を従来通りの日本語にすれば単なる「金貸し」なんですが、こうやってカタカナにしてしまうとまったく違ったサービスのように見えるのがまさにマジックです。

記者発表の内容については以下の記事が参考になるかと思います。

ソフトバンクとみずほ、スマホ活用で個人融資の新サービス(ケータイWatch 16/9/15)

ソフトバンクグループ代表取締役社長の孫正義氏は、「今までの貸付、レンディングとは異次元の、新しい時代のフィンテック(Fintech)と呼ぶにふさわしいサービスを展開できるのではないか」と説明。ケータイWatch
要するに、これは「ケータイ使った消費者金融」ですね。
駅前の無人契約機がスマホになって、審査が携帯電話の支払い状況のデータを流用できるぞというだけのネタであります。

まさに孫さん得意の口上パターンですが、具体的に何が異次元なのかは今のところあまりよく分かりません。むしろ平凡な事業アイデアすぎて全米が泣いた。分かるのは事業を進めるにあたって「店舗はなく、スタッフやインフラを最小限にしてコストを低く抑える」というところでして、つまりは無店舗でスマホ上のサービスに完結させることで、消費者金融事業を安価に展開することに力点が置かれているということですね。ここ近年、消費者金融における集客施策の一つに無人契約機というものがあったわけですが、さらに一歩踏み込んで契約機そのものをスマホに置き換えるという話ぐらいしか今回の一番大きなネタはないようです。

また、以下のような特徴もあります。

新サービスは、「日本初のスコア・レンディングを提供する」と説明。従来は個人が銀行から融資を受ける場合、その人の勤務先など、基本的な属性情報を元に信用度を定めて貸出額や金利が決まる。今回は、ビッグデータ、AIを組み合わせて、貸出対象にできていなかった層も新たに貸出対象へできるようにする。ケータイWatch
審査をするための情報収集ツールとして、携帯電話契約に付随するユーザー動向の情報をそのまま活用するということですよね。スマホの場合、下手をすればユーザーがどんな場所に出入りしているか、これはリアルもバーチャル(ネット)も含めてということですが、そういう行動パターンを知ることが可能なわけでして、そういう情報をユーザーの許諾を得てダダ漏れ状態にしておけば、かなり正確な「スコア・レンディング」は可能になりそうです。

もちろん、サラ金の貸し出しに携帯電話の支払い状況といった個人に関する情報を勝手に流用してよいかどうかは微妙なところで、その辺はどうなのか良く見えません。

スマホは個人との紐付けが非常に強いデバイスですから信用情報の収集にも最適なツールであり、あとはスマホ画面からなら店舗に行かずとも気軽にボタンを押して借金できてしまうという流れから、銀行とキャリアでつるめばこれまでになかった能率的な消費者金融事業を展開できるという話でしかないように見えます。

これまで他キャリアは口座的なサービスやクレジットカード連携という形で銀行業務に食い込む工夫をしてきましたが、ついに金貸し業にまで手を出してきたかということで、なかなか感慨深いものがあります。今後は他キャリアも同じように消費者金融事業との融合を推し進める流れになるのかならないのか……。

一方で、既存の消費者金融もスマホ対応を進め、貸出審査をスマホ経由で簡略化する動きはかねてからあります。みずほ銀行とソフトバンクのこの提携が、既存の消費者金融のビジネスに何かひとつでも上乗せできれば良いのかなと思う次第です。

逆に、実はこのビジネスはみずほグループがソフトバンクへの貸し出しを減らしたくて、ソフトバンクの売掛金情報を先回りで欲しくてぶっ込んだネタだったとすると、中内功没後のダイエーと銀行団みたいなノリみたいで面白いんですけどね、妄想ですけどね。