食べログ「飲食店の乱」騒動と、内部資料が示す残念な感じ
グルメサイト「食べログ」炎上事件で、背景となった企業戦略と営業の実情について細かく解説したいと思い立ちました。
山本一郎です。いつも「食べログ頑張れ」って思いながらも、人生で一回も食べログ使ったことありません。恐縮です。
ところで、先日飲食店側がTwitterに告発するような感じで食べログのイケてない感じを派手に披露していて、見物にいったわけです。そしたら、野火のように食べログ批判が燃え広がり、私もそっと「食べログ頑張れ」って思いました。
食べログ「点数」操作疑惑渦中の飲食店経営者がやり取りの詳細明かす(BuzzFeed Japan 井指啓吾 16/9/8)
「食べログ」の標準検索は「広告枠」とカカクコム「いきなり3.0点にリセット」の理由は(ITmediaニュース岡田有花 16/9/8)
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「標準」検索は「広告枠」有料プラン利用で優先表示
有料プランを契約しないと検索順位が下がるのは事実か――カカクコムに確認したところ、無料会員が検索した際、デフォルトで表示される「標準」検索では、有料プラン利用店が優先表示されることを認めた。
ところが、カカクコムはIRリリースで公式に「自然検索で表示される点数及びランキングにおきましては、オンライン予約機能の利用是非に一切関係な」いと言い切っておられます。結論から言えば嘘はなくその通りなのでしょうが、営業メニューの変更とアルゴリズム更新を同タイミングでやるとか騒ぎになるにきまってるじゃないかという話でして、まるで台風一過の澄み渡る青空のような心境です。
2016年09月07日
「食べログ」レストラン向け広告商品改訂のお知らせ
:これはいったい、どういうことなのでしょう。
なお、自然検索で表示される点数及びランキングにおきましては、オンライン予約機能の利用是非に一切関係なく、これまでと同様ユーザーの評価を基礎に算出、表示をしております。
一種の詭弁としか言いようがないんですが、後述する通り「自然検索で表示される」ソートのデフォルトは「標準」タブの広告枠のことであり、また自然検索で表示される点数は確かにユーザー評価ですが、それはアルゴリズムの突然の変更で星3.0にされたり評価を下げられたりしています。これはこれで問題ですが、恐らく別の話なので、この際は措きます。
また、「自然検索で表示される(略)ランキング」は、この広告枠である「標準」タブの隣の「ランキング」タブのことであろうと思われます。検索直後に表示されない奴ですね。この一番使われるであろう「標準」タブはユーザー評価と無関係にソートされている以上、ランキングでソートし直さないユーザーには一切口コミやユーザー評価による「良い店を選ぶ」機能の恩恵は得られないことになります。
そうなると、「標準」タブでのソートがどういう仕組みになっているのか、知る必要があります。そんなの社外秘ですし、なかなか外部の人は分からないですよね。
ところで、カカクコム「食べログ」が、飲食店に対して営業をしている代理店向けの資料がなぜか私の手元にあります。驚き。で、その内容を拝見しておりますと「食べログ頑張れ」という心境とともに幾つか気になる表現がございます。
[[image:image01|left|「金を払ってくれている飲食店を上位表示」と明記された資料。ビジネスだからね。]]
おめー、有料掲載店舗が上位表示されてるって、現在(16年9月末まで)のところに思い切り書いてあるじゃん。これは述べた通り広告枠であり、検索語のデフォルト表示である「標準」タブのことですね。どの口で公式のIRで「これまでと同様ユーザーの評価を基礎に算出、表示をしております」と言っているのか疑問に思うわけですが、10月以降はここにさらに「新プランのネット予約在庫あり」が「標準」タブにおいて上位表示されるという宣言が書いてあります。ひょっとして、ここでいう「これまでと同様ユーザーの評価を基礎に算出、表示」っていうのは、その基礎が全体のウェイト付けの5%で、残り95%が有料掲載店舗かどうかで決まっているとかいうオチだったりするのでしょうか。
さらに、ネット予約が集まりやすい時間帯をゴールデンタイム枠としたうえで、並び順ロジックの概要が開設されている図表がこちらです。
[[image:image02|center|「10月からネット予約重視します」の図表がこちら。ネット予約待ったなし。]]
要するにプレミアムプランで金を払ってるところが上位表示する前提で、そこに後付けでネット予約のウェイト付けがあり、無料掲載枠その他の野良店舗はユーザーの評価がいかに高かろうと上位には表示されないことが分かります。この程度のことでは私の「食べログ頑張れ」という心に揺らぎはありませんが、要するに一連の掲載順はすべて金次第だよということなのでしょうか。
では、彼ら食べログが言う「標準」とは何なのでしょう。
[[image:image03|center|検索して一番最初に表示されるのが広告枠の「標準」、その横に「ランキング」タブ。]]
この緑の下線が「標準」、そしてユーザー評価によってリスティングされる「ランキング」の各タブです。普通に野良に飯屋を食べログで探そうと検索窓から「御茶ノ水イタリアン」で検索をすると、この事実上の広告枠である「標準」が表示されます。ユーザーの評価関係なく、ネット予約対応順、優良順に表示される「標準」です。
そして、92店が検索して出てくるわけですが、ユーザー評価が3.0ではない店舗は上位の3店のみ。それ以外は、一部評価の高い店舗はありますがすべて3.0か、それに近しい点数です。評価の高い店舗でも金払わなきゃ容赦なく下位表示になるあたり、さすがは食べログ、剛の者であります。
またカカクコムはBuzzFeed Newsの取材に対して、「ネット予約を使うと優先されるのは広告枠(標準ソートの検索結果)です」とし、「本件と点数の見直しについてとは全く関係がございません」と改めて否定。
食べログ「点数」操作疑惑渦中の飲食店経営者がやり取りの詳細明かす(BuzzFeed Japan 井指啓吾 16/9/8)
アルゴリズムは日々見直しを行っているため、新規のレビュー投稿がなくても、全店舗で点数が変動することがあるという。9月6日にも見直しが行われ、一斉に点数が変動。下がった店もあれば上がった店もあったという。今回の騒動の発端となった、「いきなり3.0点にリセットされた」店も、アルゴリズム変更の影響を受けたとみられる。恐らくは、この新プランへの制度変更と営業強化をやるタイミングで、かなりの数の店が評価星3.0に戻される面白アルゴリズム変更とが重なったので、新プランに移行しない店舗が評価点を下げられたと誤解し、ネットで問題視されたのだということまでは理解できます。食べログも疑われて可哀想に。
「食べログ」の標準検索は「広告枠」とカカクコム「いきなり3.0点にリセット」の理由は(ITmediaニュース岡田有花 16/9/8)
で、この食べログのいう「広告枠」が、検索後一番最初に表示される「標準」のソートだとするならば、要するにデフォルトの検索結果は全部広告だよってことで、広告表記をする必要はあるのではないかと感じます。どのような契約が食べログ(カカクコム)と店舗間で結ばれているのかという「関係性の明示」を行わなければ、事実上のステルスマーケティングであって、事業の構造として不適切なのではないでしょうか。
同社は「標準」の検索結果について「広告枠」と説明しているが、「標準」の検索結果画面には「広告」などとは書かれていない。同社に対し、「標準検索は広告だと分かるような表示を検討しないのか」とたずねたところ、「今すぐに変更する予定はないが、表記などについて検討していく」と答えた。繰り返しになりますが、これは広告以外の何物でもないから、「ネット予約を使うと優先されるのは広告枠(標準ソートの検索結果)」であるならば、きちんとペイドはペイドとして表記したほうが良いのではないかと思います。
「食べログ」の標準検索は「広告枠」とカカクコム「いきなり3.0点にリセット」の理由は(ITmediaニュース岡田有花 16/9/8)
その辺のことはカカクコムも分かっているので、質問に対して「検討していく」と回答をしているということでしょうね。個人的には、ステマまがいで金貰って上位表示している広告をコソコソと「標準」タブなんてやらないで、堂々と「広告です」「プレミアム10という高額プランでご提供している店舗です」ってやったほうが、お客様に対して誠実だと思うのですが。
■レストラン紹介サイトの「ネット予約」を巡る攻防
ではなぜ、私たちの食べログはこんなことになってしまったのでしょうか。
それは、事実上の掲載料金値上げとなっている料金シートにその原因を見ることができます。
[[image:image04|center|サービスメニューにネット予約が追加される代わりに、謎の従量課金が。ソシャゲかよ。]]
つまり、ネット予約を入れてくれれば露出機会を増やしてやるから、従来の月額固定の掲載料じゃなくて食べログ経由での予約件数に応じたインセンティブを従量制で払えや、という話であります。何してんだよ。しかも、一連の騒動でもありましたように、そもそも各店舗の旧メニューはいままでの月額固定だったわけですから、食べログに掲載されていればうっかり食べログ経由で予約を受けてしまうと漏れなく従量課金を強いられるという謎仕様です。
また、誰得極まりない従量のみのネット予約限定コースが設定され、食べログに秋の訪れを感じさせます。契約代理店は、食べログの指定する新プランに移行する飲食店を増やすよう強く推奨されており、今回きっかけとなったワインバル「ウルトラチョップ」の社長・高岳史典さんがネットでマジ切れする理由も分かります。要するに、新プランはネット予約による上位表示と従量制での来店数が見合わなければ、店舗側は一方的に契約料金を値上げさせられていることになるわけですから。この辺については、興味深い資料も入手しているので、吟味がてらおいおい触れたいと思います。
で、その営業資料の中には、読者みんなが「食べログ頑張れ」と思うような記述があります。
[[image:image05|left|全ICTビジネス従事者が涙する「来訪者は1位なのに売上も利用額も下位」画像。]]
なんか「来客者数トップなのに予約人数やARPU最下位だし、頑張らなあかん」という口上が記されており、まるで暗黒時代の阪神タイガースのような先発猪俣感を覚えるのであります。何しているんでしょうか。常識的に考えて、飲食店側に食べログの集客力を実感してもらえるようにネット予約を強化するにあたって、ついでに予約あたり200円追加で取ってしまう営業戦略は、そもそも飲食店側にとっては単なる「食べログ利用料の値上げ」であり、ARPU増のために従量課金というソシャゲ状態の新プランでは意味がないだろうと思うわけです。納得しない飲食店が出るのも当然です。
[[image:image06|center|情報提供者自らが半笑いで「うちはどうなってるんですかね」と嘆いていた物件。]]
また、ネット予約で「在庫0」表記されているお店より、ネット予約「在庫あり」表記されている店のほうが「たくさん予約されてますよ!!」とか馬鹿図表までご丁寧に作ってあります。なんで店ページのネット予約が「在庫0」の店に当日電話かけて「席空いてますか?」などという電話をすると思えるのか、理解ができません。かなり知能指数の低い、大変深刻な事態です。誰も気づかなかったんでしょうか。大丈夫か、食べログ本部。
一事が万事この調子のため、恐らくBuzzfeedが記事にしていたように営業担当が方針をいまいち良く理解しておらず、飲食店に対して実質的な値上げの可能性のある新プランへ闇雲に移行を営業した結果、大混乱に陥っているのではないかと予想されます。何しろ、資料には「既存コース強制統合」についてのメニューも入っており、かなり暗雲がもくもくしている状態に見えます。
確かに、食べログは検索はされて流入はあるけど予約には至らないからこそ、ネット予約に絞ってテコ入れをしたいという気持ちは分からないでもありません。私は徹頭徹尾「食べログ頑張れ」の立場を堅持しています。しかしながらこの施策では、本当にネット予約の流入が増える保証は現段階ではどこにもなく、逆にネット予約は食べログより集客力の高い「HotPepper」や「ぐるなび」といった競合に流れて行ってしまうのではないかと思います。
営業資料においても経営実態においても、自然検索後にデフォルト表示されるのが広告枠である「標準」タブである以上は、これは飲食店が払った広告であることはやはり明記するべきでしょう。別に広告だから駄目だ、というわけではなく、せっかく払って上位表示しているんだから、別に広告やプラン名を店舗横に入れても問題ないじゃないですか。そういう不誠実な運営をやっているのであれば、そりゃ過去に食べログが起こしたいくつかの問題についても、それは必然的に起きたことなのかなという気がしてきます。
※ワイ将特撰!ご参考リンク※
食べログ、踏み絵方式で飲食店の評価を3.0に強制リセット(市況かぶ全力2階建 16/9/8)
食べログ掲載の投稿情報、削除認めず札幌地裁判決(日本経済新聞14/9/4)
【新宿ぼったくり居酒屋事件】食べログが口コミを消していたことが判明(Netgeek 14/12/30)
食べログの現状と対策現状編(「インチキ数字」研究家(ほぼ自称)元木一朗のブログ 元木一朗 08/10/16)
食べログ炎上は当然!点数操作疑惑問題に現場の声を大暴露!(EATalk 16/9/8)
ともあれ、私も「食べログ頑張れ」の姿勢は変わりませんので、今世紀中に一度は食べログを使ってお店にいってみたい!と思います。あと84年ぐらいしか残ってません、大変だ。なお、カカクコムにも質問メール投げていまして、内容次第でもう少し踏み込んだ続報が書けるかな、と思っております。
引き続き、よろしくお願い申し上げます。