築地市場は早々に移転するべき
築地市場の移転問題で、小池百合子都知事は今週中の結論を出すと発表していましたが、移転慎重派は約七割が移転する金のない債務超過に陥っていることを無視して話を進めても仕方がないと思うんですよね。
山本一郎です。八重洲生まれなので築地はあんま良く知りませんが、私自身は産廃屋の倅です。ベンゼン、フッ素大好きっ子です。
というわけで、例の築地市場の移転問題ですが、様々な問題がある中で、どうも今週にも小池百合子都知事は移転の延期をするしないで最終結論を出すと言われています。
若狭 勝衆院議員、築地移転で小池知事は週内に結論との見方示す(ホウドウキョク16/8/26)
んで、築地移転問題については時期尚早としてあれこれ議論になっているのですが、そもそも論として、築地移転は1995年から、臨海部への移転を検討し始め、1999年、業界団体と中央卸売市場との間で、移転整備ということで意見がまとまっています。
最終的には、第七次卸売市場整備基本方針として2001年に合意が得られ、豊洲地区への移転が決定しているのに仲卸業者などの延期論で駄々をこねられて現在も起きているが築地市場の移転問題です。
しかし、本来は現在もなおああでもないこうでもないと議論していることが変です。あれから15年経ってなお、ベンゼンが出た、延期しろという話になっているのは、都民として馬鹿馬鹿しい事情が横たわっています。
第7次卸売市場整備基本方針等の策定について(説明)
さらに第8次基本方針以降も「いいから移転しろ」という話であり、鉄道による輸送を前提とした老朽化した建物であり、密閉性も低く、現状の食品衛生上の各関連法規も満たさないため、2001年の時点で「早く移転しろ」と言われてきた問題です。
■移転先のベンゼン以前に、アスベスト問題のある現築地市場
そもそも、移転問題を扱う各種報告書にもある通り、1934年(昭和9年)に建てられた築地市場についていうならば、老朽化の問題とアスベストの問題があります。それも、過去に数回対策工事が打たれ、400億円以上改修費を使ってなお、かなりのアスベスト残存があります。それもあって、消防庁(当時は自治省)からも「さっさと建て直しか移転を」と1985年に勧告された時点ですでに築50年です。現在は築後82年であり、老朽化とかなんとか言ってる以前に「危ないからとっとと移転しろ」と東京都も国土交通省も口を揃えてます。
金をかけて一部アスベスト対策処理が進められたものの、現在もなお20%近いアスベストがいまなお建物の構造に近いところで未処理のまま残ってしまっており、ぶっちゃけ移転先の地下水のベンゼン濃度を云々する前に、この建物自体が危険で違法状態であることは言うまでもありません。たぶん、ここで働いている人たちのうち数十人単位で石綿を理由にする肺癌、悪性中皮腫で死亡していると見られます。
これも本来は責任問題ですが、移転反対派の人達は1996年以降断続的に出ていたアスベストの問題についてはなぜか東京都に何か言うでもなくいままで来ています。騒ぐと築地市場が取り壊されてしまうことを恐れてのことなのでしょうか。この辺は良く分かりませんが。
ベンゼンによる土壌汚染の不安が液状化されるまで、とか言ってますが、そんなものは築地だって土壌を深く深く掘り起こせば必ず何か出ます。某お台場なんて(自粛)。だいたい東京の洲や埋め立て地で、深く掘って何も出ないはずがないじゃないですか。それが嫌なら臨海部に住むなってレベルです。液状化対策で石れきをぶち込むようですが、これはこれで建屋が沈下する恐れもあるし、気休めですよ。どうせなら、築地も深く掘りましょう。素敵な遺物がたくさん登場すると思います、元産廃屋的には。
これからまた追加調査の結果が出るそうですが、無駄ですよ。どうせベンゼンなど出るんですから。それでも、一応の対策ぐらいはしておいて、きちんと現行法に見合った食品衛生ができる仕組みさえあれば良いのではないでしょうか。移転延期してアスベストが出る築82年の老朽設備を引っ張る理由はどこにもありません。本来なら、さっさと移転すべきじゃないですか。
しかしながら、先ほどの報道でもある通り、築地市場の水産仲卸業者はその八割近くが豊洲市場への移転に反対しています。そんなにボロ市場で働きたいんでしょうか。
■築地市場の水産仲卸業者の7割以上が「債務超過で移転する金が無いだけ」
「ベンゼンが出る」「間仕切りがあって狭い」などと難癖をつけて、築地市場の水産仲卸業者が築地新市場への移転延期を求め、いまだ築82年のアスベストつき建屋で操業を継続する理由は、仲卸業者の大多数が債務超過だからです。移転反対派は現在すでに経営の苦しい台所事情に触れませんが、人気スポットであった築地市場に依存して駄目な経営をしてきた仲卸業者がそれだけあるってことです。
新市場では間仕切りの大きさ、企業の大小にかかわらず、移転費用は転居する仲卸業者が出さなければなりません。当たり前のことですが、それこそ既得権益の問題です。「築地市場に店を出していたから、その築地市場が豊洲へ移転するにあたって金を出せ」というのは筋違いですね。経営の苦しい仲卸業者に対して低利融資の制度は検討したようですが、すでに債務超過じゃ貸し付けようがないのです。それこそ、低利融資する側のコンプライアンスの問題になってしまいますからね。
問題の詳細は、すでに農林中金研究所の研究員亀岡鉱平さんの論文であらかた出ていますし、東京都も仲卸業者の代表者も書面の中ではっきりと「現行仲卸業者の経営問題について」という項目で債務超過の業者の廃業問題について記述してあります。
築地市場の豊洲移転と移転に向けた準備状況(農林中金総合研究所農林金融2015年11月号 研究員亀岡鉱平)
:つまりは、金が無いから移ろうにも移れない仲卸業者が「伝統ある築地市場を守れ」「この間仕切りでは仕事ができない」「ベンゼンで土壌汚染がある豊洲市場に移るには不安を払拭してからにしてほしい」などと主張している話を本来聞くべきではなく、むしろそのような債務超過に陥っている会社が鮮魚や青果物のような人の口に入るようなものを扱っていることは望ましくないとして廃業か破産処理をしたほうが健全ではないかとさえ思えるレベルです。
(5)市場内業者の概況
移転に関して最も慎重な立場をとってきたのは仲卸業者である。仲卸業者は,その多くが零細事業者であり,売上高3億円以下の事業者が大半である。さらにこの規模の事業者は経常赤字会社,債務超過会社の割合が高い(第5表)。仲卸業者の多くは移転時の設備投資・更新にかかる金銭的負担感を強く感じており,移転事業を仲卸業者の統廃合を進めるものとして否定的に捉えてきた。その後態度を軟化させ現在に至るものの,卸協会が当初から移転を受け入れる姿勢を示していたのとは対照的である。
言い方は悪いですが、アパートの建て替えで次に引っ越す金もアテもない独居老人がいるようなもので、債務超過だと廃業して会社を畳むこともできないのでにっちもさっちもいかない事業者がいっぱいいるってことですよ。そんな人たちの感情論に共感して、東京都はけしからんと言い続けているのが実情なんじゃないかと思います。
そういうだらしない経営をやり続けて老朽化した築地市場に居座り続ける仲卸業者の尻馬に乗ったジャーナリストが、弱者の肩を持つ形で書いた記事はこちらです。もちろん、記事としては良くできているんですけど、肝心の債務超過に陥った事業者が7割いることはどこにも書いておらず、移転のための金が無いので移転したくてもできないという実情について全く触れていません。せっかく良いルポルタージュなのに画竜点睛を欠く塩梅なのはもったいないことです。
築地移転に約9割反対!終わらぬ東京都との攻防(ダイヤモンドオンライン池上正樹15/3/23)
かたや、我らが猪瀬直樹元都知事(記事執筆07年当時は副都知事)もなんか書いてます。
築地市場の豊洲移転問題データをもとに客観的な議論を(日経BPnet 07/10/16)
突き詰めれば、この傲慢な人が都知事になった際に築地市場の移転が決着を見ているのですが、これから何かしようというところでうっかりカバンに5,000万円が入らないという歴史的なコントと、きょうび新入社員でも作らないような借用書を記者会見で披露するという大技を披露したため、すべてが止まってしまったという元凶にもなってしまっています。実に、実に、実に惜しいことです。
声に出して読みたい猪瀬直樹Tweet集(ヤフーニュース個人 山本一郎 13/5/7)
■東京都の情報開示に問題はないのか
見る限り、必要な情報はすべて開示されているように見えます。広報が足りないとか、知られていないなどの批判はあるかもしれませんが、東京都側の批判で情報開示ができていないという人は、まともにサイトも見ていない人でしょう。
豊洲市場について
新市場Q&A なるほど納得!築地市場移転
公開されている都議会資料も含めれば、特に要らんことまで開示してあるので、開示マニアも納得の状況であります。もっとも、すでに述べた通り築地市場移転問題は1995年から足掛け21年も議論しておりますので、議論し続けないと死んじゃう病気の人が関係者の中にいるのかも知れません。
09年の都議会予算案可決でも、岡田至・中央卸売市場長が「今年(09年)1月から水産・青果の仲卸業者を対象に個別面談を行い、一人ひとりの声に丁寧に耳を傾けている。引き続き、理解を得られるよう努力していく」といってて、いったい何年かけて丁寧に耳を傾け続けているのか、傾き続けた耳は7年間でどのくらい斜めになってしまったのか知りたいところではあります。
【築地移転】2010年度予算案民・自・公で原案可決(都政新報 09/9/30)
で、築地市場の移転に反対する業者に対するヒヤリングの書類は、業者自体の状況についての関連資料が出てこないんですよ。単純に「うちは債務超過だから」みたいな具体的な経営に関わることは開示できないのかもしれませんが、金が無いからいまの築地市場が閉鎖されると仕事がなくなり困る人は、外のジャーナリストの力も使いながら「日本の食文化を守れ」とか微妙なことを言いそうな気はします。
確かに豊洲新市場は車でのアクセスや利便性の問題はかなりあるように思います。恐らくは、いざ市場が本格稼働したら大渋滞で大混乱になることは待ったなしでありましょう。
しかしながら、そもそも論になりますけど、中央卸売市場自体が必要なくなってるんじゃないですかね。
農林水産省も、中央卸売市場という機能自体が、売り手・買い手の大型化とともに衰退し、直接取引によって市場を使わず直接契約する傾向が強いことを厳しく暗示する資料を作成しています。つまりは、日本の食文化を守るのは売り手と買い手の誠意ある取引であるとするならば、それが市場を介さずともネットなり長期契約なりでカバーできてしまえば、新市場が不便な分はそれ以外の取引で埋められていくのでしょう。
卸売市場流通の現状等(農林水産省2014年12月)
その意味では、築地市場を守るという話は、ある意味で廃れていく駅前商店街のシャッター街化を防ぐかどうかや、跡継ぎのいない商店主が債務超過なので廃業するにできない現象と極めて似ています。築地市場の移転を延期しても、二度と、賑わいは戻ることはなく、彼らの懐は暖まらないのです。その中で、ジオン軍のようにあと三年は戦えると嘯く必要はどこにもないので、一人の都民としてはこれ以上余計な都税を浪費されることなくとっとと築地市場は潰して移転することを願っています。
蛇足ですが、買い手と売り手の大型化に取り残された築地の仲卸業者が経営の苦境に至る話は、直接類例を多数聞きました。実際に、築地市場の移転が噂された00年以降、何件か水産仲卸業者の身売りや、コマの譲渡の話がありましたが、リーズナブルに見える金額でさえ、買い手がつかなかったのは、築地で商売をやっても先がないし、後継者も作れないからでしょう。
仲卸業者に同情をするけれども、彼らが生き延びるということは、誰かが支えるということなのです。おそらくそれは都税であり、薄く広く都民や東京都で働く人や東京にある法人の負担で彼らの経営の不始末を担っていることになるので、個人的には「債務超過に陥って移転不能な仲卸業者の意見は除外して、業者の聞き取り調査をする」ほうが良いと思います。100年経っても移転反対とか言ってると思いますよ、彼らは。