無縫地帯

「オンラインダフ屋」高額チケットの転売問題で音楽・芸能団体がブチ切れるまで

音楽や芸能、チケット販売業者などの業界団体が、オンラインダフ屋状態になっているネット上の高額チケット転売問題について意見広告を出し、話題になっていたので状況についてご説明いたします。

山本一郎です。先日、東京駅でアロハシャツ着て歩いてたら変な人と間違われて職質されましたが私は無実です。

ところで、先日音楽系の事業者団体である音制連、音事協などが中心となり、著名アーティストが連名する形でインターネット上での「高額チケット転売の問題」について意見広告を大々的に行うというアクションがありました。

転売NO高額チケット転売問題

また、一連の「高額チケット転売の問題」アピールの中に、これらの芸能系団体とは距離を置いていたジャニーズ系などのアーティスト、アイドルグループも含まれ、ほぼ全音楽系をカバーするような横断的なアクションになっていることが注目されます。個人的には杉山清貴が入っていないというあたりは画竜点睛を欠くところはありますが、それだけ業界としてオオゴトなのでしょう。

何をもって「高額」とするかや、チケットの二次流通自体を否定するものではないという点で、おそらくは業者による買い占めと高額での転売問題への対策が主眼なのであろうと思います。イープラス、コミュニティネットワーク、ぴあ、ローソンHMVエンタテイメントによるコンピュータ・チケッティング協議会は原則としてこれらの音楽事業者、芸能事務所からチケットの販売委託を受けている形になっており、今回これらのアクションに含まれないプロ野球などのスポーツ興行や、宝塚、劇団四季、歌舞伎などの芸能も含めると事実上オンラインダフ屋とみられる事業者による買い占めに歯止めをかける方法が不十分であったため被害が広がっているという現実があります。

対案として示されている「オフィシャル再販(リセール)サービスの順次導入」については、一部電通系の「Ticket Board」が問題を抱えながらも対応をし、また電子チケットの導入でワンタイムチケッティングの導入を進める興行主も出てき始めました。

この問題で、ワールドスケープ社の海保けんたろーさんがこんなお話をされています。

:

この声明、めっちゃダサい。
そうならないように仕組みやビジネスを設計するべき人達が、まるで自分たちは悪くないかのように叫んでる。根本原因は、あなたたちの怠慢だからね?

https://twitter.com/kentaro_kaiho/status/767962249201750017
怠慢といえばそうなのかもしれないですけどね。

ただ、実際にはチケットを買い現在保有している「本人確認の徹底」と、チケットが高額流通したときの「手数料の徴取」または「チケット自体の無効化」しか方法がありません。このアクションのホームページでも、コンピュータ・チケッティング協議会が対処案の骨子を出しており、この対案を実現するにはその先の業者、つまりチケットの二次流通を担う各社を何らかの手段で拘束しなければ話が先に進まないことになります。

とりわけ、オンラインダフ屋問題については、扱いがむつかしいのは「本来、ダフ屋を取り締まる法律があるわけではない」ことで、対策は各自治体が策定する迷惑防止条例であり、そこに「ダフ屋禁止」が盛り込まれているだけだということです。すなわち、チケットの転売を組織的に行って高額で売りさばくというダフ行為をオンラインで行うこと自体は、自治体がライブ会場の前などで行うダフ屋同様に取り締まることができないので、音楽事業者や業界団体はこのようなアクションを取るしかない、というのが実情でしょう。

契約自由の原則のある我が国において、ダフ行為が迷惑防止条例で禁止されている公共の場所ではないオンラインで行われる限りにおいて、迷惑ではないと判断され取り締まれないため、チケットの二次流通を担う各社に対して興行主がコントロールできないと困る、ということで、その二次流通の一社であるチケットストリートのあしか軍曹のブログを見てみましょう。

「チケット高額転売反対 #転売NO 」 に感じる違和感(チケスト社長@ashikagunsoのチラシの裏 16/8/23)

:

弊社チケットストリートは、チケットの個人間での取引、二次流通をおこなっていますが、「不当・違法な買い占めの撲滅」については、アーティスト、主催者の皆様と協力して進めていくことに異論はありません。

しかしながら、正当・公正な抽選なり先着順なりでチケットを手に入れた一般個人が自由にチケットを売る権利は、自由な市場を持つ資本主義経済の根幹として守るべき権利だと考えます。

アーティスト・主催者が「俺の言うとおりにチケットを買え」というのは単なる独裁主義・管理経済でしかありません。
上記各業界団体のアクションの能書きにも書いてある通り、一般的な二次流通を制限するとはどこにも書いておらず、「俺の言うとおりにチケットを買え」という話ではないのですが、それでもダフ行為を行う業者による「不当な買い占めの撲滅」に協力してくれるらしいです。

であるならば、チケッティングにおいてチケットの転売先の本人確認を確実に代行してくれる仕組みをこれらの二次流通業者が責任もって行い、ダフ行為を行う業者のきちんとした排除をできる仕組みを提案していただきたいと思います。
そうでなければ、恐らくは二次流通の業者については選択制を取り、コンピュータ・チケッティング協議会が許容する二次流通業者のみが本人確認のできる、文字通り独裁主義・管理経済的なアプローチにならざるを得ないでしょう。

なお、改正犯罪収益移転防止法においては、とりわけ高額チケットについては10万円を超える売買が行われる場合、金融機関等の指定に基づき本人確認が必要になります。また、出品者については当然ですが古物営業法に基づく本人確認も必要ですし、今回の問題を対処するにはさらに落札者にも歯止めが必要になります。業界団体が声を上げなければこれらの二次流通を担う各社が個人情報の管理や本人管理をしないということでは、恐らくは本当の意味での興行主による本人確認の「対案」が検討されることになるのではないかと思いました。

改正犯罪収益移転防止法

今回はCCCDや違法コピー問題のように、コンテンツそのものの複製に係る問題ではなく、興行権とチケッティングの話なので同じ音楽業界でも基本的には全然別物であるということだけは理解しておく必要はあるんじゃないかと思いました。

落とし穴は、やはり売り手が業者かどうかのチェックをするだけではなく、買い手もきちんと知っておいてねという話と、売り手が普通に個人に成りすましているケースで確認しない馬鹿仲介業者を一掃しないとダメですね、という話でございました。これは、チケット二次流通専業業者だけでなく、昔からC2Cのオークションサイトとなっているヤフオクやラクマ、メルカリなどでも同様の対策を取ってもらわないと、水は低きに流れることになるのでしょう。

蛇足ながら、大手芸能事務所で最近STAPという細胞グループの解散を発表したジャニーズ事務所が、日本最大級SNSの某社子会社が運営するチケット仲介・二次流通会社に内容証明を送っていました。顔認証で個人特定をしているため、実際には第三者が入場できないチケットであるにもかかわらず、それと説明せずに販売を仲介したことが問題視されたようですが、このあたりの阿吽の呼吸を説明できる優れた媒体があるといいなと思いました。

山本一郎、43歳。木村拓哉と同い年です。