無縫地帯

「増田寛也敗戦」で自民党都連は何を反省し、どう立ち直るか

都知事選で自由民主党と公明党の推薦を受けた増田寛也さんは大差の2位に敗れました。増田陣営のネット担当として活躍された板橋区議の坂本あずまおさんに、増田陣営の戦い、都連の再出発についてお話を伺いました。

山本一郎です。本当です。

都知事選(通称「50億ガチャ」)は予想外の小池百合子女史の圧勝に終わった宴のあと。分裂選挙となった自由民主党では事実上の敗戦処理として、敗戦の引き金となった都連会長石原伸晃さん以下、執行部5名の辞任を発表しました。

いまや話題はリオ五輪での日本選手の活躍に移り、また派手な自民都連との対立を演出して勝利した小池女史の都政運営にも関心が集まるなかで、増田寛也さんの、自民都連の、東京都の、そして地方政治の今後について、増田寛也陣営でネット担当をはじめ広報業務を担当された板橋区議の坂本東生(あずまお)さんに話を伺いました。

[[image:image01|center|板橋区議、坂本東生(あずまお)さん。増田選対ではネット担当としてご活躍された]]

板橋区議会議員自由民主党坂本東生

■「伏魔殿」自民都連とドンと呼ばれた内田茂さん

山本「いろいろと自民党の人たちと話していて、メディアでの風評と実態があまりにも違う、ってことがあるじゃないですか」

坂本「はい。いつの間にか悪者になることが多々あるのが政治の恐ろしいところですよね」

山本「今回は、特に”自民都連が悪い”という悪代官のような立場で、都連幹事長だった『ドン』こと内田茂さんが小池百合子をいじめた、というストーリーが都民にウケてしまった。一連のすったもんだがメディアで大きく取り上げられたことで、小池圧勝に繋がったと思うんですよ」

坂本「増田さん出馬が決まってから『ほとばしる無能』とガッツリ書かれたのも痛手でしたけどね」

山本「そんな酷い記事が出ていたんですか。知りませんでした」

※参考増田寛也「ほとばしる無能」を都知事候補に担ぐ石原伸晃&自民都連(訂正とお詫びあり)(ヤフーニュース個人山本一郎16/7/4)

坂本「あれはあれで、”一部”事実であることも確かです。山本さんへクレームはあったと思いますけど、最後まで都民から『借金2倍知事!』とか言われて大変でした。そういう記事を書いた『戦犯』の山本さんとお話をするのは一部から心配もされたんですよね」

山本「それはそうですよね。でも、ある意味で敗戦の総括を単に執行部が降りました、というだけで終わらせてしまっては、じゃあなぜ負けたのかの総括もうまくいかず自民都連もなかなか次に繋がらないのではないかと思うのです」

坂本「はい、だからこそこうして表で私がお話できる機会をくださったことに感謝しています。それに、自民党もみんなが完全に考え方が一枚岩、というわけではありませんし、私のいる青年部では私が初当選した28歳のときから10年お世話になって、そこで培われたことは『青年部は正論を吐け』ということなんです」

山本「政治を志す者は、異論も敢えて述べよ、というやつですね」

坂本「もちろん、政治ですから上には上の考えがあり、善かれと思ってやっている。でも、それを支える現場も生身の人間です。有権者と向かい合い、自民党が党としておかしいことをやれば、真っ先にお叱りを受けたり、最前線で党の方針を説明する役割を担うわけです」

山本「だからこそ、今回の増田寛也さん擁立で、一番苦労したのは現場ではなかったか、実際に、都政や、区市町村で自民党の看板で有権者と接点を持ってきた人たちが、なぜ小池女史ではなく増田さんだったのかという”腹落ち”をしなければならなかったと思うんですよね」

坂本「そうなんですよ!何より、自民都連は凄く誤解をされていて」

山本「そもそも、自民都連の仕組みを分からないまま叩かれる、という状況がいまでも続いているように思います」

坂本「都連組織の構成は、市区町村ごとに支部があり、さらに国政での東京都25選挙区それぞれにも支部があります。その支部長たちは国会議員や都議会議員、区議会議員といった人で構成されていて、さらにその支部長率いる支部の連合が自民党の『東京都支部連合』すなわち都連なわけです」

山本「ピラミッドのような組織ではなくて、モザイクの寄せ集めのような一国一城の主の集まり、という感じで、トップがこうだといっても一斉に動く組織というよりは、ネットワーク、互助会のイメージでしょうか。よくメディアでは『自民都連が悪い』という割に、実際には区分けされたグループの連合体に過ぎないわけですよね」

坂本「はい。だから、都議会イコール都連という見え方になってしまうことが多いのですが、ミスリーディングになっています。いまでさえも、都連という言葉が独り歩きしているんですよね」

山本「そこで、いわゆる内田茂さんという都連幹事長が悪の親玉であり『ドン』だというマスコミの報じられ方が浸透してしまった」

坂本「いやー、自民党の中にいると、あんまりにも内田さんの実情とかけ離れているので、そういう人じゃないんだけどなあ、と思うわけですよ。東京都連は事務局がしっかりしていることもあり、運営は事務局にお任せしながら地方議員は地元政策に専念できる、というメリットはあるんです。そこに内田さんは必ずしも全部は関係しません」

山本「報じられる内容でいうと、自民党都連で権勢を思いのままにし、利権を貪る老練な悪徳政治家のイメージしか内田さんは持たれてないですよね」

坂本「でも実際は、良い意味で人見知りの激しい、面倒見の良いおじさんなんです。私も、ネット選挙解禁だと言われて、いろんな選対から『君は詳しいだろう』と呼ばれてお手伝いをしますが、内田さんは特に怒るでもなく、自由にやらせてくれるんですよ」

山本「そうなんですか。意外ですね。箸の上げ下ろしからツイッターのアカウント名まで細かく指図するような人なのかと思っていました」

坂本「悪者のイメージが先行しすぎてしまってますよね。本当の内田さんってのは、事務所に時間が許せば朝から夜までいて、マスコミの取材があれば全部対応しているし、本当にいろんな意味で古き良き自民党の政治家そのものです。田中角栄的な」

山本「私も千代田区民ですが、内田さんのことを知っている人で悪く言う人はそう多くない印象ですね。ただ、公営住宅や神保町のあたりの人たちと違って、タワマンに住んでいる人からすると内田さんとか見たことも会ったこともないので、なんか怖そうな人、という雰囲気でしかないです」

坂本「今回の選挙でも報じられましたけど、分裂選挙になったもののそもそも自民都連というのは海千山千、ベテランから新人まで100人以上の言いたい放題な政治家や関係者を抱えて組織としてやってくわけですよ。その取りまとめ役として、内田さんのようなどっしりと構えて、目の行き届いた、場合によっては組織を引き締めたりし、それでいてしたいことはさせてくれるような面倒見のいい人がいないと回らないですよ」

山本「その結果が、都連を引き締めようとした裏切り者は親族処罰だみたいな文書になってしまうのではないかと」

坂本「あれは驚かれたマスコミの方も都民も多かったと思うんですが、私なんかは逆にその辺は当たり前すぎて『あ、また引き締めに入ったんだ』ぐらいにしか思わなかったという」

山本「でもあれだと石原良純さんがやらかした発言で、親族の石原伸晃さんが自民党から除名されてしまいますよね。自民党的には当たり前でも、選挙であれが出たら普通の感覚の有権者はビックリというか、時代錯誤のブラックさ加減に見えてしまいます」

坂本「その辺はいつもの自民党なんですよ」

山本「むしろ、都連執行部はブラックボックスみたいな批判はたくさんされてましたけど、増田擁立に至るまでの人選のプロセスが良く分からんし、内田さんに新聞記者が質問した際に結構ビシッと『それに応える必要はない』みたいなことを仰いましたよね」

坂本「ほんと、最後の最後まで誰を都知事候補として担ぐのかが決まりませんでしたからね。私のところに『増田さんでいく』と伝えられたのが11日夜。14日が都知事選の告示でしたから、作業やその他行事も考えると実質12日丸一日しか準備にかけられる時間はありませんでした」

山本「それでも増田さんでいくと」

坂本「そうですね」

山本「こういう理由だから増田さんだ、という説明はあったのでしょうか。坂本さんとしては納得していたんですか」

坂本「それはもう、自民党の中にいれば力学も分かりますし、『そうと決まれば最後までお手伝いしよう』という腹をくくりますよ。ただ、運良く私自身は人口政策をやっていたり、個人的に増田さんと以前にお話ししたことがあったりと、彼自身の政策や考えをある程度知っていたのです」

山本「そうでしたか。坂本さんにとっては仰りにくいところでしょうが、都連会長の石原伸晃さんはどうしても小池百合子女史が嫌だったってことで、別の人選をといって、櫻井俊さんでとこだわって、断られているのに引っ張りすぎたのが準備不足の原因、といったところでしょうか」

坂本「これはもうタラレバの話ですが、現場には早い段階から『櫻井さんは出馬できない』という情報は入っていました。ただ、都連執行部には、ちゃんとその話が上がらなかったのかな、と」

山本「櫻井さん本人も出馬意向はないと明言していましたが、それ以上に致命的なスキャンダルが複数ありましたからね。それなのに、完全に断られるまで石原さんが櫻井さん擁立にこだわって、都知事候補の決定が最終的にどんどん遅れていってしまいました」

坂本「そういう問題もちゃんと知らなかったのかなと思いますが、やはりこういう都知事のような大きな役職を担う人については、自民党の中にプールされるべき人物が必要なんだと思うのです」

山本「なるほど」

坂本「身体検査でカネと女だけ調べるのではなくて、政治的な考え方とか哲学とか、そういう政治家としての資質の高さを踏まえて、選挙の前に慌てて人選するのではなく、きちんとそういう人材をリストしておくべきだと思います」

山本「その点、自民党は地方組織も充実していますから、てっきり都政に詳しい都議さんや国会議員の鞍替えがあるんじゃないかと思っていました。それこそ、都知事に石原伸晃さんとか」

坂本「伸晃さんのお名前が上がらないのは残念なことでした。それこそ、石原王朝とまで言われた都政で、最後は石原慎太郎さんまで増田陣営の応援の座組みに出ていただきましたからね」

山本「いくら石原家でも人望のない馬鹿を自民党が担ぐのはむつかしいですね」

坂本「ちょっ、私はそこまで言っていませんよ。ただ、選挙の敗戦の責任を取って都連会長を辞任したのに、経済再生担当相として留任された官邸の力学は私にはまだ分かりません」

山本「その点、内田さんは幹事長として都連の機能の重要な部分は果たしていたことにはなりますね」

坂本「最後、都知事選の結果が出た投開票日の夜も、負けてがっかりしているスタッフが事務所を撤収してたんですけど、内田さんが来て、青年部にも、秘書会にも今回は申し訳なかった、努力が報われなかったのは私の責任だから、君たちは前を向いてこれからも頑張ってほしいといってくれたわけです。組織を率いる人として、当たり前だけど、偉くなったら下げられなくなる頭を下げて、気を遣ってくれたからこその『ドン』だと思うんですよね」

山本「あくまで自民党都連を束ねる政治家、という意味では、メディアから流れてくる人物像とものすごくイメージと違いますね」

坂本「そこはもう、筋論として小池さんは都知事選に出るって言ってなかったのに突然の記者会見をやるとか、会長から絶対に小池さんではだめだと伝えられたとか、そういうことも全部考えて、丸く呑み込んで、増田さんでいこうとなったんだと思います」

山本「確かに、小池百合子女史の出馬の経緯は組織としては、本当に寝耳に水だったそうですが、そう考えると、もっと早く増田さんで自民内が一本化できていれば全然話が違ったかもしれませんね」

坂本「そうなんですよ。時間さえあれば、増田さんにはチャンスがあったと思います」

[[image:image02|center|中盤猛追も及ばなかった増田陣営奮闘絵巻。なお自称ジャーナリストは勝手に落ちてった]]

■増田選対、かく戦えり

山本「あくまで私見ですが、いくつかメディアで告示前の調査をやったりすると、増田陣営もそれなりに健闘するようにも感じられました。ちゃんと選挙活動をして組織固めをすれば、充分戦えるぞ的な。その後すぐに公明党が推薦を決め、増田さんにも当初は当選の可能性が高かったように見えました。告示と同時に調査したら全然人気なくてずっこけるわけですけど、最初は小池女史もそこまでではないです」

坂本「それ以上に、小池さんは必ずしも党内に味方も多くなかったですし、都連は主だった人たちは小池さんの唐突な出馬記者会見みたいなやり方は困るなあぐらいに思ってたですね」

山本「でも、出馬を強行した」

坂本「当初報じられたとおり、小池さんを本当に推薦したいっていう人は自民都連には多くなかったです」

山本「逆に言えば、東京10区の小池女史の選挙区は、むしろ小池女史の選挙での弱さが毎回話題になってましたよね」

坂本「今回、小池さんが走った理由も、簡単に言えば悪者になった自民都連が小池百合子さんをいじめたように見せてしまった部分も大きかったです」

山本「巨大権力を操る自民都連の石原伸晃や内田茂にいじめられて可哀想な私。石原慎太郎さんには顔のあざまでイジられて」

坂本「実際は、ちゃんと手続き踏まずに見切り発車で都知事選出馬会見開くもんだから、誰も聞いてなくてありゃなんだというだけの話だったんですが、都民には判官贔屓を煽るようなアピールをしていました。大枠の政策で待機児童や高齢者福祉と満員電車など交通問題、五輪、都議会、といったところを演説したのみで、具体的な政策はほとんど説明していません」

山本「でも通っちゃった、と。勢いを取られましたよね」

坂本「そこは、私もおおいに反省するところなのですが、借金倍増知事批判にせよ、東京一極集中問題にせよ、増田さんの弱点はだいたいが政策論や哲学のところなんです」

山本「そうですよ。だから、私も増田さんは優秀な学者かもしれないけど、都知事には考え方として全く向いていないだろう、と思っていたわけです」

坂本「はい、そこは正論です。なので、ホームページやツイッター、フェースブックで、しっかりと彼の政策について説明できるようにし、いろんな批判に対しても整合性のとれる形で反論できる仕組みを用意したかったのです。寄せられる質問にはほぼ全部答えました」

山本「しかし、時間がなかった」

坂本「そうですね。山本さんが一連の記事を書いてくださって、逆に言えば政策論のところでの批判が中心だったので、まあ、ほとばしる無能はきつかったですが、ならば、その政策で増田さんの反論をしっかりできれば、政策で困っている都民にとっては増田支持にできるチャンスだったんじゃないかと思いました」

山本「実際には、告示から一週間以上経過した22日ごろからQ&Aが充実してきた感じでしたね」

坂本「もっと早く出馬が分かって準備できていれば、全然状況が変わったであろうと思うと、競り合いができなかったところは選対として素直に反省しています」

山本「でも、増田さんはかなり道中で小池女史を追い上げる時期がありました。その後はメディアに押し切られる形でまた差が開いていくわけですけど、途中、公明党がかなり頑張って、公明党支持者の出口が劇的に改善していったのと、やはり増田さんの人柄の良さが有権者に浸透をしたんでしょうか」

坂本「途中、組織選挙ができるようになって、また三多摩地区では萩生田光一さんの後押しがあったり、また公明党の竹谷とし子さんにもずいぶんご協力をいただきました。中盤から八王子や立川といった地域での街頭演説でしっかりとした動員ができて、2,000人以上が集まって増田寛也さんを中心とした選挙活動に手ごたえが出始めるんですよね」

山本「檜原村では増田さんトップでしたしね。実際、三多摩市町村では増田さんはまずまず以上の健闘はしました。ただ、23区では小池女史に19%近くも得票に差をつけられてしまいました」

[[image:image04|left|増田陣営、健闘及ばず。年齢別では30代40代男性からは支持が特に薄かった]]

坂本「増田さんに対する批判は、都民の有権者の皆さまにとって、ある程度納得していただけるアンサーは作れてきたと思います。ただ、やはり自民党なるもの、自民党政治そのものに対する批判には、やはり抗いきれなかったと思います」

山本「そりゃ『小池いじめる自民党けしからん』とイメージで言われると、いやちょっと待って、話を聞いてくださいよと言っても耳を傾けてもらえないでしょうしね」

坂本「そこは、自民党の強さと同時に脆さ、弱さです。青年部も女性部も、夏の参院選が終わったばかりでボロボロになりながらも何とか戦えるように立て直そうとしてきました。でも、やはり安倍政権が強いですし、選挙をやれば勝ち、いける、という緩みはどこかにあったんだろうと思います」

山本「増田さんも、批判に対する回答はあっても、政策のパッケージは最後まであんまりきちんと揃わなかった印象はあります」

坂本「それは作りたかった。批判に対するアンサーソングのような。増田さんが勝つには政策しかないんですよ。そして、増田さんならそれができる人だと思ったし、あの経験値で経歴のわりに、ものすごく人柄は良かったんです。選挙が進むほどに、決して楽観視できる状態ではなかったけど、増田さんいい人だよねというのはありました」

山本「政策という点でいうと、そもそもその安倍政権自体が与党に返り咲くときのスローガンが『TPP断固反対』だったじゃないですか。あんまり自民党の選挙で政策を前面に立てると、あとで問題になったりしませんかね」

坂本「はい。政策で勝負するのは本当はリスキーです。増田さんにしたって、東京一極集中を批判してきた人ですから、その人が肝心の都知事になって前言どうするの、っていう整合性は、必ず取らなければなりません」

山本「単に政策主張してきただけじゃなくて、増田さんの場合は総務大臣として地方交付税特別枠の創設に深く関与し、現在の東京の法人二税では累計一兆円近い都民の税金が地方経済の財源不足の名目で流れ出たわけですよね。その結果として、顕在化しているだけで8,000人以上の待機児童に4万人あまりの特養待ち老人の列じゃないですか。あの金があれば、ひょっとしたら待機児童の問題はなかったかもしれない。都民としては、都民として納めた税金は都のために使ってほしいと願っていると思いますよ」

坂本「そういうお話も踏まえて、政策パッケージを作る時間や要員があれば、もう少し増田寛也さんと自民党公明党でできる都政もイメージしやすいような論点整理ができたんじゃないかと思います」

山本「つまり、増田陣営はかなり本気で政策論で選挙を勝ちに行ったんですね」

坂本「増田さんは知名度もそこまで高くない、演説も岩手県知事経験者の割には必ずしもパッとしない、ならば実績と知識、政策論で勝負する、都民が本当に困っている問題に迫れれば、浸透もできると」

山本「その点、小池女史の陣営に関していえば、ほとんど報じられていませんが、自民党本部で活躍していた面々がごっそり小池陣営に入ってますね。また、石破茂さんの系統の人物もいれば、国会議員本人は増田さんを応援する立場でありながら秘書や有力支持者は小池陣営で汗をかいてたり、ある意味で完全に自民党本部が増田さんを背中から撃ちに行った部分はありますよね」

坂本「さすがによくご存じですね」

山本「小池陣営の関係者リストは持ってましたから。でも、この陣容だと、増田さんを担いだ自民都連は、小池女史を裏で支えた自民党本部と対立していた構図になるわけで、単に分裂選挙を増田さんと小池女史で戦ったわけではないよ、都連対党本部の戦いだよ、という話になりませんか」

坂本「私が党とネット選挙の対策を一緒に打っていた人たちが、こぞって小池陣営にいってしまって、相談もできなかったというのはあります。ただ、都連は組織として増田さんを応援するという決定をしている以上、私は最後まで増田さんを応援するのが筋だと思いましたし、劣勢になっても増田さんは淡々と戦い抜いておりました」

山本「告示前に盛大に増田さんをぶっ叩いた私にわざわざ電話をかけてきて増田さん苦戦の『戦犯』呼ばわりしてきた議員さんが、実は秘書を小池女史の事務所に派遣していたのを知ったときはショックでしたけれども」

坂本「現場も党本部の判断も見えないまま増田さんの擁立を決めてしまったので、その意味では、人生を賭けて都知事選に立候補してくれた増田さんは可哀想だなと」

山本「でも、その構図だと増田推薦で頑張ってくれた公明党をも、自民党本部は裏切ったことになりませんか」

坂本「これは直接私が聞いた話ではないのですが、公明党の支持団体は小池さん応援だけはむつかしいと言っていたようです。そういう相性もあったんじゃないでしょうか」

山本「そこは小池女史の泣き所ですね。なんせ条件付きながら都議会解散を公約に当初入れていました。公明党や都議さんからすれば自民党内の内紛で解散させられて、やらなくてもよい選挙の前倒しになってしまうのですから、困惑するしかないですよね」

坂本「選挙やっていて思うのですが、やはり公明党は誠実な組織だと感じますね。やはり一緒にやらせていただきながら、見習うべことが多いなあと思います」

[[image:image03|right|自民都連の再編に、次なる戦いに、先を見据えて前を向く坂本さん]]

■小池百合子都知事と政界再編

山本「それにしても、小池女史は人望がないですね」

坂本「だからこそ、政権に距離を置かれて冷遇されたので都知事選に出たいといっても、最初は『じゃあ俺が』と担ぐ人が出なかったのです」

山本「まさか政策担当特別秘書に野田数さんを連れてくるとは思いませんでした。日本国憲法を無効とかいって、大日本帝国憲法は現存する決議を求める請願に賛同した極右の人じゃないですか。とにかく部下に対してドライというか、周りに優秀な人が残らない唯我独尊タイプの政治家が小池さんですね」

※参考小池百合子「都庁に着いたら5分で極右」の衝撃(訂正とお詫びあり)

坂本「都知事になるための小池選対は寄せ集めではありますが、選挙中は機能していました。それは凄いなと思ったんですが、その集まった人もいまは残っていない感じですね」

山本「でも、結局は自民党本部と結託して、自民都連を悪者にしつつまんまと都知事の座を射止めた小池女史の博打運の強さは偉大だと思います。その後の都政運営はどうするのかな、と思いますが」

坂本「具体的な政策をどうしたいのかは分かりませんが、かき集めてやってきた人たちは都連以外の自民党か、旧みんなの党の方が多いです」

山本「結局は、五輪の経費削減のような直接都民の生活にはすぐには関係しないけど人気になりそうな政策は進めつつ、自民党本部とノーゲームとか言いながら和解路線でいくか、旧みんなの党のグループや維新系の面々とつるんでお金を集めて地域政党のような『小池新党』を作ろうとするのかの二択ではないのかな、と感じます」

坂本「それはもう、来年6月の都議会議員選挙と、その前哨戦になる10月23日の東京10区補選ですね。東京10区に小池色のついた候補者が本当に出せるのか、というのは重要なポイントだと思います」

山本「小池女史の息のかかった候補が出馬できるということは、資金の手当てがついているということでもありますからね」

坂本「私としては、やはり有権者の生活に対して意味のある政策をきちんと打ち出せるかどうかが重要だと思っています。いっときの人気で当選を果たしても、有権者の信頼を得られなければ根を張ることができず、政治にはつきものの逆風になったときにすぐに落選してしまいますから」

山本「そうなると、小池女史の『小池新党』がらみも、結局は自民都連の立て直し次第でいろんな風が吹くということになるでしょうか」

坂本「もちろん、いろんな人のいろんな思惑はありますよ。でも、政治の根っこの部分はその政治家が本当に何を実現したいのか、どれだけ真剣に有権者と向き合えるかですよ。やはり、都連はコンプライアンスを巻き直して、体制を刷新しながら、実のある議論を積み重ねていかないと強くなれないし、有権者のためにならないです」

山本「本来、自民党が取り組むべき正論の部分ですね」

坂本「そこは、地方組織は党としての足腰、基礎体力の部分だと思っています。だからこそ、増田さんをしっかり支えられる議員や支部の機能した三多摩地区では善戦ができたのです。演説に有権者も足を運んでくれました。小池『劇場』といわれ、それに勝てなかったのは悔しいけど、組織を立て直し、地力をつけるという意味では、ここで負けておいて良かったんじゃないか、とさえ思います」

山本「ここで選挙にうっかり勝っていたら、今度は微妙な状況の都連の組織のままでまた都議会選挙ですよね」

坂本「自民党が、批判をされるのはいいんです。ただ、党が、党本部と都連で割れて、分裂選挙をしている場合かと。都政が停滞して困るのは都民ですよ。だからこそ、孤立無援でも増田さんが最後まで戦い抜けるように頑張ろうと」

山本「それはもう、哲学というよりは美学ですね。石破派含めて、党本部系のメンバーは小池陣営に行ってしまいましたし」

坂本「悔しいけど、情報の収集力は向こうが抑えてしまっていました。安倍総裁から増田さん応援のビデオメッセージしかもらえなかった時点で、決まりだったんです。でも、増田寛也さんも人生を賭けて立ってくれた。いろんな心無い中傷もいっぱいある中で、五郎丸のポーズまでして、頑張ってくれたんですよね」

山本「でも下手をしたら、分裂選挙を引きずって、”自民党本部と小池都知事”対”自民都連”という構図もあるかもしれません。地域新党結成もあるよとなれば、また東京都は大混乱に陥って、惨めな辞め方をした猪瀬直樹さんや舛添要一さんのような短命都知事になってしまったとき、そこに残るのは内部対立で精力を使い果たして弱体化した自民党の姿かもしれませんよ」

坂本「だからこそ、この敗戦を機に考え直し、コンプライアンスをきちんと掲げ、組織を立て直して有権者の請託に応えられるような都連にしないといけません。いままでが、強い安倍政権のお陰で下野時代の苦労も忘れるほどの追い風選挙で慢心して、上と下とで意見の疎通もままならなかったので、新執行部が決まったら東京10区補選に向けて準備をしたいと思います」

山本「それは期待半分、不安半分ですね。また自民都連の新執行部がやらかしたらネットで盛大に叩かせてください」

坂本「えっ」

山本「えっ」