無縫地帯

日産が国産車初の自動運転技術搭載車を市販開始する件

日産が新型「セレナ」でハンドル・アクセル・ブレーキ全て自動化を実現すると発表、それにまつわる技術的な活用に関する議論について取りまとめてみました。

山本一郎です。先日久しぶりに豪快に酔っ払って帰宅したんですが、いつの間にか歯磨いて着替えてベッドで寝てたんで、私自身が自動運転を先取りしてるんじゃないかと思います。

ところで、Teslaの事故を見て、自動運転という技術を一般市販車へ導入するのはハードルが高そうだなとぼんやり思っていたりもしたのですが、テクノロジーの進化は止まることを知らず、遂に我が国の自動車メーカーもそうした技術を搭載する車両を一般向けに市販する時代がやってきました。

日産、ハンドル・アクセル・ブレーキ全て自動化新型「セレナ」で(日本経済新聞 16/7/13)

日産自動車は13日、8月下旬に発売するミニバン「セレナ」の新型車に自動運転技術を搭載すると発表した。カメラやセンサーを使って車両を制御し、高速道路の単一車線において自動で走行する。
(中略)
日産が開発した自動運転技術「プロパイロット」は、前方車両の追従や車線維持など自動運転の「レベル2」に相当する技術を組み合わせたもの。渋滞時の停止・再発進を含めてハンドル、アクセル、ブレーキ制御をすべて自動化するのは日本車メーカーで初めて。日本経済新聞
自動運転技術を搭載するのはファミリー向けのミニバンと呼ばれる車種であり、しかも「価格は現行モデルと同水準」ということですから、日産としては、特殊な市場向けということではなく、国内で広く大量に売ることを狙っていると解釈していいでしょう。他に何か狙いがあるのかもしれませんし、実際に販売が開始されてみなければどうなるかは分かりませんが、もしこの車がヒット商品となれば、今年の下半期には日本の路上に自動運転技術を搭載した乗用車が大量に行き交う事態が発生するということになります。

日産が導入するこの新しい自動運転技術がどのようなものであるかについては、次の記事が詳しいです。

日産、今夏発売の新型「セレナ」に搭載する自動運転技術「ProPILOT(プロパイロット)」説明会(Car Watch 16/7/13)

「ProPILOT」は高速道路における単一車線での使用を前提に、アクセルを自動でコントロールし、ドライバーが設定した車速(約30km/h~100km/h)で走行できるほか、先行車との距離を保つよう自動でアクセルとブレーキをコントロールし、追従と停止に加え、停止保持まで可能にした。さらに直線やコーナーで車線の中央付近を維持するステアリング制御まで行なう。Car Watch
やや気になるのは「高速道路における単一車線での使用を前提」と説明されていますが、こうした機能をどこで利用するかの判断はドライバー側に委ねられているのか、それとも自動車側で高速道路以外は利用できないように管理する機能などが用意されているのかというところでしょうか。運転の手触りがどうなるのか、記事の中だけでは良く分かりません。

現実に海外で事例報告されているTeslaの例を考えると、面白がって色々な状況でこうした機能を使って無茶なことをしてしまう輩が出てくることは避けられないだろうなということです。まあ、そういう人がいるということは別に自動運転がどうのという話とは次元が違うことではあるのですが、なんたらに刃物といった事故が多発するのだけは避けたいところです。このところ、ただでさえ物騒ですし。

ちなみに、日産のProPILOTで自動運転の要となる画像認識技術はイスラエルのMobileyeが開発したものを採用しているようです。この技術はTeslaも採用しているもので、まったく同一なのかどうかは分かりませんが、Teslaの事故の原因が何であったのかが解明されないとやや不安を感じなくもありません。

また、Teslaの自動運転機能の画像認識については、AIによる認識エラーの生じる可能性があり、それが事故に結びつくのではないかという論考もあります。

AIは勘違いする―テスラとトヨタにみる自動運転カー戦略の違い(ITpro 16/7/14)

人工知能は、往々にしてだまされ、勘違いし、間違った判断を下してしまう。そのことを最も残念な形で示したのが、米テスラモーターズの電気自動車「Model S」で2016年5月7日に発生した死亡事故だろう。ITpro
もちろん、人間の肉眼が起こすエラーのほうが、自動運転で起こしがちな認識エラーよりも圧倒的に多い、という前提になっていくでしょう。あくまで、この問題自体は過渡期であるとして、どれだけ死亡事故など重篤な事案を減らせるかがやはり大事です。

この論考で興味深いのは、レベル2と言われるような運転支援レベルの機能でも、その安全性をある程度確信してしまうと「ドライバーは運転支援機能に依存して、本来ドライバー自身が担うべき運転中の注意力を失ってしまうのではないか」というニュアンスの問題提起をしているところでしょう。確かに、まあ運転は自動運転任せでいいやと割り切ったときに、注意力が散漫になるのはいかにもありそうなことです。

この記事はTeslaのライバルとなるトヨタの自動運転技術開発を紹介するものでもあるので、どこまでそのまま鵜呑みにしたものか微妙でもありますが、確かに中途半端な自動運転技術が普及することで、これまでにはなかったタイプの交通事故が増えてしまうとしたら、それは本末転倒になってしまいます。

やはり自動運転はクリアすべき課題が多く悩ましいものがありますね。日産がどのようにして新しいセレナを市場へ売り込んでいくのか、また社会はそれをどう受け止めていくのか見守りたいと思います。