無縫地帯

増田寛也と「西松建設」

増田寛也さんが正式に東京都知事選立候補を表明しましたが、改めて、当時の岩手県政で何が起きていたのか、西松建設事件の発生と経過、結果を見ながら「実務家」の状況をもう少し説明したいと思います。

山本一郎です。争いのない世の中にしたいと願う平和主義者です。平和を実現するために日々戦っています。

冒頭から立場表明する一文を挿入したところで本題ですが、我らが自民党推薦増田寛也さんが都知事選に正式に立候補表明をされました。都議団との話し合いでは、なぜか私のヤフーニュースの記事が回覧され「一部の風聞はありますが、しっかりと働いていきたい」とお話されたそうです。そんな重要な場面でこのわたくしの駄文が宙を舞ったというのは光栄の限りです。

増田寛也氏が出馬会見「これからは東京と地方ともに繁栄」(産経新聞 16/7/11)
増田寛也「ほとばしる無能」を都知事候補に担ぐ石原伸晃&自民都連(訂正とお詫びあり)(ヤフーニュース個人 16/7/4)
増田寛也と「すでに失われた」都税一兆円(ヤフーニュース個人 16/7/9)

私も増田寛也さんについては、いろいろとやわらかく穏便に指摘してきましたが、どうせ立候補するからにはきちんと都民の目を見て、きちんと政策面についてお話をされ、過去の問題を総括し、一連の増田寛也さんのご主張については過去と現在の整合性をしっかりととって選挙戦に臨んでいただければと願う次第であります。

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増田氏は会見で'''「私の決意」'''と題する文書を配布。これまで東京一極集中を批判してきたことについては「これからは東京と地方がともに繁栄する共生社会を実現する」とした。
そうですか。

で、96年から03年にかけて、増田寛也さんが岩手県知事にご在職あそばされていた時期に、いわゆる小沢王国問題のひとつ「西松建設疑惑」というものがあります。簡単に言えば、公共工事を発注するにあたり、通常執り行われる入札ではなく、特定の事業者を指名して発注する「随意契約」が乱発され、その契約先が中堅ゼネコン「西松建設」に集中していたため、斡旋収賄で小沢一郎さんなどが深く関与しているのではないかと疑われてきました。

その嫌疑は、当然のことながら当時岩手県知事であった増田さんにも及ぶわけですが、増田さんはこれらの一連の随意契約との関わりや、利益供与についての関与を否定。その後、西松建設は数奇な運命を経て刑事事件にまで発展し、偽装献金事件として政治スキャンダルとなりました。

岩手日報は、そのころ次のような記事を掲載しております。

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西松との関係を否定献金問題で増田前知事

【東京支社】西松建設の巨額献金事件で、前知事の増田寛也氏は9日、岩手日報社の取材に答え、知事在職時代について「関係者との面識や付き合いは全くない。(公共工事をめぐり)働きかけを受けたこともない」と全面否定した。

同社は1996年度から2005年度にかけて県内で14件の国・県発注工事を受注している。当時現職知事だった増田氏は「会社関係者や、(公設第一秘書が逮捕された民主党代表の)小沢一郎氏の関係者から、働きかけや照会を受けたことはない」と説明。

「個別の工事で知事のもとになんか来ないだろうし、県は(発注業者の選定過程で)入札を実施しているから(便宜を図るのは)無理だ」と述べた。

逮捕された小沢氏の公設第一秘書、大久保隆規容疑者とは「秘書になってから、会ったり、話をしたことはないんじゃないか」とし、小沢氏との関係は「知事の2期目からぎくしゃくして、話す機会はほとんどなかった。そもそも、行政運営には関与しない-というスタンスだったと思う」と語った。
一連の西松建設事件の裁判記録を見る限り、また外部に出ている関係者証言を知る上では、岩手県知事だった増田寛也さんが本件について働きかけられた、何らかの便宜を図った、という話は出てきません。その意味では、何も知らされていなかったのでしょう。

[[image:image01|right|岩手県政と西松建設。異常な落札率が見て取れる]]

一方で、自分が県知事として組織のトップにいるにもかかわらず、総額193億円余りの随意契約その他が西松建設によって食い荒らされ、しかも検察庁にブチ込まれて西松建設社長の國澤幹雄さんが執行猶予付きの有罪判決を喰らっている事件について、「まるで知らなかった」「働きかけを受けたこともない」とするならば、”実務家”として自分とこの組織がダムやトンネルや病院の建設で二桁億単位の問題取引に気づかないはずがありません。

増田さんは、その後、3期目から小沢一郎さんとの関係が悪くなり、疎遠になっていきます。これは、増田さんも小沢さんも認めるところですが、その距離をとった後から、西松建設の巨額の随意契約がぱったり無くなるのは偶然ですよねそうですよね。

この手の受発注事情に詳しい岩手県職員OBは、本件について「はじめから増田さんは小沢さんの取引のやり方の問題点を知っていたが、力関係や、岩手県知事になるとき支援してもらった仁義もあるので、利権に手を突っ込んで関係を切らせることができなかった」と証言しています。また、西松建設事件の公判記録でも、「県庁組織の中でも問題点について認識する者は多く、談合的不正が見受けられる取引であってもこれらの『天の声』による取引を妨害すれば自らの立場が危うくなると見越して報告する者は少なかった」「県全体が利権構造を黙認するような気風が生まれたのは、県の財政が悪化し必要な工事を捻出しなければならない状況で、どうにかして中央政界とのパイプを活かし利益誘導を図る他に生き残る方法はないと県庁トップが考えているからだった」と陳述されています。

この「地元の利益のために、中央からお金を引っ張ってくるための仕組み」が西松建設の本筋だとするならば、その引っ張られた中央からのお金は公債費であり、いずれ返さなければならない資金であると同時に、不要不急のダム建設その他を落札率ぎりぎりの値段で随意契約という談合を極めて強く疑わせる取引にカネをぶっ込んだのが岩手県庁トップ、すなわち当時県知事であった増田寛也さんです。

改めて、増田岩手県政で公債費比率がどう増えたのか、見てみましょう。利権に食い物にされ、利益誘導した時期と、交際費が増え、岩手県の希望が失われていく期間と一致していませんか、どうですか。

[[image:image02|center|緑枠が増田寛也さん岩手県知事就任期間。”天の声”に岩手財政が食い荒らされている]]

善意で捉えるならば、自分を岩手県知事に就けたのは当時の実力者であった小沢一郎さんであり、彼が地元で作り上げてきた天の声システムをぶち壊すのは裏切りに等しいと考えたのかもしれません。また、自らが岩手県を「株式会社」とし、アクセルを吹かして地方経済を良くするためには、エンジンとするための大きい公共工事が必要だと考えたのでしょう。ある意味で、岩手県と西松建設の仕組みを見てみぬフリをして、利権の悪弊を断ち切れないで公共投資を増やしたら、結果として借金が二倍以上になってしまったというのが増田岩手県政の前半の大問題だったと思われます。

翻って、昨今、元東京都知事の猪瀬直樹さんや、対抗馬として立候補している小池百合子女史が、さかんに東京都政の伏魔殿っぷりを喧伝するコメントを乱発しておられますが、ビール券愛好家として世界でも名高い自民都議・内田茂さんを中心とする利権構造については、かねてから多くの識者がなんとなーく事実関係を知っているというような代物が多数です。神宮外苑再開発や葛西臨海公園、お台場新交通、大手町再開発などなど、大口の再開発事業には必ずぶら下がっている都議がいるという話はかねてからある話です。いうなれば、岩手だったら小沢一郎さん一人しか支えられないけど、大都市東京だったらミニ小沢一郎がたくさんはびこっているという図式なのかもしれません。それを猪瀬直樹さんや小池百合子女史が問題だといってワーワー言っているの巻ですが、言うならもっと早くから言えよ。

岩手県でさえ小沢一郎さんとすったもんだして、関係悪くなってから四選出る前に対抗立てられて出馬見送りした増田寛也さんが、果たして東京都のようなスケールの大きい地域の利権を本当に捌けるのかという話です。彼のいう、「東京のために働く」というのは、単にこれから公共政策を積み上げて成果を出すという話ばかりではなく、この手の悪弊によって浪費されている都の予算を正常化して、きちんと都民の福利厚生や産業育成、教育のために使えるようにできるのか?という問題なわけであります。

日本創成会議にかかわりの深い人物は、今回の都知事選出馬の問題を見て「増田さんは都知事なんて器用な芸当をできる人じゃないけど、都知事になったらすぐに醜聞が出て、また都知事選しなければいけなくなるかもしれないね」と笑っておられました。このままいくと、対抗馬に恵まれて増田さんの都知事当選もあり得る状況になっているとは思いますが、都知事になるからには、気持ちを強く持って、都民と東京都の発展のために「旧弊の打破」「利権との戦い」に身を投じていただきたいと強く願っております。

過去を反省し、問題を総括して、東京都民のために働きたいという「私の決意」が事実であるならば。