無縫地帯

増田寛也と「すでに失われた」都税一兆円

東京都知事選挙で、自由民主党東京都議連が推薦を決め、出馬表明をするものと見られる増田寛也さんですが、もともと東京一極集中否定論者で、かつ東京都に入るはずの都税を地方に流す制度の推進者です。

山本一郎です。東京は中央区生まれ、先祖も江戸っ子であります。

先日、我らが東京都の都知事を決める選挙(通称「50億ガチャ」)に出馬が取り沙汰されている増田寛也さんについて優しく穏やかに論じたところ、多くの方にお読みいただきました。ご関心を持っていただきありがとうございます。

どうも、増田寛也さんは周囲に担がれる態でと知事選出馬の意向を固めたとの報道がありました。

[[image:image04|left|誇らしげに都税巻き上げて地方に流したことを自慢してるのは良くないと思います]]

増田寛也元総務相、10日に出馬表明へ民進党に石田純一氏擁立の声も(産経新聞 16/7/9)
増田寛也氏、都知事選出馬へ11日に正式会見(朝日新聞 16/7/9)

微妙に表明する日付が違いますが、まあだいたい参院選後、結果を見て発表ということでしょう。

ただ、頂戴しました反響の中で「増田さんの問題に絡んで、山本さんが東京都についてどう考えているのか知りたい」というご質問や、有識者、政党関係者、都職員の方などから「もっと踏み込んで増田さんの問題点を指摘して欲しい」というご連絡を頂戴しました。

増田寛也「ほとばしる無能」を都知事候補に担ぐ石原伸晃&自民都連(訂正とお詫びあり)(ヤフーニュース個人山本一郎16/7/4)

また、東京都の擁する特別区23区の区長さんたちや、市長が増田さん支持や擁立側に回る動きもあったのですが、私が記事を書くまで増田さんのことをご存知ない、あるいは外側しか、一部の首長の方は知らなかったようです。一度知らずに担いじゃったので降ろしようがなくなっているのかもしれません。

そこで、ご著書に『東京消滅』とかいう東京の現状批判の急先鋒とも言える論陣を張られてきた増田寛也さんが、何を主張し、総務大臣時代に何をしたのかについて、もう少し掘り下げて解説したいと思います。

■結論

増田さんは、福田内閣総務大臣時代に、東京一極集中ではなく疲弊する地方経済を救済する目的で、東京など税収の多い地域に対して「地方交付税特別枠」という東京に納まるはずの税金をほかの道県に流す制度を作りました。

結果として、増田さんのこの方針、制度のおかげで東京都は過去7年間累計で1兆円以上、税収を失いました。

さらに、一連の暫定措置は、消費税10%への引き上げが再延期されたことで取り止める口実がなくなり、そのまま地方税一部国税化拡大という方針に繋がっていきます。
このため、東京に納まるべき税金が日本の他の地方の道県(交付団体)へ、年間約5,800億円も流れ出てしまう状況に陥りました。

これからさらなる高齢化に直面する東京都にとって、これらの予算が都税に繰り入れられないため、喫緊の課題であるはずの育児、教育、高齢化対策、交通渋滞や通勤電車混雑の緩和、首都高ほかインフラの耐震化に使えなくなります。

これらの東京に著しく不利な政策を導いたのは、「東京一極集中」を長く批判してきた増田寛也さんに他なりません。
東京都知事に立候補した増田さんは、これらの政策を撤回し、東京に住み東京で働く人たちの税金が東京の発展や安全に使われるよう主張してくれるのでしょうか。

[[image:image02|center|都税が累計一兆円以上流れ出るカラクリ。「三位一体改革」後、文字通り拡大の一途]]

※ご参考地方法人課税を巡る動向と東京都の主張~今こそ地方自治の原点に立ち返った議論を~


■「東京一極集中」議論の是非について

まず、増田寛也さんの主張については、国全体、日本社会全体から見たとき、日本が均一に発展し、都市と地方の格差なくやっていけることが望ましいという「理想」を高く掲げる点については理解できます。理想と理念においては、増田さんの議論の方向性は正しいとは一国民として思います。

また、人口のダム論もそうですが、現象の数字だけ見たとき「東京の合計特殊出生率は他の道府県に比べて低い」ため、独身単身者のブラックホール的な位置づけとなっています。つまり、東京に来るから出生率が低く、若者が結婚せず子供を生まないのだ、という議論です。したがって、地方に若者を残すほうが出生率が高く推移するはずだ、彼らを地方に留め、地方経済をうまく回す人口規模にすることで、日本全体が良くなるはずである、という考え方です。

そして、昨年は東京の高齢化が進む際に、すでに人口減少局面に入り施設が余り始めた地方都市に介護や公共のサポートが必要な高齢者を送り込むというアイデアを日本創成会議で発表されています。

これら、増田寛也さん率いる日本創成会議の提言は、大変チャレンジングで、興味深いものではあります。理想を高く掲げて政策提言するのは歓迎されるべきことだと思います。

ただし、これらの増田提言の問題は3つに集約されます。

・理論的な根拠は何もありませんが大丈夫ですか
・どうやって実現するんですか
・それは都知事がやるべきことですか

いずれも、抜き差しならない致命的なものばかりですが、そもそも地方都市を活性化させるために若者を留めることも、首都圏が高齢化するので対応可能な地方都市に移住させることも、全部岩手県知事時代の増田寛也さんがやろうとしてできなかったことです。

岩手県が他県より県民一人当たり公債費が多く、(東日本大震災があったとはいえ)人口の流出が主に若年層で進み、高齢化の進展具合が激しかったのではないでしょうか。結果として、岩手県の経済は現在もなお、低迷を続けています。仕事がないのですから、年金でお金が降ってくる高齢者以外岩手県に住む理由は地元愛しかなくなってしまいます。

これは増田寛也さんが岩手県で行った失政の根幹です。

[[image:image03|left|東京の競争力を公然とDISる増田寛也名の文書。]]

理論上は、地域経済発展のために公共事業を行い、地元経済を刺激して雇用を増やし活性化させよう、という方針だったのでしょうが、現実の政治では完全な失敗に終わったことは、先に掲載した記事で述べたとおりです。

また、東京など都市部に人口が集中するのは、東京に移り住む日本人一人ひとりの事情によるものです。就職や就学、両親の介護や子供の教育など、個人の考えや事情で東京に移動してくるものなのに、地域経済が疲弊しているというその日本人にはあずかり知らぬ事情です。「あなたはお金をあげるので、地方都市に留まってください」という方法論そのものに無理があります。

ただでさえ現在でも、地方都市や道県では、帰農したい個人や移住する家族に対して、それなりに手厚い奨励金を出しています。場合によっては直接支給額や免税額その他をあわせて5年間毎年100万円以上支給される地域もあります。ここまでやっても移住が進まないのに、たとえば首都圏に住む3,000万人の1%、30万人をどこかの地域で暮らしてもらうよう年間100万円支給し奨励するだけで、年3,000億円の追加予算が必要になります。それも、移住するだけであって、地域でどんな生産的な活動をするのかはすべて除いた話です。生活が軌道に乗るまでは、移住したその国民一家が努力するしかありませんが、地方都市はそもそも家族を充分に養えるだけの仕事がないから経済が低迷し、疲弊しているという現実を忘れています。

さらに、東京で高齢化が進むのはわかっていますから、それへの対策は必要ですけれども、その高齢者を地方都市に移動させる提言もされています。日本創成会議が毎年提言すべき内容がなくなってきたので、どうにかして話題になりそうなテーマをつまんで捻り出したのかもしれませんが、なぜ高齢者を縁もゆかりもない地域に税金で送り込んで余生を送らせる政策を主張するのでしょう。
この提言された政策は頭の体操としては良いかもしれませんが、これができるなら国土交通省や総務省などが推進しようとしたコンパクトシティもとっくに成功しているはずです。

[[image:image01|right|突然「希望出生率」なる概念が出てくる謎の文書。]]

地域活性化にせよ少子化対策にせよ高齢者問題にせよ、政策上、必要なことなのは認めます。増田さんの言うとおり、きちんと手を打つことが政治の責任だというのは分かります。しかしながら、政策としてできることとできないこと、効率化できる部分とできない部分とがあります。

もしも、出生率が東京において顕著に低いとするならば、保育園を建て、保育士に然るべき給料が払われるようにし、共働き世帯やシングルマザーに対して子供を生んで経済的損失が起きないように配慮し、またどの世帯でも子供を生んだら例外なく助成して「子供を生んでも貧困には陥らないのだ、教育や収入やキャリアには傷つかないのだ」と母親が知って初めて改善していくものです。いま地方都市のほうが出生率が高いからといって、目先の年100万円程度につられて地元に残る若者が子供を生み東京以上の出生率を実現する根拠はどこにもありません。出生率を改善するのに「地方のほうが出生率が高いから東京から若年人口を移す」のではなく「地方なみに東京で子供を生みやすく、育てやすくする」のが政策の本筋のはずです。

増田寛也さんの失政や東京批判の理由は、単純に「東京一極集中の弊害」を前提としているからです。東京対地方の構造を作り上げ、東京を悪者にし、東京が稼ぐお金や人口を地方に還流させることを発想の原点としているから、東京に若者が来ないようにしよう、東京の高齢者はケア不足に直面するだろうから地方都市に送り込もうという政策の発想になるのです。

東京都知事に立候補する限りは、増田寛也さんには東京都民のために働いてもらわなければなりません。少なくとも、いままでの自説を曲げ、東京都の都民の幸福と安全と発展に資する政策を掲げてもらえなければ、都民に望まれる政治はできないでしょう。

必要なことは「東京に若者を集めず、地方都市に残す」のではなく「東京の若者が結婚して子供を育みやすい環境を充実させる」ことであり、「東京に住んでいる老人を地方に送り込む」のではなく「老人がここを終の棲家にしたいと思えるような福祉政策を効率的に東京で実施すること」です。

それを実現させるためには、東京都に住む都民や、東京にある法人が納める税金が、きちんと東京都の発展のために使われるべきですが、増田寛也さんは福田政権の総務大臣をされていた時代に、東京都にとって著しく不利な政策を先導されました。

それが「地方交付税特別枠」という、東京都に入るべき税金を他の地方都市に流し込む仕組みです。

■その都税一兆円はなぜ消えたのか

増田寛也さんは知事経験者の民間人として、第一次安倍政権から福田政権まで、07年8月より08年9月まで総務大臣という重量級の要職にありました。失職した理由は福田康夫首相(当時)が突然「あなたとは違うんです」とか言い出して内閣総辞職したからです。

[[image:image05|center|法人事業税と地方法人税「暫定措置」の仕組み。この金で保育士何人雇えるのか…]]

その一年強の総務大臣在職中に、増田寛也さんが行った重大な意思決定のひとつが「地方交付税特別枠の導入」です。地方再生対策費として08年度予算に計上された約4,000億円は、リーマンショックで経済混乱を回避する目的で拡大され、その後は10兆円近い地方の財源不足を埋める政策のひとつとして定着してしまいます。人口減少に見舞われ、歳入不足に陥った道県・地方自治体など交付団体に対して「地域経済の活性化」の名目として資金が割り当てられ続けています。

そして、2014年の「骨太の方針」以降も、これら暫定措置であったはずの制度が継続され、採算の取れない地方経済救済の財源として、いつまでも都市部の地方法人税が財布としてアテにされ続けています。

年間5800億円の減収地方税一部国税化拡大で試算/東京(毎日新聞 15/9/16)

ここで問題になるのは、なぜ「事実上、東京都など都市部だけが地方経済救済のための予算をかぶらなければならないのか」です。もちろん、日本の国全体の問題として地方経済の疲弊を捉えたとき、均質な経済発展を実現できることは理想ですし、一人の日本人としても、困窮する地方在住の日本人に対して何らか救済したい気持ちは強くあります。

しかしながら、それは本来、国の税金として、広く国民から税金を集め、必要な財源を確保し地方経済に対して相応の傾斜配分をする形にするべきです。

歳入の状況(一般会計)

東京都が都民の生活を支えるための各種サービスを充実させるのに必要な財源は必ずしも潤沢ではありません。待機児童が増え保育園が不足し、保育士に充分な給料を支払う補助を都が付けられないこと、首都高速の建て替え・補強など東京の都市機能の耐震化、交通渋滞や満員電車の緩和や、低所得者向けの住宅政策、特別区や市町村の行う介護サービスへの補助など、都民の暮らしに直結する予算は、本来この地方法人課税から捻出されるべきものです。

この増田寛也さんの構想は、国全体で見れば05年の「三位一体の改革」の精神を引き継ぐもので、「稼げるところから、苦しいところへ」という考えであったと思いますし、当時の都知事であった石原慎太郎さんの妥協もあって成立したものであることは理解できます。

しかしながら、東京都の知事、都民の暮らしに責任を持つ立場を目指す人物が、国民に対して東京消滅を煽り、東京一極集中を批判しながら、これらの都民の納める税金をほかの交付団体・道県に回す政策を主導してきたことは、よく知っておくべきであろうと思います。

石原都政を引き継いだ猪瀬直樹さんや、舛添要一さんは、不十分ながらもこの東京都にとって著しく不利な地方法人課税の状況を打開するために主張を繰り広げておられました。さて、増田寛也さんは都知事になって、自分が道筋付けた制度や、かねてから主張してきた東京一極集中批判に対して、曲げて都民の立場に立ってモノをいうことはできるのでしょうか。

都の税収の意味からは、そもそも増田寛也さんは文字通り「A級戦犯」と言えます。

そればかりか、この増田さんの方針を下敷きに2015年「骨太の方針」で2016年度(平成28年度)以降は法人住民税(都道府県税、市町村税)や法人事業税(都道府県税)の一部国税化が進み、年間5,800億円もの都税が国庫経由で地方に流れていくことになります。

本来は法人事業税の一部国税化(地方法人特別税)の「暫定措置」であったものが、いつの間にか「消費税10%に上がるまでの措置であった」として、現在もなお続いているのが現状です。東京都にとって、また都民にとって、本来であれば都民のために使われるべき都税が、さらに国庫に繰り入れられて地方にばら撒かれているというのは望ましい話ではありません。

地方経済が疲弊しているということであれば、均一かつ公平に国民や法人から税収を取れる仕組みを作るべき話であって、東京など都市圏が地方経済を救うための税金を上乗せで払い、それに見合う利便性が得られない仕組みで我慢する必要はどこにもないと思います。

これらの税収の「召し上げ」は、本来東京都庁だけでなく、各特別区や市町村も本来は得られるべき税金が入らないことを意味します。都税が入らないことで、我慢するのは保育園や介護サービスなど、都民に当たり前に提供されるべき東京の公共サービスを得られない都民です。区長会や市長らがこの不公平な税制を実現した総務大臣であった増田さんを支持する理由が分かりません。

■試金石は、新宿区の韓国学校、そして日韓グリッド構想

そういう東京都の抱えている問題と、解決するための財源を両面で考えるとき、増田さんの主張してこられたことや、実現してきた政策を見るに、東京都民のためではなく広く日本の国家全体を捉えての話が多いことは理解できると思います。

そして、いま困っている都民や、東京都自体の都市経営や将来ビジョンが問われるべき時期に、あまりにも東京都に不利な政策を提唱し実現してきたことが都民の暮らしにプラスにはならないであろうことも分かります。

都民として、いろんな国籍の方が外国人としてやってくるダイバーシティが広がっていくことは言うまでもないとしても、特定の国にだけ配慮する政策を行う場合には充分な公平性や優先順位の見直しが必要であろうと思います。

その大きなジャッジとしては、新宿区に建設を計画していた都有地での韓国学校の建設に関する是非でありましょう。日本で暮らす韓国籍や韓国文化に親しんでこられた方が、日本で然るべき教育を受けることの必要性は私にも分かります。ただ、本稿でも述べたとおり、都民が共働きをするにあたって預けたい子供が保育園に入れない状況で、都有地で韓国学校建設を優先する理由は特に無いように思います。

この問題は都民にとっては「育児問題を優先し、都民の生活に理解のある候補者かどうか」という重要なトピックスになるのですが、増田さんは一連の政策議論の中でどういうわけか韓国への配慮や優遇も含めた連携策をさまざま打ち出してくるところがあり、非常に気になるところでもあります。

そのうちのひとつが、増田さんが座長を務めておられる日本創成会議において「日韓グリッド構想」なる自然エネルギーを含むアジアでの電源開発を目論む巨大プロジェクトを「民間ベース」で実現しようとした事案です。これは、当時を知る官僚や、当の日本創成会議のメンバーも「このようなプロジェクトが具体的に提唱されるとは知らなかった」「あれは増田さんのスタンドプレー」と評されるもので、増田さんが座長として”リーダーシップを発揮した”ものと見られます。

始動する日韓グリッド接続構想アジア電力網の試金石 (日本経済新聞 11/12/29)

幸いにして、外交問題その他、日韓関係の情勢悪化もあり頓挫したものの、日韓グリッド接続構想という筋の悪い政策を提唱したのも増田寛也さんであることは考慮に入れておいて然るべきだと思います。「関係の悪い国と日本とで電力送電網を繋いだとき、有事にエネルギー供給を相手国に握られる可能性のある恐ろしさ」さえも理解できない感覚では困るわけであります。

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それでも、増田氏は日韓のグリッド接続を急ぐ方針に変わりはないと強調する。あくまでも民間ベースの事業として進めることで、政治的な障壁を乗り越えようとしている。
さて、民間のどこのカネをアテにして、2015年から2020年までに実現を急ぐつもりだったのでしょうか。よく分かりませんが、気になるところではございます。

余談ですが、ソフトバンクグループから離脱したニケッシュ・アローラさんがアメリカの投資グループに対して孫正義さんの投資が「趣味的である」と批判した問題のひとつは、この韓国、ロシア、モンゴルなどを繋いだスーパーグリッド構想と電源開発が荒唐無稽だからなのですが、その下敷きの布石を打ったのがこの増田寛也さんの構想であると言われております。

孫正義氏のアジアスーパーグリッド構想=「再生可能エネルギーをモンゴルから送電」という野望【争点:エネルギー】(ハフィントンポスト 13/9/11)
ソフトバンク、「アジアスーパーグリッド構想」を中・韓・ロシア企業と事業性調査(日経テクノロジー 16/4/1)

増田寛也さんに極めて近しい筋は、かねてからこれらの事業についてソフトバンクグループからの”提案”を受けて動くケースがあるといい、先日の記事でも書きましたが岩手県の赤字地方競馬場2つに追い銭330億円を県予算から押し込むにあたり、ソフトバンクグループとオンラインでの勝馬投票券の販売を行う提携を行うなど、まさに”実務家”というべき事業を展開しておられます。

ソフトバンク、岩手県競馬組合と業務提携--勝馬投票権をネット販売(CNET 05/9/6)

そういう状況ですので、本当に都民や、ひいては日本人のためにどこまで働いてくれるのかなあという気持ちを持たせる御仁ではあります。
なぜこの日韓グリッド構想が一定の進展を見せたのかについては、ぜひ増田さんも手を胸に当てて良くご自身と向き合っていただきたいと願う次第でございます。

■おわりに

個人的には、石原慎太郎さんの国政転出での辞任から、猪瀬直樹さん、舛添要一さんと短命の都知事が続き、せっかくの東京五輪も霞むほど都政が停滞しているように見えるのは残念に思っています。

そのためにも、しっかりと4年の任期を勤め上げ、また続く選挙に勝って、2期めの冒頭に控える東京五輪に胸を張ってホストとして振舞ってくれる人物を希望します。

一方で、中長期的には述べたとおり五輪のようなイベントをやっている余裕は本来ないぐらい、高齢化対策、少子化、教育、インフラその他、喫緊の問題への対処や、日本の首都東京に相応しい長期の目線で都市設計ができる先導役を求められます。

舛添さんが降りてみて気づいたことは、駄目だ駄目だ言って降ろしてみたら、他に相応しい人が大政党のどこをひっくり返しても見当たらなかったという、有権者にとっては途方に暮れる状況だったということです。それは同時に、政治家を見極め育ててこなかった有権者の責任でもあります。政治家は有権者の鏡であって、政治家に罵声を浴びせたところで、それは鏡に映った自分の至らなさを自分で指弾しているようなものなのでしょう。

誰もが平等に満足できる政策など無いこと、またいま東京が抱えている問題を一夜のうちに解決することもできないことは、都民は皆知っています。朝からぎゅうぎゅうの満員電車、子育てへの不満、何かしようと思うと必ず立ち上がる住民の反対運動、急速に収縮する首都圏と空き家問題、老朽化するインフラ、溢れ返る老人、すべては日本人が戦後に抱える問題に正面から取り組んでこなかった結果です。

それを、一人の都知事の選任ですべて責任を押し付け解決しようというのは無理なことです。

翻って、東京よりも先に高齢化に見舞われた地域が、その地方経済の疲弊と共に教えてくれていることがあります。それは、「行政が無駄金を打ち、不採算な事業に公共が進出すると、地域が潰れるのだ」ということです。最後は国庫、財務省や総務省が助けてくれると思って踏み込んで行った借金は、多少ブレーキを踏んだぐらいでは減っていかない、取り返しのつかないことになるのだということを、増田岩手県政が教えてくれています。

増田さんが就任していた十年前の大借金が、ほとんど減ることなく、老いて行く岩手県民の両肩に乗ったままです。その地域を見捨てて、若い人がどんどん東京に吸い寄せられていきます。増田さんが、東京一極集中を批判したくなる理由も分かります。自分たちが魅力のある地域づくりをすることに失敗したので、競争力のある、魅力的な東京から税金と人口を政治的に呼び戻すことを「均衡ある日本経済の発展」を題目に実行してきたのです。

東京対地方、若者対老人で分断される日本は、確かに分かりやすいでしょう。東京や都市部に若者が集まってしまう、地方に住む人はそう思うでしょう。しかし、人口は減るのです。みなが発展したくとも、しばらく日本人は増えないのです。であるならば、日本の国土において生かすべきところと撤退するところをはっきりさせた、メリハリの利いた政策を打たなければ、弱者も勝者も共倒れになってしまいます。

日本は減り行く人口の中で撤退戦をしなければなりません。人のいない自治体は閉めるか合併させなければならない状態です。駄目なところは何とか集約して効率を引き上げつつ、競争力のあるところで経済を回し、世界各国と渡り合い、戦える組織と教育を作らないといけないはずです。

また、社会のために、日本のために子供を生むんじゃありません。自分のために、子供を生むのです。子供を生んで幸せだ、育てて良かった、共に暮らし、苦労も味わい乗り越えるにあたって、どうしても頼らなければ成り立たないところを、公共や地域が担うものなのではないかと思います。日本人である前に、私たちは生物ですから。子孫を残し、繁栄することが求められているからこそ、次の世代により良い社会を残して逝きたいと思うのではないでしょうか。

国全体を考えたとき、増田さんが行ってきた議論は一部有益なものもあると思います。しかしながら、東京都民で考えたとき、都民がより幸せに、安全に暮らしていくためのお金が他の地方に回され、託児所も保育園も増やす予算がなく母親が泣きながら仕事のキャリアを捨てるような東京にしたくありません。

じゃあ出馬予定の小池百合子女史がそれを実現できるのか?宇都宮健児さんはどうなのか?というのは、最終的な都民の有権者1,070万人の判断でしょう。ただ、岩手県知事や総務大臣、そして日本創成会議の座長として、増田さんがやってきた事案については、やはりきちんと総括していただいて、ご自身で撤回するなり、東京都では都知事になるからには都民のために、最優先で働くということをおっしゃっていただかなければ責任ある候補者とはいえないのではと存じます。

武士の情けで増田寛也さんが岩手県議会で最後に財政悪化の責任を問われ釈明を行ったスピーチは敢えてここには貼りませんが、増田さんご本人、担ぐ自民都連と承認する本部、ならびに支援者や有権者も、よく考えていただきたいと願う次第です。