アダルトビデオ業界市民権得すぎ問題(補遺あり)
アダルトビデオ業界の大手プロダクション会社の関係者が逮捕され、女性が「出演強要された」と被害を申し立て労働者派遣法違反容疑での摘発となったようですが、いろいろこの辺の議論を整理してみました。
山本一郎です。自家発電しない派の非モテです。
ところで、去年末ぐらいから「何か起きそうだ」と言われていたアダルトビデオ業界で、単発事例ながら摘発がありました。
大手AVプロダクション元社長ら逮捕女性「出演強要された」労働者派遣法違反容疑(産経新聞 16/6/12)
:ついでと言っては何ですが、マークスのグループ企業であるファイブプロモーションだけでなく、メーカーのCA、ピエロも家宅捜索の対象に広げ、とりあえずこの方面の実態は解明しておこうという焼け太り祈願に精を出す担当者には頭が下がる思いです。
経営していた芸能事務所に所属していた女性を、実際の性行為を含むアダルトビデオ(AV)の撮影に派遣したとして、警視庁が11日、労働者派遣法違反容疑で、大手AVプロダクション「マークスジャパン」(東京都渋谷区)の40代の元社長ら同社の男3人を逮捕したことが、捜査関係者への取材で分かった。女性が「AV出演を強いられた」と警視庁に相談して発覚した。
労働者派遣法は実際の行為を含むAVへの出演を「公衆道徳上有害な業務」として規制している。
どちらかというと、業界の中でも比較的行儀の良いほうであった大手のマークスが捜査の対象となったわけですが、類例が出れば同法同容疑でガサが入る展開が拓けたという点で画期的です。この方面では問題のある業者がいることは事実であり、単に被害者が泣き寝入るか、被害届を出したりその方面に明るい弁護士に相談するといった社会的知識に乏しいかという理由で放置され続けてきたわけですから、この界隈が少しでも良くなるといいですね、と一般論としては思います。
一方で、なぜか業界筋からはセカンドレイプ気味の一連の事情暴露ツイートが同業者のアダルト女優から垂れ流されており、とても微妙な心境になるわけであります。
:これを見て思うのは、業界としてそういう態度で大丈夫か?という素朴な感想です。たとえば本人がAV女優を現役のとき嬉しそうに作品に出演していたとしても、後日、それが嫌になって撤回しようというところで「自分の意思で活動している」同業者から刺されるとなると、やはり業界全体としてプライバシーを守ろうという気持ちはないのかなという雰囲気になります。もっとも、ここで問題となるのは「やる気満々に活動してた一人の元女優」が交際相手の考えが理由で出演強要という容疑をでっち上げて関係する業者の摘発ガサ入れに繋がったことへの反感でしょうが、警察庁もある程度個人の事情も知っていて、そのまま起訴したところで公判が維持できるか分からないネタであるにもかかわらず一歩を踏み出したということへの感性が、このAV女優にも発言に許可を出したマネージャーにも業界全体にも欠けていたということではないかと思います。
言わなくてはいけないことを言う許可をマネージャーに取った。
今回の件、色々知ってます…(過去のことも)
現役時代やる気満々に活動してたある一人の元女優が辞めた後、今の彼氏に「あの時は無理矢理やらされてただけなの!」って変な言い訳したら、その彼氏が「なら警察行って作品消させろ!」って騒いで。警察もそれ知ってるはず。少なくとも、この件の真相。
一部の外部の人がその元女優を上手く利用して今こうなってる。問題もあるとは思いますが、少なくとも「この件」に関してはそんな感じです。
悲しい。残って自分の意志で活動してる女優がいるわけで。
個人への攻撃になっちゃうのでこれ以上は言いません。いろいろと察してくださるとありがたいです。
もし芸名言えば、知ってる皆さんは
「強要?嘘でしょ?!あの娘なんて超楽しんで女優やってたのすごい有名じゃん!」
って全員思うはずです。。
出しませんけど。
マネージャーも私も泣いたよ。悔しくて。個人の勝手な都合でそんな。。
この件に関してはそういうことです。
言う役割、終わり!
初美沙希 Twitter
もしも、「一部の外部の人」が本件で深く関わっていたのだとするならば、関係者の逮捕に至る前に何の交渉もなされなかったとは考えづらいんですよね。普通は、被害届などを取り下げて欲しいという話し合いがあるはずで、そのプロセスで着地できなかったからこのような話になったのかしらと思うわけであります。
ラブライブなどの人気作品に出演していた人気声優・新田恵海(にったえみ)のAV出演疑惑が噴出した際も、個人の経歴、キャリアや生活にアダルトビデオ出演が取り沙汰されることは十字架でした。本人がその当時喜んで出ていたからといっても、暴露されるのは仕方がない、黒歴史だから、自分の意志でAVに出ている女性の思いを踏みにじるな的な話になるのは議論が分かれます。
また、記事にもあるとおり「複数の女性が類似の相談をしており」という指摘が重要です。これについては、おそらく続報が出るでしょうから、ここでは詳しくは述べません。
この方面でどうしても垣間見えるのはアダルトビデオ業界の「体質」です。以前も、弁護士の伊藤和子女史の活動に対して、元AV女優の川奈まり子が極端な議論を提起して、法曹界隈でも生活安全方面でも少し話題になりました。
「AV女優の出演強要被害」問題に川奈まり子が語った1万字の真実(しらべぇ 16/5/7)
結論からいえば、働く女性を守り、業界を健全化させましょうという結論は、伊藤和子女史も川奈まり子も主張の内容に隔たりはありません。どちらも尊敬できる主張です。ただ、そこに間にある大きな違いはアダルトビデオ出演が労働者派遣法の公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務であるかどうかの解釈です。そして、本人の同意が形式上確認されていたとしても、過去に出演したアダルトビデオの出演に関してそれが知れ渡ることが経済的な不利益や個人の尊厳を毀損する可能性があるならば、本来はアダルトビデオメーカーや流通は速やかにこれを削除しなければならないという基本的な同意が行われていない以上、おそらくはいつまでたっても人権団体とアダルトビデオ業界との間の緊張関係は続くでしょう。
一方で、アダルトビデオ業界は先般のFC2問題から今回のマークス摘発まで、自分の業界弁護のためにかなり際どい議論を繰り返しているように見えます。誇りを持ってアダルトビデオに出演していると堂々と主張できる女性たちにはある種の敬意を覚える一方、日本の開かれすぎた性表現や露出については抑制する方向に進まざるを得ないだろうと感じます。それだけ、業界各位が頑張ってアダルトビデオ業界が市民権を得たわけですが、そのお陰で、そこに佇んでいた問題がよりはっきり見えるようになってしまったということでもあります。
逆に言えば、職業安定法や労働者派遣法のような労働関連の法律の解釈で是か非か議論すればするほど、これは業法を作って規制しようという流れにもなりかねません。まあ、そのほうがいいのだ、女性が守られるのだ、業界が健全化されるのだということもあり得るのでしょうが、ここで表現規制もセットで考えるとなると、非実在女子によるアダルトVRなども流通に対して規制をかけようという議論の呼び水になります。すでに、人工知能搭載のロボットで青少年の自家発電を促す試みは進んでいて、このあたりは究極の個人情報を扱う一方、こういう技術革新を社会がどう受け入れていくのか、ドローン以上に議論が必要なことなのかなあとは思います。
セックス用ロボットがまもなく現実のものに、実現に向けた課題とは?(GIGAZINE 16/2/15)
人口知能搭載の「セックスロボット」がリアルすぎると話題(panpan 掲載日不明)
こういう個人から発生する行き場のないエネルギーを電力会社が回収する仕組みができれば脱原発にももう一歩の後押しができるのではないかとくだらない話を思いつくわけですが、やはりこの手の産業はプレイヤーが目立ち始めると敵のイメージがつきやすくなって周辺巻き込んで官砲射撃がやりやすくなってしまうので、関係方面におかれましては「目立ちたくても黙る」「静かに儲ける」「あまり若い人を騙さない」「まずい方面の取引はガサ入る前に全部切っておく」ことの大事さを思い直していただければと願う次第です。
(補遺 16:42)
当記事に関して、初美沙希の発言を引用しておりますが、初美沙希の所属事務所が今回摘発の対象となったマークス系列である指摘の一文を挿入しておりませんでした。また、新田恵海のAV出演”疑惑”に関しても、問題となったプロモーターと同一人物であるとされる記述を省略していました。ご指摘いただいた方、ありがとうございました。