無縫地帯

Windows 10の強制アップグレード問題が国会質問に取り上げられた件

マイクロソフトが敢行したウィンドウズ10への強制アップグレード問題で、さすがにそれはやりすぎだろということで民進党の藤末健三さんが国会で質問したというので取り上げてみました。

山本一郎です。肩こりがアップグレードされて四十肩になりました。

ところでこのところ、MicrosoftによるWindows 10アップグレード施策の素行があまりよろしくないということで何かと騒がしいです。ここで改めて事の次第を詳しく説明する必要もないかとは思いますが、ユーザーの意志とは関係なしに半ば強制的にOSのアップグレードが行われてしまう事態が起きてしまうことから、その様子を面白おかしいネタに仕立てたマンガまで登場していたようです。

どんどん萌えからホラーへWindows 10のアップグレード通知を擬人化した漫画が全ユーザーの恐怖を表現している(ねとらぼ 16/5/19)

こうして望まれないWindows 10アップグレードが世間で広まっていく中、参議院議員の藤末健三さんが以下のようなツイートをされておりました。

国会事務所のパソコンのOSが知らぬ間にウィンドウズ10になっていました。ユーザーが知らないうちにPC内のOSが変更されるとは、法的な問題はないのでしょうか?藤末 健三
やはりニュースになっていますね「ウィンドウズ10:「勝手に更新」苦情 」- 毎日新聞藤末 健三
一般的な事務作業などの用途でPCを使う人の感覚としては「必要だと思ったタイミングでやるべきアップグレードを、OS業者の都合で勝手にやられては困る」というのは当然の反応だとも思ったのですが、こうした藤末議員のツイートに対してITリテラシーが高い、もしくはいわゆる意識の高そうな人達は割とネガティブな反応をしていたのが違った意味で興味深くもありました。まあ、意識の高い人達が何を言っているかは置いておくとして、藤末議員はこのツイートに書き込んだ疑問をそのまま国会へ投げかけることを怠らなかったのはさすがであります。

パソコンの基本ソフトウェアの半強制的アップグレードに関する質問主意書(参議院)

で、これは一体どういう回答が政府から出るのだろうかとwktkして待っていたわけですが、残念ながら期待するような面白いものではなく、無難といいますか、直接の回答は避けたような形になっていました。

御指摘の「パソコンのソフトウェアを利用者が意識しないところで事業者が勝手に書き換えること」の意味するところが必ずしも明らかではないため、お答えすることは困難である。参議院議員藤末健三君提出パソコンの基本ソフトウェアの半強制的アップグレードに関する質問に対する答弁書(参議院 PDF書類)
ほかにも質問主意書内では、国民生活センターなどに寄せられた苦情の内容や件数を調査して公表してほしいとありましたが、こちらも法律で特定事業者に関する苦情の内容や件数は公表できないとし、問題があれば消費者庁が調査して消費者に注意喚起するから心配しなくて大丈夫だみたいな回答になっています。

こういう答弁が出たことに対して藤末議員は改めてTwitterに以下のように書き込んでおりました。

Windows10に関する質問主意書が記事になっていました。また、視覚に障がいがある方からPC画面を読み上げるソフトが使えなくなってしまう被害が出ていると連絡を頂きました。国会で引き続き議論していきます。
<ウィンドウズ10更新>政府答弁書「回答は困難」goo.gl/Itb2pN藤末 健三
まあ、そりゃあそうですよね。

もはやPCという存在が、昔ながらの本やテレビと同じように、日常生活の中で情報を得るための単なる道具でしかなくなりつつあることを考えれば、OSメーカーの都合による強引なアップグレード施策をもってして、そういう仕組みが分からないITリテラシーに欠けたユーザーの方に落ち度があるといった見方は無理があるでしょう。このところ総務省は国内におけるスマホ普及を推し進めているように見えますが、スマホになればPCよりもさらにITリテラシーとは無縁のユーザーが増大するわけでして、メーカー側が半ば強制的にOSをアップグレードすることでスマホの文鎮化事件などが起きれば社会で大きな混乱が生じる悪い予感しかありません。このあたりは、少なくとも消費者庁あたりで最低限のユーザー保護施策を今からしっかり考えておく必要があるのではないかと感じます。

ちなみに今回のWindows 10アップグレード施策については、海外の専門家もMicrosoftのやり方に疑問を呈しています。というか、あんまり賛成だというはっきりした意見をあまり目にしません。

「Windows 10を入手する」ダイアログボックス、MS自らの指針に違反か(ZDNet Japan 16/5/31)

また、この強引なOSアップグレード施策のせいで実際に人身の安全を脅かすような事態も発生してしまったようです。

中央アフリカ、Windows 10の強制アップグレード開始で密猟者から攻撃を受けているレンジャーに指示が出せず(スラド 16/6/5)

Chinko Projectでは1MB単位で課金される遅い衛星回線を複数のPCで共有しているが、PCの1台が秘かにWindows 10のアップグレードファイル6GBをダウンロードしていたという。PCはGPSと組み合わせてレンジャーの位置情報把握や配置に使われており、間の悪いことにレンジャーが武装した密猟者から攻撃を受けている最中にアップグレードが始まってしまったとのこと。このPCはアップグレード完了まで使えなくなったため、適切な指示ができない状況に陥ったようだ。スラド
まったくの蛇足になりますが、上記に出てくる「Chinko Project」の読み方は「シンコ・プロジェクト」です。ちんこではありません。Chinkoは中央アフリカ共和国東部を流れる川の名前ですが、ローマ字読みすると日本語で独特の意味になるため、昔から一部の好事家の間ではかなり有名な地名であります。

大変重要な問題提起のはずが、まさかの下ネタで締め括らざるを得ない惨状に身悶えしつつ、仕事に戻ります。