無縫地帯

鹿児島県民は本格芋焼酎を飲むと血糖値が下がり健康になるという画期的な論文が出回る(補遺あり)

先日、鹿児島大学などの医療機関から「本格芋焼酎を飲むと血糖値を抑える効果がある」という素晴らしい論文が出て話題になっていたので、記事にしました。

山本一郎です。ビール党です。

先日来、鹿児島大学が酒飲み薩摩隼人を集めて論文書いてるらしいというので医療調査界隈のFACEBOOKでネタになっていたんですが、昨日になって、ついに報じられてしまいましたのでご紹介がてら記事にしたいと思います。

焼酎に血糖値の上昇抑制効果鹿児島大学など確認(373news 南日本新聞社 16/5/26)


なお、研究成果となった論文はこちらです。

Acute effects of traditional Japanese alcohol beverages on blood glucose and polysomnography levels in healthy subjects(peerJ 16/4/4)


結論や記事の内容からは想像もつかないほどまずまずまともな論文なんですが、機序からしますと「なんだと、焼酎には血糖値を抑える効果があっただと!飲まねば!」という類の新発見ではなく、そもそもアルコールには血糖値を抑える効果があります。

また、日本酒やビールと比べて、焼酎になぜ血糖値抑制効果があるかというと、お酒の造り方に理由があります。お酒は、穀物や果物の汁などを発酵させて造りますが、そこから蒸発させてアルコールを飛ばして集めて造るのが焼酎など蒸留酒、発酵させるための発酵液を濾過して造るのが醸造酒です。

アルコールを蒸発させて集めて造る蒸留酒においては、当然糖分などは熱したところで気化などしませんので、焼酎やジン、ウォッカ、ラム酒、ブランデー、ウィスキーといったお酒には糖質が含まれません。

逆に、単に発酵液を濾過しただけの醸造酒は、がっちり穀物や果物の糖が残りますので、ビールや日本酒、ワイン、シードルなどにはたくさん糖質が入っています。

血糖値を上げる効果があるかないかは、この大きな括りの製法の違いにより、お酒に糖質が含まれているかどうかが決め手となるわけです。つまり、蒸留酒である焼酎類には糖質が含まれない一方、アルコールが本来もつ血糖値を抑える作用があるため、適量であれば、飲んでも身体に負担をかけずに血糖値は下がることになります。

この論文は、そんな糖質のない蒸留酒である焼酎と、糖質をふんだんに含むビールや日本酒を病院にもってきて、酒飲み鹿児島県民を集って酒盛りをした後の血糖値の動きを探るという天国のような研究を行った結果「なんと!焼酎を飲むと血糖値が抑えられた!驚きの結果に!」という論文をきっちり仕上げてきたので話題になっておったわけですね。

欲を申し上げますならば、サンプル数を増やすことはもちろん、蒸留酒と醸造酒を比べるのではなく、数ある蒸留酒の中でも本格芋焼酎が血糖値を抑えるのにはいちばん!みたいな話にしてほしかったと思います。ぶっちゃけ、被験者が男女6名とか「ためしてガッテン」みたいな状態になってます。糖質の入った酒と、焼酎のような糖質のない酒を比べて血糖値の抑制を確認するのは大事なことですが、できることなら、ウォッカやウィスキーと比べてほしかったんですけどね…やはり鹿児島大学は、いまこそ著名な在野の研究家である小保方晴子女史を招聘して「かくにん!よかった」の名研究ノートを再現するべきです。

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The six subjects were instructed to drink beer (1,000 ml, 5 % alcohol, 40 g alcohol, 400 kcal), shochu (333 ml, 15% alcohol, 40 g alcohol, 280 kcal, diluted with mineral water to a volume equal to the beer), sake (333 ml, 15% alcohol, 40 g alcohol, 329 kcal, diluted with mineral water to a volume equal to the beer), or mineral water (0 kcal, 1,000 ml, as a control) on the different days. Each beverage was provided at room temperature. The beverages drunk with dinner meal at 7:00 p.m. were consumed in 30 min. The dinner from the hospital menu for inpatients was used (energy, 709.6 ± 7.8 kcal; energy from carbohydrates, 448.0 ± 8.4 kcal; energy from protein, 106.7 ± 4.4 kcal; and energy from fat, 154.9 ± 9.7 kcal).
冗談はともかく、病院食をつまみに晩酌に付き合わされた健康な鹿児島県民男女6名には暖かい拍手を送りたい気分でいっぱいですが、問題は、この本格芋焼酎と血糖値の関係が実生活にどのくらいの効果を及ぼしているのか、という点です。

鹿児島県民の生活と焼酎は切っても切れない関係にあり、2015年も焼酎において鹿児島県は全国一位の消費量であります。人口構成を加味するとなお、一騎当千ともいえるほどの焼酎飲みが社会的文化として定着しきっているというのが鹿児島県の実情であります。

一方で、そんな血糖値を抑える効果の高い焼酎を飲み倒している鹿児島県民はさぞや糖尿病および関連疾患の罹患率や死亡率が低いんだろうなあと思うわけですが、実際に発表されている最新統計(2014年度)のフタを開けてみると糖尿病での死亡率は14.0、全国で9位と堂々上位にランクイン。人口千人あたりの糖尿病での通院率も7位になっています。過去の年次の調査結果を見ても、概ね14台から15程度で安定していますので、特定の年代だけがたくさん糖尿を罹患されたというわけでもなさそうで、ずっと全国7位から10位という高位をうろうろしています。

どういうことなのでしょう。ひょっとして、鹿児島県民は焼酎を飲む量が足りないのではないでしょうか。血糖値が高いから糖尿病になるわけですからね。

また、鹿児島県民は糖尿由来も含めた腎不全を患う割合も全国2位の高率でありまして、同じく慢性閉塞性肺疾患、すなわちタバコなどで具合が悪くなって亡くなる方も全国2位であります。生活習慣かどうかは分からないけど肺炎も全国2位。たけぇ。大酒は飲むわタバコは吸うわでだらしない田舎生活を送る鹿児島県民が多いのではないかと誤解されかねない統計結果に愕然とします。一時期は糖尿病発症のトリガーとなる遺伝子を鹿児島県民が多く保有しているのではないかという仮説もありましたが、その後の調査でこれは否定されました。

平成26年(2014)人口動態統計(確定数)の概況(厚生労働省・大臣官房統計情報部人口動態・保健社会統計課)

(ここにある「参考表(都道府県別順位)」というのをクリックしていただけると、日本人の多種多様な死因についての華麗な統計の世界がご堪能いただけます)

まあ、日本で一番焼酎消費量が多い鹿児島で、その焼酎が血糖値を抑える効果があるんだとするならば、血糖値がクリティカルに影響する糖尿病や糖尿由来の各種疾病の罹患率が県レベルで下がっていないといけないんですが、そこまでの影響があるようには見受けられない、むしろ悪い、ってのがポイントだと思うんですよね。

結論を言うと、血糖値とアルコール類の関係は「蒸留酒を一定量飲むならば糖質を抑える効果は期待できる」一方、その血糖値に対する影響はそこまで高くないため、結局は「焼酎を飲んで血糖値を抑える数値よりも、日々の暮らしの糖質・脂質の摂取の仕方や運動量などが健康に及ぼす影響のほうが大きい」という話になるのでしょう。

鹿児島県民は早く生活習慣病減らして、またイギリスとの戦争に勝ったり幕府を倒したりしてください。

参考記事: 「焼酎王国」鹿児島が初の首位転落で大騒ぎ 「黒霧島」の宮崎に複雑な感情(J-CAST 15/9/22)

(補遺 17:28)

当記事に対するご指摘で、糖尿由来の疾患はほかにもあり、鹿児島が上位にあるのではないかという内容がありましたが、外形的に確認できるデータで糖尿由来での死亡例だと断定できるものはありませんので、記事中は触れませんでした。また、鹿児島の年齢構成上、年寄りが多いので死亡率の順位が上がるとのご指摘については、総務省「人口推計」において鹿児島県は28.6と都道府県内で中位のため当たらないと判断します。死亡率については10万人対比でしたので%表記を変更します。ご指摘ありがとうございました。最後に、風土病由来の免疫不全等の疾患については本稿では触れません。あしからず、ご了承ください。