無縫地帯

ドコモの発表会からキャリアビジネスはどこへ向かって進むのかぼんやり考える

成長鈍化に見舞われ、コモディティ化の進んだスマートフォン市場には、これ以上は成長性を依存できない状態となった通信各社、モデルチェンジ頻度を伸ばしたり異業種参入など対策が急ピッチのようです。

山本一郎です。少しは火を噴けるかなと思って少しヨガのサイトを見て試してみましたが、腰が痛くなりました。お腹にアグニを養うには何を食べればいいんでしょうか。

ところで、先日はiPhoneの売上不振をネタにスマホ市場の今後は大変そうだという話を書きました。

iPhone不振でAppleが話題ですがスマホ市場全体が今後はかなり大変そうにしか見えません(ヤフー個人 16/5/2)

当然、スマホを扱う大手キャリアもそうした諸々の問題は織り込み済みのはずで色々と施策を打って出なければならないわけですが、ちょうど5月11日に開催されたドコモの新サービス・新商品発表会はまさにそうした時勢を反映した内容となっておりました。

これまでドコモは発表会の都度にこれでもかというほど無駄に大量の新機種を投入してくるのが常でした。いわば「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」を地で行っていたという感じでしょうか。ドコモの魅力と言えば、ジオン軍もかくやという機種の多さもあったわけです。しかし、今回はモバイルルータやタブレットを含めてもわずか7機種。スマホだけならわずか5機種のみ。これはドコモにしたら相当に大きな路線変更と言わざるを得ません。やはりスマホ市場はこれまでのように新モデルが出たからと言ってそれだけの理由で消費者が興味を示し商品が動くようなことはなくなってきたという現実があると考えるべきでしょう。そのあたりはドコモ側もメディアからの取材に正直に答えています。

ドコモが年1回に端末投入サイクルを変更、その意図や背景は? (週刊モバイル通信 石野純也)(Engadget日本版 16/5/12)

背景にはスマホのコモディティ化があります。加藤氏は、「機能やバリエーションもかなり収れんしている」といい、半年に一度のモデルチェンジをする必要がないことを語っています。進化のポイントが少ないのであれば、年1回に投入サイクルを減らし、そのぶん、1機種の販売数を増やすというのがドコモの狙いです。
(中略)
ドコモは今年度の端末販売台数が減少するとの見通しを立てており、決算会見でも発表しています。販売台数が減るような状況がある中で、モデル数を増やすのは得策ではありません。Engadget日本版
うーん、現実的。

在庫リスクも抱える端末販売にリソースは割けないという現実的な話でもあるでしょう。ハードを作るメーカーにとってはかなり厳しい時代となりそうです。今後は特定端末モデルでのヒット商品という可能性もなかなか見込めそうにありませんから、そうした状況の中で赤が出ない事業展開というものを考えると、AppleやSamsungのような規模でのビジネスがむつかしい国内メーカーはどんどんニッチな市場を狙うしかないのかもしれません。一部メーカーがAndroidでもiPhoneでもない第三のスマホプラットフォームであるWindows Phoneに手を出していますが、まさに大きなライバルがいないニッチ市場で小さく売って儲けるという試みでしょう。もっとも、スマホという大きなくくりの中で見れば、AndroidでもiPhoneでもないという時点でかなり不利な戦いになるであろうことは否定できませんが。

一方で、ドコモはそうした端末販売も含めた主力の通信事業での大きな成長にある程度の見切りをつけつつ、通信の利用も可能なサービス事業へとより注力していく気配がこれまで以上に強くなってきました。実際、ドコモの今回の発表会でもスマホ新製品の紹介に比べて、消費者向け生活支援サービス「dリビング」などにより多くの時間が割かれていた印象があり、これは取材に入っていたメディア関係者も同じようにとらえていたようです。

主役の座から落ちたスマホ、変わり行くドコモの製品発表会(マイナビニュース 16/5/11)

今回の発表会では、スマホの新商品に注目してしまうと、物足りなさを強く感じてしまうだろう。しかし、ドコモが描く戦略に発表内容なぞらえていくと、今、注目すべきサービス、新商品は、通信事業とは切り離された意外なものが目に留まることになる。スマホから別のサービス、商品のお披露目の場として、発表会の役割が変わろうとしているのだ。マイナビニュース
乱暴の言い方をすれば、これまでドコモが提供する各種サービスというのはあくまでも通信事業に付随したオマケでしかなかったわけですが、どうやらこれからはそうした従来はオマケだったはずの各種付加価値サービスが本業となり、そのサービスを利用するための通信インフラもついでに提供しますよという主従反転が起こりつつあるのかもしれません。土管からきのこが出てきた的なアプローチですが、みかか法とかどうなってしまうのでしょうか。興味津々です。当然ながら、こうした流れは他の大手キャリアについても全く同様でありまして、KDDIは保険やローンといった金融サービス事業にまで手を広げることで業績拡大を目論んでいます。

KDDI、「非通信」事業で攻め3カ年の中期目標発表(日本経済新聞 16/5/13)

スマートフォン(スマホ)や携帯販売店を通じた商品販売や金融サービスを拡充し、これらの取引額を現在の3倍の2兆円まで引き上げる。スマホ販売が鈍化傾向にあるなか、流通サービスを通信事業に次ぐ収益源として育てる狙いだ。日本経済新聞
MVNOの普及に加えて総務省からの様々な干渉もあったりと、大手キャリアは通信事業だけでお互いにシノギを削り合うのは能率が悪いという結論が出てきているのかもしれません。昔ながらの単純なケータイ電話会社というような業態はもはや存在しないということでもあるのでしょう。まあ、上の日経の記事の中でも「現状で生活・流通サービスから稼げる利益は全体の数%程度とみられる」と指摘されているように、そう簡単に新しいビジネスでウハウハ儲かるというわけでもないようですが。

一連の流れを俯瞰しますと、収益機会向上のために、いままでは土管と決済で頑張っていたものが、だんだんと地上に顔を出すようになり、何度か支払った高い勉強料をものともせず具体的なビジネスに邁進する環境を整えている、ということでもあります。

そうなると、今後のこの方面のドコモやKDDIの競合は、単に通信業界というだけではなく、ネットサービス大手やコンビニエンスストア、JRなど交通会社なども視野に入ってくるわけですね。大変なことですね。

そんな中で、我らがTizenがどのようなポジションをとるのか、注目して見守りたいと思います。