無縫地帯

SEALDsは若者にウケず、野党共闘で投票率を下げた(北海道5区選挙結果速報値)

4月24日に投開票が行われた衆院選北海道5区補選ですが、話題になった野党4党共闘で支援された池田真紀女史は落選、弔い選挙を掲げた与党和田義明さんが勝利しました。速報結果も出たので解説したいと思います。

山本一郎です。最近「ストリートファイターV」を引退しました。

ところで表題の北海道5区ですが、今回は7月参院選を占う前哨戦ということで調査方もいろんな手法を試す絶好の機会だったわけなんですが、思った以上に地殻変動が起きていることもあって、幾つか指摘したいと思っております。ご当地北海道新聞が実に高いクオリティの調査と報道をされていたのと、公示前のウェブ調査がついに期日前投票所の出口調査の振れ幅にかなり迫る精度になってきたことなどを考えると、NHK系やFNNその他メディア系調査の展望もかなり拓けてくるのかなあと思う次第であります。

細やかな現象の解説や数字についてはさすがにおおっぴらに書くわけにもいきませんので、私のメルマガなどで可能な範囲でゆるゆる書きたいと思いますが、ネット的に関心の高かったであろう以下の3つのトピックスについては今回の選挙結果ではっきりと見えてきた部分がありますのでお裾分けをしたいと思います。

なお、本稿は4月26日時点で集計された情報を元にしており、あくまで速報値ベースの話です。精査すれば違うことも出てくるかもしれませんが、大筋でこういう感じなのだということでご了承ください。

また、今日4月26日23時05分から放送のフジテレビ系ネット放送局ホウドウキョク『真夜中のニャーゴ』でも、私の登板回として本件北海道5区については一時間ぐらい状況説明しようかと思っております。ご関心のある方はネットかスマホでどうぞ。

ホウドウキョク『真夜中のニャーゴ』


■SEALDsは若者より高齢者にウケる

パネル調査などではかねてから指摘されてきた部分ではありますが、SEALDs自体の活動の良し悪しは別として、これらの活動を支持する母体属性は50代から70代の男性であることが顕著になりました。

また、今回野党4党が推薦した無所属の新人池田真紀女史の支持母体はそもそもが「公務員・団体職員」「契約派遣・アルバイト」であり、とりわけ札幌市厚別区では公務員や契約派遣、アルバイトなど非正規職からの支持が集まりました。

今回、ネットのパネル調査では「SEALDsなど政治団体の活動を経て候補者を知った」という項目を引き続き用意したのですが、SEALDsなど政治団体に関する知名度は比較的高い一方、これを支持する、SEALDsなど政治団体が支援しているので投票したと回答する割合は残念ながら高くありません。

明確な理由としては、SEALDsなど政治団体の一般的なイメージは別として、かなりの部分が共産党支持者(全体の5.2%から5.6%)と被っているため、これらがこぞってSEALDsなど政治団体を支援した結果、硬い共産党支持層である50代から70代男性が総じてSEALDs支持に乗っかる現象になっていると見受けられます。

これは、SEALDsなど政治団体は高齢者から見て理想の若者像であり、自分の若いころにダブらせて共感し支持する層が全有権者の4%ぐらいを確保する一方(共産党や社民党支持者と被ってますが)、当の若者からするとSEALDsなど政治団体の主張に無関心か、あれを若者代表と思って欲しくないイケてない活動家連中と見ていることになります。また、野党と一緒に宣伝カーに登るごとに、SEALDsなど政治団体の党派性の強さが前面に出て、知名度の上昇の割に支持が増えないのはSEALDsなど政治団体の戦術の根幹のところにミスがあるか、カルト化が始まっていると考えられます。

SEALDsなど政治団体は共産党にとっては若くて新しい党員や活動家を獲得できる最後のチャンスであると同時に、一般的な支持団体として影響力を持つ公務員系、労働組合系の牽制にも繋がるという期待を持っていることになります。

SEALDsなど政治団体に対して「積極的に不支持」とした有権者の全体を見ると、労働組合系などに比べて比較的低いことは分かっているため、結果として新しい左翼の台頭がSEALDs的な活動に活路を見出すのは仕方のないことなのだろう(ほかに選択肢がないのだろう)ということは明確に理解できようかと思います。

個人的には、SEALDsの存在を軽視する傾向には反対です。SEALDsの主張に賛同はしませんが。一応、知名度も広がり、この手の団体にしてはそこそこ影響力を具備してきています。アカいことを除けば行動する若者がいるのはいいことです。なお、この辺のデモと政治団体の概要については、福島香織女史がしっかりと論じた書籍を出しておられるので良かったらどうぞ。

SEALDsと東アジア若者デモってなんだ!(イースト新書福島香織・著)


■野党共闘で選挙争点がボヤけ、結果として投票率が下がる

結果として池田真紀女史落選の直接のきっかけは投票率の低迷です。

候補者を一本化するまでは良かったものの、支持団体同士の調整や選挙応援のあり方などで、選挙を戦う上での大義名分が民意とズレた瞬間に投票率が下がるという、争点セッティングの重要さを改めて知るわけであります。

風向き調査やネットでのパネル調査では、公示日4月12日時点での投票率予測は59.4%を中央値としておりました。実際には、それよりもやや下がった状態の57.6%(前回比マイナス0.8%)であり、実に低迷しました。結構重要な選挙だったんですけどね。

かねてから説明しておりますように、都市型選挙区でも地方型選挙区でも有権者が重視する政策については国政では経済問題よりも社会保障問題へとシフトしております。今回の北海道5区も同様に「年金・社会保障」71.2%(23.4%)、「景気・雇用」60.8%(20.2%)、「地元経済、TPP対策」59.4%(11.5%)、「医療介護」54.2%(10.8%)、「安全保障」50.2%(7.8%)の順で、昔は景気雇用と経済対策が鉄板だったものが、いまでは年金や介護、医療といった社会保障系がトップに出るという老人大国ニッポンの素直な有権者の姿であることが分かってきております。率はまず複数回答で大事だと答えた割合、ついで()内はその中でももっとも大事な争点だと回答した割合です。

また、今回特徴的だったのは「年金・社会保障」は直接シルバー世代が関心度を押し上げている一方、「医療介護」は40代、50代男女の、いわゆる労働世帯からの関心を集めていることが見逃せません。要するに、医療の問題は病気がちな高齢者が響くものと思われがちだったものが、実はその高齢者を介護したり生活を扶助している長男・長女問題でもあるということです。

簡単に言えば、医療や介護を受ける直接の当事者は高齢者だけれども、公的サービスで介護を受けたり、医療費負担が公的保険で減らすことができれば、それは回り回って家族の介護負担が減り、家計が少し助かるということです。だから、社会保障の問題は40代の有権者にとっても両親の介護問題に直面し次第、順次重要な争点に浮かび上がってくるわけです。

シルバーデモクラシーは、傾向としてすでに出始めていると思うんですよね。ただ、単に高齢者の投票傾向というだけでなくて、支える家族の問題でもあるよね、ということです。

先日、「みんなの介護」で改めてこのあたりの問題を指摘したところ、一番読まれたのは40代女性だったことを考えると、やはり社会全体の問題として社会保障への取り組みを有権者にきちんと訴求できない候補者は埋没するということでもあります。

やまもといちろうゼミ 高齢者の死に方について世界との違いを考える(みんなの介護 16/4/22)


野党共闘において「左派陣営」としてこれらの問題に率先して取り組む姿勢を見せることで、問題の解決に繋がると見る有権者が池田真紀女史を支持に回る可能性は本来は高かったと見られます。実際、無党派層では社会保障を一番重要な争点だと掲げる有権者は78.2%という高い率で池田支持に回ったようです。

ところが今回の選挙で実際に起きたことは、得票全体で見たときは各候補者が「社会保障は大事だ」と主張しつつも、争点として具体的な内容まで踏み込んだ形では社会保障の問題を前面に出しませんでした。そのため、一番大事な争点だとは回答しなかった人が、概ね投票所に足を向けなかったか、別の争点をより大事だと考えて和田陣営に投票したことになります。逆に言えば、野党共闘だ候補者一本化だと騒いだところで、それは「永田町の関心事」であって「北海道5区の関心事」ではなかったことの裏返しでもあります。

逆に、社会保障が大事だという層を取り込んだのは結局は政党支持の92%を取り付けた公明党と、自営業者や農家を中心とする元町村支持者でした。北海道民としては「TPP断固反対」と言い張って選挙戦を勝ち抜き政権に返り咲いた自民党にTPPを推進されて足元を掬われた形になるのですが、北海道の選挙区とはいえ農家の占める割合が人口の7.2%程度、地区によっては2%そこそこしかいませんので、農家はぶっちゃけ無視したほうが選挙では勝てるということになるわけです。まあ、いままで農家は優遇されすぎてきましたからね、仕方ないね。

それにつけても、今回は公明党が頑張ったんだなあという印象です。政党支持率目一杯の得票をしてくれた形で、ある意味で弔い選挙という立て付けが公明党の特定の支持者には「刺さった」のかもしれません。

■投票率が上がれば野党共闘は勝った

ということで、今回いろいろあるかなと思った本件ですが、最終的には与党勝利で終わりました。ただ、これが仮に投票率が59%ないし61%台となり、無党派層が選挙にいっていれば野党側が勝利していたことになります。つくづく、前述のように争点設定の失敗は大きかったと思います。

ここの残り数%は、出口調査では分からないところですが、定点観測している数字を見るならば「無党派層だけど投票に行かなかった」人たちというのは概ね野党支持というよりは反自民票としての性格を持ちます。なので、ここの掘り起こしを行うためには単に野党が「選挙に行こう」と呼びかけるだけでは駄目で、この寝ている反自民層がどうしても選挙に行きたくなるような争点設定や話題づくりをするしか方法はありません。

選挙区をきちんと調査していれば、数%であれば底上げできるようなアジェンダセッティングはできたはずなのに、小沢一郎さんを選挙演説で呼ぶの呼ばないので揉めているようではなかなか厳しいのではないかなと思います。もちろん、小沢さんを呼ぶと千票単位で得票が下がるので、呼ばないが得策なのですが、それを分かっていなかったのか、最初から「呼ばない」で済ませていれば何も問題なかったと思うわけです。

で、公示日調査では率直に言いまして池田陣営の勝利を予測していました。単純に、もう少し投票率が高かったであろうこと、公明党の投票率がそこまで上がらないように見えたこと、地震が起きてしまい争点が分散したことなどが理由で、中間を越えて最後の4日ぐらいで与党が逆転するわけなんですが、この辺はまあ野党はツイてなかった、勝てる戦を落とした、という認識になりましょうか。

この結果を受けてW選挙をやるかどうかってのは、私には分かりませんが、町村信孝さんの弔い選挙と大地震発生というゲタを履いてこれですので、日本全国で選挙やった場合はどうなるのかよく分からんなあといったところでしょうか。個人的にはあんまり与党は楽ではないぞと思いますけれども、うっかり選挙を先延ばししてしまったところで中国経済が本格的に失調して日本経済もアベノミクスの行き詰まりが露呈した状態で解散に追い込まれるよりは、幾つか議席を失う程度で済むタイミングでとっとこ「何かの信を問う」系の選挙をやったほうが与党はいいんだろうか、とも思う次第です。

まあ、大上段に言うならば「中道政治の没落」とか「リベラル勢力の再興」などいろいろ言いたい向きもあるかもしれませんが、具体的な政策に落とし込むと結局は予算と政策の問題に結びつくし、大高齢時代になると貧しさを分かち合う政策の是非みたいな話にどうしてもなりますよね。個人的には、TPPであれだけ自民党に踏んづけられた北海道の農家や酪農家の皆さんが、地盤とか関係なく普通に与党に投票しているのを見るとあんま過去の政策とか関係ないんじゃないのと思うわけですが。

与党はこういう「どんなことがあっても、ちゃんと投票しに行く人」を大事にするといいぞと思いますし、野党は「現状に少しでも不満を持ってくれる人が投票所に行ってくれる世の中の雰囲気作り」をする方向にするしかないんじゃないでしょうか。

支持母体云々とか言いたいこともたくさんありますが、この辺で。