無縫地帯

e-Sports界隈で何が起きているか

対戦ゲームの界隈が少し盛り上がり、e-Sportsとして最近持て囃されだしていますが、名作パズルゲームの「ぷよぷよ」の対戦仕様クローンを扱った問題業者の話がさらにこじれてきたのでピックアップ。

山本一郎です。ストリートファイター5を買ってきて、スト2時代のつもりでダルシムを選んだところ、私のヨガファイアが上向きに発射され放射線状に着弾する仕様に変わっていて浦島に苗字を変えたくなりました。

とりあえずゲージがいっぱいあるのをやめてほしいのと、オン対戦しているとひたすらヨガテレポートしながらリーチのある中段と下段を混ぜて延々と牽制するだけのプレイになってしまい、オンラインの向こうで頑張っているプレイヤーのことを思うと胸が痛みます。心からお悔やみ申し上げます。

ところで、先日RMT業者がセガに版権の移った名作『ぷよぷよ』とほぼ同じ仕様の『マジカルストーン』というオンライン対戦用クローンを作成して頒布しようとしたかどで、騒動が起きておりました。

RMTとは、リアルマネートレード、すなわちゲーム上のデータを換金できる仕組みを用意するサービスであり、ここにオンライン対戦のゲームが加わるとそのゲームの勝敗がそのままRMTに援用される場合、単なる賭博になってしまいます。勝てば賞金、となるならばそりゃあ盛り上がるでしょうが、実際にビジネスでやるならば犯罪そのものです。

RMT業者がe-sportsに参戦。ぷよぷよのクローンゲーム「MagicalStone(マジカルストーン)」に不穏な動き?(Togetter 16/3/28)

マジカルストーンとRMTについて、ぷよぷよコミュニティ内外に認識ギャップがあるのではないかという話(Togetter 16/4/2)


e-Sports界隈でも、この『マジカルストーン』の動きは強く警戒されており、かねてから正規のライセンスを求められてもセガとしては交渉に応じない姿勢を貫いています。ただ、この『ぷよぷよ』のそもそもの版権は開発元ですでに倒産したコンパイル社のものであり、セガもその後各種『ぷよぷよ』IPのコンテンツをリリースしていますが現在のe-Sportsものとしてコミュニティがもろ手を挙げて歓迎するような対戦仕様を完備していない状態であるため、今回の『マジカルストーン』のようなクローンが出る下地はあったのかもしれません。

「ぷよぷよ」のクローン?パクリ?物議かもした「Magical Stone(マジカルストーン)」開発側の発表全文【全文書き起こし】
「Magical Stone」発表時の映像から、れそ氏の説明を書き起こしました。(ねとらぼ 16/3/30)


私どもの知る限りでは、現在この『ぷよぷよ』版権は一定の決着を見ており、セガのライセンスが出なければクローンを開発したり、商業利用することはできません。

ただし、ここから先はe-Sportsの独特な世界事情になってきますが、これはゲーム実況の配信元承認の問題とも絡んで、一般的なパーティーゲームや格闘ゲームというのは、相手がいて自分がいるからこそ楽しいという設計になっており、誰かと競う、勝敗を争う前提となっている以上、ゲーム開発会社がその映像そのものの著作権を主張すると、そこで楽しまれた経緯を公表できなくなってしまうというジレンマがあります。

たとえば、囲碁や将棋の世界で、誰とも指さずに駒だけ動かして楽しむ人は少数派です。将棋協会に詰め将棋の棋譜だけ送って段位をもらう趣味人ぐらいのもので、たいていはクラブや友人など、似通った腕の人たちが集まって競うことになります。

他方、ルールに著作権はないというのもまた一部では語られていることであり、ボードゲームで言えば「オセロ」の開発者である長谷川五郎さんは、1973年に本件を発表されているわけですから、当然のことながら「オセロ」版権は商標権と意匠権に基づいてツクダオリジナルが独占的に運用してきました。しかしながら、これらが失効した現在は「リバーシ」など別の名称でクローンが発売されて現在に至ります。

版権の問題についての解説は栗原潔さんに譲るとして、他方、現在のゲームコミュニティはコミケなどの同人活動と同じく実質的に権利者の「黙認」によって動画配信がなし崩し的に許され、有志によって運営される大会で利活用されてきました。結果、盛り上がってオフィシャル化したり、マーケティング上有効だということで任天堂がニコニコ動画などへの動画配信を許容するなどの動きが活発化した経緯があります。また、ゲーム動画向けのサービス「Twitch」が一部で人気を集めるなど、e-Sports界隈がにわかに盛り上がり始めているのもまた事実です。

任天堂、ニコニコ動画へのゲーム動画投稿を公認、奨励金受け取りも可能に(Internet watch 14/11/18)

本件『マジカルストーン』も、ユーザー目線でのコミュニティの対戦需要の盛り上がりという点では「まあ、そういう動きはあり得なくはない」のかもしれませんが、その元となった業者がRMTに手を染めていたということになると話は変わります。

実際に、これらの動きを主導していた人物が、Twitter上で公式にRMTを行ってきた経緯を認め、謝罪しています。

この度RMTを行っていたことについて多数のご指摘を受け、RMT行為そのものが、いかにプレイヤーの皆様にご迷惑をお掛けするのかを考え直し、認識を改めました。
また私の考えが至らず、SNSや配信上で不快な発言を不用意にしてしまったことを深く反省し、お詫び致します。
申し訳ございません


れそさんのツイート(twitter)
いったんは、中心人物がこのような対応をとったためにネタとして終息に向かうのか?と思われていました。ところが、最近になってTwitterで元社員が本件事案について極めて深刻な告発をするにいたり、事実関係すべてを確認できているものではありませんが事実だとするならば大変なことになります。

【LINE流出】RMT問題で大炎上したマジカルストーンの会社、内部リークされる(Togetter 16/4/22)


杓子定規にe-Sports界隈の話をするならば、もともとゲームセンターなどで参加者からお金を徴収してゲーム大会を開くことそのものが風俗営業法上の問題を孕むことは言わずとも知れた話です。また、不特定多数の人物が出入りするところでゲーム機(家庭用据え置き機か、ゲーセンなどで使うアーケード機かを問わず)を使って無断で遊ばせる場合は、著作権法の上映権侵害に当たります。

これらをまるっと「まあ、みんなで遊ぶゲーム大会ですから」と非営利で楽しくやっているうちは、コミュニティの活性化のお題目でメーカーも黙認してきた、というのが実態でありましょう。法律で考えるならばダメなんだけど、まあそのぐらいはいいじゃん、ゲームはみんなで遊ぶ玩具なんだからさ、みたいな。

ただ、今回の『マジカルストーン』のように、RMTがいきなり絡んできて賭博の疑いだとなればまったく話にならないばかりか、ビジネスになるぞというと権利処理も絡みますし、上映権を承認するのかどうなのか、風営法上の問題はクリアになるのかといった、同人漫画の即売会よりもはるかに込み入った世界になるわけであります。

このように、混乱の中でも盛り上がりつつあるe-Sports界隈ですが、最近では目ざとくムーブメントを嗅ぎ付けた人たちが、あまり社会的な常識を備えていないゲームプレイヤーのプロ化や、ゲーム大会のあれこれに絡んで有象無象が大量に跋扈する状態になっておりまして、ああやはりこの界隈は興行師の世界になってきたんだと実感します。

一部のゲーム専門学校では、プロゲーマー養成と銘打ってカリキュラム不在のまま学生を集めようとする事例まで引き起こしていまして大丈夫なのかなと思うわけですが、幸いにしてこの方面は情報提供者が多数存在する世界でありまして、もしも摩擦熱から乾燥した物品に引火、黒煙が上がるようでしたらいち早くお伝えしてまいりたいと思いますので、引き続きよろしくお願い申し上げます。