無縫地帯

テクノロジーの可能性に賭けるのもなかなか大変です

目新しい技術があるからといって、必ずしも市場性があるとは限らず、また喧伝される内容に誇大があったとすると結局損をするのは目利きのできなかった投資家であるという諸行無常がそこにあります。

山本一郎です。地味にPCのHDDがクラッシュして落ち込んだりしましたが、割と元気です。

ところで、最新のIT技術を活用したと言われる製品・サービスであればすべてが論理的に構築され科学的根拠に基づいて提供されているかといえば、そんなことは全然無いわけです。しかし、テクノロジーなどといった言葉の響きにはそういうものを期待させてしまう何かがあるわけでして、それを悪用するような輩も出てくるのが世の常であります。おそらくそうした事例の典型の一つが米国のTheranosだったのではないでしょうか。

米セラノス、血液検査技術に疑念浮上(ウォール・ストリート・ジャーナル 15/10/19)

その後も続報さまざまですが、結構な事態に発展しております。

美人の女性創業者がこれまでになかったような新しいテクノロジーを使って画期的な医療サービスを立ち上げたということからメディアで大々的に取り上げられ話題になりましたが、その事業実態はかなりデタラメなものでした。なぜそのようなことが起きてしまったのかについては、英Economistの論考記事が分かりやすいです。

評価額90億ドルの医療ベンチャーに不正疑惑(日経ビジネスオンライン 15/11/5)

テクノロジーや医療業界の常連出資者たちから資金を調達することができなかった。同社に投資したのは著名なベンチャーキャピタル会社のドレイパー・フィッシャー・ジャーベットソンと、IT(情報技術)業界の巨人オラクルの創立者の1人、ラリー・エリソン氏だけ。その他の出資者は、業界ノウハウに乏しい取るに足らない存在ばかりだった。
(中略)
旨みのある業界の(既得権益の)破壊者として名乗りを上げる新興企業は、現実の姿ではなく将来実現するかもしれない夢物語に基づいて評価されるということだ。投資家は魅力的と思える新興企業に何とか出資したいと願うあまり、起業家が広げる大風呂敷を鵜呑みにしてしまう。日経ビジネスオンライン
新規テクノロジー絡みの投資話によくありがちなオチでもありますが、あまりにもこうした事案が増えすぎてしまった結果、米国では現在かなりの反動が起きている気配もあります。

シリコンバレーに蔓延する誇大主張に、ついにメスが入る(ReadWrite Japan 16/1/18)

政府機関および監視団体が、テクノロジー企業が掲げる誇大な主張について追求しようとしている。近頃引っ切り無しのシリコンバレーの裁判や新聞沙汰は科学的事実に基づかないプロパガンダの結果である。

ほんの数ヶ月前、プレスが注目を集めていた医療企業 Theranosの血液検査の不正確さ、また食料品スタートアップ企業Hampton Creek Foodsが扱う疑わしい卵の代用品について取り上げた。連邦取引委員会はLumos Labsが謳い上げる脳トレーニングゲームの効果が誇大なものだった件について200万ドルの罰金を課した。そしてFitbitはその心拍数モニタリングについて、ユーザーから告訴されている。ReadWrite Japan
近年はウェアラブルデバイスに健康・医療関連サービスを結びつけるのが一つの流行でしたが、こうした不祥事が重なるとそうした方面の新規案件はかなりネガティブなイメージがついてしまいそうですね。

そういえば日本国内でも遺伝子情報解析サービスがいくつか立ち上がっていましたが、あれはどうなっているのでしょうか。サービス立ち上げ当初はメディアも挙って取り上げていましたが、最近はあまり見かけなくなったように思います。まあ、現状の簡易な解析サービス程度では本当に発症リスクが高い病気などについて知ることはかなりむつかしいという話もありまして、あくまでも話題作り先行だったというのが実態と思われます。そういう意味では先に挙げたTheranosと同じ穴の狢であったのかもしれません。

もちろん新しいテクノロジーには様々な可能性が潜んでいることは間違いありません。しかし、すべてのテクノロジーが成功するとも限らないわけでして、失敗は失敗と見極めることも大切であります。と、そんなことを考えていたらこんな話が流れてきました。

ビットコインは「失敗した」離脱を表明した主要開発者が語る、その問題点(ITmedia 16/1/20)

「ビットコインが失敗に終わるかもしれないのは最初から分かっていたことだが、それでもやはり、いざ実際に失敗したと結論を下さざるを得ないのはとても悲しいことだ」と同氏はブログサービスMediumへの投稿で述べている。ITmedia
こうした話が出てきてもまだまだビットコインを信じて賭け続ける人もいるのでしょうね。頑張って夢を叶えていただきたいと思います。

そのビットコインも、金融庁が取引所を認可する形で貨幣認定することになり、亡霊のような旧法である紙幣類似証券取締法その他、決済マターの法制をようやく時代に合わせて一新できそうな気配もいたします。まずは英断なのではないでしょうか。

その基幹技術のひとつであるブロックチェーンの仕組みをTISの嶋村亮さんがまとめたスライドも掲載してみます。

仮想通貨を「貨幣」認定金融庁、法改正で決済手段に (日本経済新聞 16/2/24)
5分でわかるブロックチェーンの基本的な仕組み(SlideShere TIS株式会社 嶋村亮 16/2/17)

このにわかに熱い仮想通貨関連ですが、それがただちに大きな市場に繋がり得るのかは微妙な情勢でありつつも、すでに市場では関連株の物色が始まっていたりして、慌てる何とかは貰いが少ない現象も感じているところであります。

やはり、期待を煽るような誇大なサムシングには充分留意しつつ、新しい事業や技術が実現する未来を冷静に見極めたいものです。