ソーシャルゲームのガチャ規制論の推移と今後の動きについて
社会問題になっているソーシャルゲームの高額ガチャ被害の件で、いろんな動きが出始めているのでその整理と、引き金となったサイゲームスが真っ先に対応を発表したので論じたいと思います。
山本一郎です。汚い話で恐縮ですが、先週来金玉袋の裏にニキビのような腫れ物ができたのを放置したところ、破れて膿が出て傷になったらしく、飛行機や新幹線で長期移動をすることの多い私にとって実に不快な日々が続いています。というか、痛いです。毎日玉袋を丁寧に洗うなどの改善を徹底してまいりたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。
玉袋の話はともかく、ソーシャルゲームの定番課金方法である有料ガチャについて、年始から様々な問題が取り沙汰され、また具体的に被害の申し立て件数もそこそこ増えているという状態でして、問題になっていました。
確かにソーシャルゲーム業界は急成長しているのですが、そのバックグラウンドにはどうしても「魅力のあるキャラクターを前面に立てた広告で消費意欲を煽り、ガチャをたくさん回して貰って売上に繋げていく」方法が一般化せざるを得ないため、ある意味で日本市場だけが海外に比べてプレイヤー一人当たりの売上高が北米や欧州などよりも段違いに高額であるという状態が続いていました。
【山本一郎】グラブルの消費者問題に寄せて――スマホゲーム業界全体に漂う問題を軽くまとめてみる(4gamer.net 16/01/09)
【山本一郎】ソシャゲのガチャで,本当にヤバい問題はどこなのか(4gamer.net 16/02/16)
業界的には、やり過ぎないレベルで回収手段としてガチャをやっていれば、消費者被害だソーシャルゲーム規制だという話にフレームアップすることなく安定財源としてやっていけたと思います。ですが、今回のサイゲームス「グランブルーファンタジー」のようなヒットコンテンツで、それも大量のテレビコマーシャルを投下し、ほぼ確率ゼロの景品があたかもたくさん供出されるかのように宣伝されてしまうと、これはもう当局全員が認知し振り返る状態になるわけでして、これはもう2012年コンプガチャ規制の景品表示法ガイドライン変更よりも一歩進んだ規制をしなければならないだろうという判断にならざるを得ない世界となります。
CESAなど業界団体も問題にようやく気づいて何かを始める動きが見えてきていますが、おそらくは薬石効なく長逝いたしましたガチャ商法の生前の姿を偲ぶ会になってしまうのではないかと危惧する次第です。
一方、時を同じくしてサイゲームスでも個別対処の一環として、高額ガチャの個別カード等の供出割合の第三者明示を行う方針であることを発表しました。
レジェンドガチャに関する重要なお知らせ(サイゲームス公式 16/2/16)
誰がどう見ても問題を起こした張本人ですし、問題の所在に気づいていち早く対応を考え発表されたという点でサイゲームスの英断には敬意を表したい一方、一部の関係者からはサイゲームスの具体的な運営内容に関する情報提供が当局側に複数寄せられ、もしもこれらの供出割合に欺瞞が起きたとするならば状況が固まり次第立ち入りの対象となり騒動に拍車がかかってしまいます。せっかく面白い良いゲームを制作し多くのゲームプレイヤーの支持を集めているのですから、きちんと先を見据えた対策を打っていっていただきたいと願う次第です。
で、こうなりますと置いてけぼりになった他のゲームでのガチャの供出割合も個別のアイテムに関しては極力確率開示し、第三者からも分かりやすくして欲しいという流れになるのではないかと思います。
同時に、消費者被害というのは主観的なもので、その人が「これは買いたいと思ったものではない」と感じれば、その時点で消費者行政当局としてもまったく無視できるものでもないというのが実際のところです。このあたりは、他のメディアからも続々と報道があるものと思いますが、コンプガチャ問題もそうであったように、12年2月の段階では影も形も見受けられなかった事案が、ある勉強会から一気に周知されて長官質問・答弁を経て絵合わせガイドラインに適合して規制に繋がっていったことを考えると、数ヶ月のうちに手が打たれるレベルのものもあるかもしれないし、ソシャゲ新法を視野にするのであればやはり立法から施行まで二年近くかかってしまいます。
このあたりは、世の中の仕組みの問題ですから仕方がないといえばそれまでなんですけどね。
ということで、特段煽るわけではないのですが、すでに警察庁ほか当局や、既存メディアからも所見を多数聞いておりまして、おそらくはトリガー役となったサイゲームスが対応を打っても打たなくてもベルトコンベアー方式に問題が周知され、何らかの処置が取られていくものと見受けられます。
もしも、運営が勝手にバランス調整やイベントで強い新キャラやアイテムを発行したなどで不当に所有のデータが劣化させられて使い物にならなくなったと感じたら、遠慮なく消費生活センター(電話番号直通で「188」だそうで)に連絡し、タイトル名と不満を伝えるだけでいきなりは返金されずともゲーム全体として善処はされるよ、ということになります。不満を述べる可能性がありそうな方は、明細なども取っておかれるとよいかもしれません。
また、すでに運営会社内部からの告発文書も多数出ている状況です。とりわけ某アイドル関連のゲームにおいてはアイテムの供出割合を高額課金者に限っては大きく絞るという仕様も普通に入っていたり、要するに外部から検証できないのでやりたい放題になっている、という現状を改善する観点から、
「特定のデータの排出確率を明示する」
「特定のデータが入手できる具体的な金額を明示する」
の双方が確立した上で、さらに
「実際にそのとおりのデータが排出され流通しているのか、外形的に(立ち入りも含めて)確認できるようにする」
というような最低限の解決策を施しましょうという流れになるんじゃないかと思っています。それが無理だとするならば、一定金額以上取り扱う業者は風営法の枠内で登録制にしろだとか、アイテムデータも有償ポイントと同じ扱いになるのだからサービス終了時を見越して資金決済法上の資金移動業者登録をさせて自家ポイント発行業者として売上の50%を金融庁の供託所に供託金として積ませようという話まで飛び出しかねません。
なので、やはり業界団体をきちんと整備して、しっかりとしたガイドラインを作って消費者保護のための枠組みを作っていかないと、ソーシャルゲームという業態そのものが成り立たなくなる可能性は否めないと思います。そもそも、利益率が4割の世界で成立しているコンテンツ産業なんて、ぱちんこメーカーや流通の全盛期みたいなものじゃないですか。こんな商売が青天井のまま、なんらかの制限がかからないはずがないのです。
今後は、プラットフォーム事業者に対しても優越的地位の濫用や独占禁止法の世界でちょっとずつ状況お伺いのフェーズにも入ってきますし、まずは庭先は綺麗にしておこうという温度感だけは、掴み取っていただきたいと切に願う次第です。
業界と皆様のお財布と金玉袋の健全化を心よりお祈りしております。