無縫地帯

総務省の要望にキャリア各社は見事明後日の方向に打ち返してきていて天晴れです

安倍政権が打ち出した「携帯電話料金の引き下げ要望」という通信業界全体が困惑した本件、総務省も努力をした結果、全体的にいままでと似たような感じの競争の枠内に収まっていて実に見事な空気読みが集まってます。

山本一郎です。難題を吹っかけられても元気に対策を打ち続ける省庁や業界が大好きです。

先日の安倍総理の発言を発端に総務省が総力を挙げて実現を目指した携帯電話料金の値下げですが、今のところキャリアの方が1枚も2枚も上手な展開でして、総務省、あるいは総理のメンツがこれで本当に保たれるのかどうかやや気になる局面ともなってきているように感じる今日この頃です。

実質0円はなくならない!?政府の携帯料金引き下げ要求を読み解くと…(産経ニュース 16/1/12)

ライトユーザー向け料金プランが新設されても、恩恵を受けるのは、文字通り、データ通信をあまり使わない利用者だけだ。高齢者や従来型携帯電話端末(ガラケー)からスマホへの機種変更に効果が期待できるものの、映像番組や画像をよく使う大半の利用者の料金はほとんど変わらない見通しだ。産経ニュース
要は、月間1GB程度のデータ通信しかしないようなスマホユーザーというのは本当に限られた層であり、ユーザーのマジョリティには何の恩恵もない方向で落ち着きそうだということですね。この辺りについては個人サイトが歯に衣着せぬ意見を表明していて分かりやすいです。

ニュースコメント[ソフトバンク、先陣を切り“低価格”プランを発表―ドコモとKDDIの追随は](無線にゃん 16/1/8)

総額5000円。もう笑うしかない、タスクフォース対策プラン。まあそれでも、5000円以下でキャリアブランドのスマホが使えるなら悪くないのかもしれないんですが、「1GB2900円です」って言われるとどうしても割高感が漂います。MVNOなら3GBで1000円以下ですし、キャリアでさえ、1GB追加が1000円ですからね。仮に容量追加1GB1000円ってのをベースに話をすると「じゃあ残りの1900円はどこから来たお値段なの?」ってことになるわけで。無線にゃん
まさに「上に政策あれば、下に対策あり」を地で行く展開ですね。

これは、ソフトバンクが発表した1か月に1GBまでのデータ通信を月額2900円で利用できるという料金設定についてのツッコミとなっています。要は実際のパケット消費量とは関係なく、携帯電話会社側でグロスで儲けたいラインが決まっているからそれにあわせて数字をいじっているだけだろうという詮索なわけでして、たしかに2900円ということなら3GB、それが無理ならせめて2GBは使えてもいいじゃないかと感じてしまいます。もっとも総務省側は最初から1GBで低料金という、主たるユーザー層の利用実態とはあまり合致しない枠組みでキャリアに取り組みを迫ったのですから、それに対してソフトバンクは単に模範解答を出したというだけかもしれませんが。

で、そうした背景の中、なぜかソフトバンクとKDDI(au)は学生を中心とした若年層向けに割安でデータ通信できるような料金プランを打ち出してきました。まずソフトバンクが朝一番の発表会で1か月あたり通常よりも3GB増量するプランを発表します。

ソフトバンクが「ギガ学割」月3Gバイト増量×3年か「ホワイトプラン」無料化(ITmedia 16/1/12)

同じ日の昼、KDDIはソフトバンクのプランに対抗するかのように1か月5GBの増量を発表。

auが「史上最強の学割」、毎月5GBを25歳までプレゼント。田中社長『若者はデータニーズが高い』(Engadget 16/1/12)

なぜ、このように若年層を相手にデータ通信量の増強を各キャリアが打ち出してくるのかという理由については、KDDIがある程度具体的なデータを提示して説明しています。

KDDIの田中孝司社長によると、男女1万人へのアンケートで、月間データ容量が8GB~15GB欲しいと回答したユーザーは10代で72%、20代では60%とダントツ。このことから若者のデータニーズの高さが浮き彫りになったとのこと。

また10・20代ユーザーの平均月間データ使用量は5.19GBであるといい、そのほとんどがYouTubeやニコニコなどの動画視聴が占めているとのこと。Engadget
要は10代~20代がモバイルにおいて圧倒的にデータを消費している現実があるということでして、KDDIはプレスリリースにおいても世代別のデータ利用料をグラフで提示しており分かりやすいです。

2016年auの学割は「割って足す!」25歳までず~っと、毎月5GBプレゼント さらに、学生も家族も1年間毎月1,000円割引!(KDDIプレスリリース 16/1/12)

スマホとともに成長してきた若者からすれば、浴びるようにたくさんの通信料を消費して暮らすのが当たり前になっているようです。当然といえば当然ですが。

ともかく実態は説明のとおりに若者はスマホを使ってデータ通信を最大限に利用しているという現実があるということですが、その一方で、データ通信をあまりしない層というのは高齢者に偏っているというデータも出ておりまして、こうなると総務省が今回キャリアに求めたのはお年寄りにやさしい施策という話であったという可能性もあり、つまりは選挙で投票してくれる層に大きくアピールしたかったのではないかという穿った見方もできてしまうんですね。まあ、この辺りはバランスの話でもあるわけですが。

さて、若年層ユーザーに対するアピール競争ではKDDIに勝負があったかに見えたのですが、実はここからがソフトバンクの本領発揮でありまして、KDDIの発表が終わった後、ソフトバンクがさらなる発表で追撃します。

auに対抗!?ソフトバンク、学割を月3GB→月6GBに増量!(ASCII.jp 16/1/12)

今日は朝にソフトバンク、昼にauの発表会があり、auがデータ通信量に毎月5GBがプラスされる学割プランを発表したことを受けての変更だと思われる。ASCII.jp
見事な朝令暮改ぶりでさすがソフトバンク、天晴れであります。
いいですね、この双方の座布団の積み上げ合戦。

今のところKDDIはこれを受けてのさらなる対抗策は出していませんが、総務省命令による1GB縛りの低価格プランはまだ発表していないので、そちらで何やら画策してくるのかもしれません。

で、気になるのは、この両者の戦いを様子見したままでいまだ動かないドコモなんですが、こちらは一体どう展開をしてくるのか。これまでの常からするとあまり面白くないパターンが多いのですが、ドコモも最近は看板に胡座をかいてのんびりしていられるだけの余裕はないと思いますので、ここはひとつ派手なことをやっていただきたいところです。

などと書いていたら、ドコモも結局は他2社に追従するような路線で学割施策を発表してきました。

ドコモが学割強化、3年間毎月6GB増量春商戦に向け3社出揃う(ロイター 16/1/14)

データ増量に関してドコモはソフトバンクに並べてきた感じですが、じゃあこの3社の中でどこが一番得なのかというと、それぞれ細かい条件などあって比較するのが面倒というか分かりにくいです。確か総務省はユーザーから分かりやすい料金体系なりを求めていたはずなんですが、そういう形で解決することはやはりなさそうですね。

このいい具合に消費者がおいてけぼりになる背景には、分かりやすいユーザーメリットを提示しつつ、契約内容がより分かりにくくなるという戦いであり、dビデオ、dマガジンやスマートパスなどのレ点商法や既存ユーザー冷遇のシェア争いのほうが本来は総務省が抜本的な対策をしたかったことのはずです。

こうなると、データ通信量や月額料金など、すべて横並びの尺度を総務省が提示し、それ以外のキャンペーンは販促以上のものをつけてはならないと一本化したほうが分かりやすいのかもしれません。

街角のコーヒーショップでコーヒートールサイズが一杯いくらと分かりやすい競争であってほしいと思うのですが、どうなるのでしょうか。