無縫地帯

ぱちんこ業界の一時的混乱と、今後の見通しについて

激震が続くパチンコ業界の根源のひとつが不正改造釘問題であり、業界団体調査の結果、まさかの適法な「適合率0%」という状況を見てさまざまな動きがあるように見えます。その底流を解説したいと思います。

山本一郎です。人生そのものはおろか、私の存在自体がギャンブルみたいなものですので、あまりギャンブルは嗜みません。

ところで、先般より騒ぎの拡大しておりましたパチンコ業界関連が騒がしいのは、一部の方であれば良くご存知であろうかと思います。法律的には「パチンコ」ではなく「ぱちんこ」と表記されるものですが、民間のレジャー業界を指す言葉としては「パチンコ」のほうが広く普及しているため、本稿ではパチンコ表記としておりますが、他意はありません。

ことのいきさつそのものについては、カジノ研究家の木曽崇さんが一部BLOGOSに記事を寄せておられ、また木曽崇さんとパチンコライターの重鎮POKKA吉田さんと私とで本件に関する鼎談をフジテレビ系ネット放送ホウドウキョク『真夜中のニャーゴ』12月15日23時05分からの放送で詳しく状況解説をしようと思っておりますが、このパチンコの不正改造釘の問題は非常に深いものがあります。

パチンコ業界における遊技機の不正改造問題について(BLOGOS 木曽崇 15/11/25)
ホウドウキョク「真夜中のニャーゴ」

また、元通産官僚の宇佐美典也さんも、賭博開帳図利にあたるのではないかという珍説も含めて非常に強い危機感に見舞われた記事を書かれておりましたが、ギャンブル依存症についての警鐘も強く鳴らしておられました。業界一般で語られる常識的な内容から外れる文言も多いためURLは貼りませんが、興味のある方は検索するなどして参考までにご一読ください。

本件については、狭義の問題と広義の問題があります。狭義は当然パチンコ業界全体の縮小と併せてユーザーの求めに応じる形でメーカーも流通もホールも射幸性を高める「改造釘」機種の運用に手を染めている件であります。これは木曽さんの記事にもあるとおり、一般論として、パチンコに通うユーザーは射幸性のある遊技機を求めており、それにホールが応えるために日々釘を打っているのであります。当然ながら、認定された遊技機をホールが勝手に釘を打つ行為はそもそもが違法でありつつ、業界の常識として「ホールは釘を打ち、開けたり閉めたりしてパチンコに勝ちに来た客と向き合って商売をしている」のであります。その釘を打っている行為を所管の警察署が見つけたら、それは直ちに違法であり、3ヶ月の営業停止もやむなしという事態であります。

これは真夜中のニャーゴでもPOKKA吉田さんが解説しましたが、本件担当の新任課長は北の大地でこの「ホールの釘打ちなどを発見したら、おおむね3ヶ月の営業停止」という不文律を破り、警察庁OBからの圧力をてんで無視して所轄署として6ヶ月の営業停止処分とした、コワモテの警察官であります。つまり、パチンコ業界にとっては非常に厳しく厳格な態度でパチンコ行政に望む御仁が担当課長に赴任してきたわけでして、これは着任前から業界や界隈では何事か起きるのではないかと非常に恐れられた事態であります。

そこへ、今年はじめの行政講話において、業界関係者重鎮が一同に集まる場所で当課長が「釘問題が蔓延している」と一席ぶったわけですので、震撼するのもやむなしというところであります。その後の流れは、間違いなく業界団体におけるサンプリング調査、そして適法に運用されている遊技機が一台もない、すなわち規制され射幸性が制限されているはずのパチンコ業界全体でみて規制をクリアしている「適合率が0%」という、かなり画期的な調査結果が出て、これが騒ぎのど真ん中にあるわけです。

当然、さまざまな漣どころか漬物石が投げ込まれ津波のようなものが押し寄せてくるわけなのですが、メーカーは検定を受けて適合した台から、すでに釘を打った状態で出荷しており、まずこれは違法状態。さらに買い手のホールも日々釘を打って、当たりの上の釘を開けたり閉めたりしてパチンコ愛好家と駆け引きをしているわけですから、これも違法状態。ということで、メーカーとホールの間で責任の押し付け合いが始まるのも致し方の無いところであります。

しかるに、これらの問題はそもどこに問題があったのかというと、これはもう仕組みを作りハンドリングしている警察庁も悪いという話にならざるを得ません。そもそも、パチンコの遊技機を検査する保通協の試験規定と出玉の射幸性を規定する『役物比率』、そして実際の出玉の割合を操作するための『おおむね垂直』という、いままで何となくザルい感じでやってきたのは当の警察庁じゃないかという返り血を浴びることになりかねません。それでも、課長や課長補佐が取り組もうとしているのは「いままでの不文律によって、射幸性がみだりに高められ、本来刑法賭博の規定で除外とされている『一時の娯楽に供する物』とはいえないレベルの賭博が全国レベルで横行」し、日本の主たるレジャー産業における「ぱちんこ業界全体がギャンブル以外の何者でもないという謗りに反駁できるだけの根拠さえも失われれば、過去の業界慣行はともかく国民の請託に応えられない」可能性があるという話になるわけであります。

これが一足飛びに風営法20条がどうこうで違法だから摘発だ、パチンコは違法ギャンブルだ、三店方式は欺瞞だとなるわけではありませんが、協議の問題は整理するとこういうことです。

■ 刑法では、仲間内での軽い賭け事など、「一時の娯楽に供する物」は除外規定であり、賭博とは看做されない。
■ なので、掛け金が小さく、射幸性の小さいレジャーは賭博ではない。
■ その刑法の指定する賭博の除外規定から逸脱しないよう、警察庁が管理団体を置き、業界団体各種と連携しながら「一時の娯楽に供する物」を越えないレベルの遊技機を検定し、賭博に当たらない機器であるとして娯楽として営業を認めた。
■ 賭博ではなく娯楽としての営業を認めるにあたり、号番事業者として風俗営業法の枠内でレジャー産業の一角として飲食店やゲームセンターなどと同様に営業時間や遊技機の内容を限定した。

ということであって、仮に適合率0%だとしても、ただちに風営法20条違反とは言えないものの、さすがに事業構造や適法化の枠組みは疑問視されかねないと言えます。ましてや、上記ロジックはあくまで「いままでこうでした」という話であり、どこぞの議会でどっかの政党の誰か議員が質問でも立とうものなら、警察庁の幹部をして「パチンコにおいて換金が行われているという事態は承知しておりません」というハイアングルなボケを国家中枢議会でかますことになりますので、これはこれで恥ずかしいことになります。

これは、コップの中の嵐的なパチンコ業界内での話ですが、より広義になってくると問題点は2点あります。ひとつが、本当に適合率0%の台が運用され、業界の慣行としてホールにて日々釘打ちがされたり、メーカーからホールに対して改造釘状態で全量出荷されていました、とかいう話になりますと、ギャンブル依存症という特別な部類ではなく普通のパチンコ愛好家もずいぶん過去から現在に至るまで違法状態の産業構造のまま騙され続けてパチンコを打ってきたことになります。つまり、一連の問題というのは警察庁を頂点とした認定機関、メーカー、流通、ホールという産業の内輪の話に過ぎないとして処理されてきており、そこにはどこにも消費者やユーザー、パチンコ愛好家の利害関係は考慮されていないということに他なりません。大変危険な状態であることはいうまでもありません。

したがって、とあるパチンコホール会社が海外で上場した際も、わざわざ上場目論見書におけるリスクとしてこの問題は詳細に記述されており、また海外の大手カジノチェーンも日本人や日本政府の考えとは別にどの角度からも「日本は津々浦々に賭博場があり、減少し始めているとはいえ3兆円の市場規模を持つ賭博大国である」とはっきり対日投資の説明会資料に書いたりすることになります。警察庁やパチンコ業界が「いや、これは射幸性が低くて、あくまで賭博規制における『一時の娯楽に供する物』の範疇ですから」と説明したところで、財布に10万ぶっこんで勝負する気満々で朝10時の開店前にパチンコ愛好家が並んでいる姿を日本国民も海外のカジノ関係者も知っているわけですから、これは賭博だろうと外形的に判断されても一概には否定できないということになります。

1点目が置き去りになった消費者の話だとするならば、2点目は日本国内の賭博とはそもそも何なのかという話になります。平たい話が、オンラインカジノやFX事業者も、賭博の除外規定には入っていたりサービス主体が海外であるので行政罰の対象になかなかならないという意味で賭博のラストリゾートです。FX事業者は実施しているサービスそのものは為替に関する投資事業ですが、一部のFX事業者は社内裁定をしており、実際には通貨を注文どおり動かすことなく社内の相対の注文で消滅させ、市況の値動きの結果だけ投資家に示して儲けさせたり損させたりしています。もちろん全部のFX事業者ではありませんが、基本的に事業者は決済のバルク化を認められており、一定の時間ごとに売りと買いで相殺した端数を両替することで為替手数料を圧縮しようとします。だからこそ、常識的にはあり得ないスプレッドや手数料でFX投資家に対して口座の魅力を説明し、安価に取引をさせている形になります。

しかしながら、これらのFX投資というのはいうまでもなく賭博の側面があり、射幸性を求める客が集っているわけで、だからこそバイナリーオプションなどカジノにおけるハイアンドローそのもののサービスを提供するのです。証拠金取引も聞こえはいいですが要するに2階建てであり、簡単に言えばパチンコ屋の隣に消費者金融の無人貸出機があるようなものです。自制心や知識の無い主婦がへそくり元手に軍資金を百万単位で散らすのは本人の勝手です。それが一概に悪いという話では当然ありませんが、ただし過去にパチンコでヘビーな賭けに身を投じていた人が、パチンコの射幸性を目に見えて抑えられるようになるとFX取引に流れるようになります。つまりは、ギャンブル性を低くする目的でパチンコ業界を締め上げるほどに、ギャンブル性を求める愛好者離れを起こし、FX取引など別の「魅力的な」サービスに移っていくことになるのです。

そうなると、日本に普及した娯楽としてのパチンコ業界の適法性ひとつを云々しても、ギャンブル依存症の数はまったく減らないことになるわけで、せいぜいあるとしてパチンコを日々打って楽しんでいる暇なリタイア高齢者の楽しみを奪うことにしかならないかもしれません。

こういう構造のど真ん中に、警察庁きっての面白人材が担当として降ってきたというのは業界の存続そのものがギャンブル性を帯びている感じで、ヲチャーとしても楽しいわけであります。皆様もこの問題にぜひ関心を持っていただいて、どうせ通らないIR法(カジノ法案)審議で無名議員がパチンコの違法性を国会質問し関係者が血圧上げていくさまを楽しんでまいりたいと思う次第でございます。

サイバーエージェントから買い取ったFX事業で勝負をかけているヤフージャパンを私たちは応援しています。