無縫地帯

LINEが動画ライブ配信サービスを本格スタートする件

LINEが動画ライブ配信サービスに参入を発表、先日撤退を表明したUstream AsiaやNOTTVとのコントラストが激しく、個人配信が始まればツイキャスやニコ生などへも大きく影響しそうです。

山本一郎です。12月なのに台風のような暴風雨でずぶ濡れになってしまい、台風一過後、気温急上昇に見舞われたら蚊に刺されるという惨事に見舞われました。東京はサマー過ぎます。来週から寒いところに行く予定ですが、日本の温暖化が心配です。

ところで、今さらここで詳しく説明するまでもありませんが、総務省にそそのかされたドコモがそのメンツを賭けて鳴り物入りで始めたはずのスマホ向けマルチメディア放送プロジェクトのNOTTV。いろんな風評に負けず頑張って続けてきましたが、武運つたなく、ついに来年6月末日をもって終了することになりました。

「NOTTV」サービスの終了について(NTTドコモ 15/11/27)

個人的にはドコモもよくまあ諦めずにここまで粘ったなという感慨しかありませんが、NOTTVにまつわる諸々のお話は電波行政方面に詳しい我らが池田信夫大先生にお任せしたいところであります。

NOTTVの謎(池田信夫blog 13/6/22)
破綻した「NOTTV」の見せた電波行政の深い闇「電波社会主義」が国民の電波を浪費する(JBpress 15/12/3)

今やスマホで動画という組み合わせはもっとも時流に乗ったメディア展開の一つであるわけですが、そこに「放送」という建て付けが加わるだけで途端になにか古くさくて後ろ向きな印象を覚えさせるのはなぜなんでしょうか。単に放送法という縛りが足かせになっているのか、それとももっと別の何かが原因なのか。

それはともかく、残念ながらダメダメだったNOTTVが消え去ろうとしている一方で、相変わらず飛ぶ鳥を落とす勢いのLINEがこれまで試験的な運用に限定してきたライブ動画配信サービスを本格的に運用開始することとなりました。

LINE、“いま”を伝える映像配信「LINE LIVE」開始。レコ大やAKB連動(AV Watch 15/12/10)

LINEは10日、映像配信サービスへの本格参入を発表。LINEのコミュニケーション機能やリアルタイム性を活かした、新たな動画配信プラットフォーム「LINE LIVE」をスタートする。
(中略)
有名人やタレント、企業などのLINE公式アカウントに関連する人気動画やメッセージをLINEで通知し、LINE LIVEアプリから視聴できる映像配信サービス。10日からiOS/Android向けに視聴用のLINE LIVEアプリを提供開始したほか、Webブラウザでも番組視聴が可能。AV Watch
発表の記事をしげしげと見物していたら、いつの間にか偉くなった佐々木大輔さんがその髭面を惜しげもなく披露していたので心が暖まりました。ぜひ頑張っていただきたいと願う次第であります。

LINE LIVEはオンデマンド形式ではなくリアルタイムで番組を視聴しなければならないライブ配信であることから、そこだけで比較すればNOTTVとほぼ同じような取り組みと言えそうです。しかし、NOTTVが独自の装置を用意して有料で視聴しなければならなかったのに対して、LINE LIVEはスマホやPCから基本無料で視聴が可能という点でサービスを利用するためのハードルが破格に低くなっています。

また、NOTTVは契約者獲得で相当苦戦し2015年9月末で好評ベースでは150万人をやや上回る程度でしたが、一方でLINEの国内ユーザー数は2015年12月時点で公称5800万人。圧倒的な差があります。LINEユーザー全員が必ずしもLINE LIVEを視聴するとは限らないとしても、同じような番組を配信した際、NOTTVよりも明らかに多くの視聴者を獲得できることが期待されます。

こうした状況を見るとNOTTVとLINE LIVEをそのまま比較するのは適切ではないようにも見えますが、エンドユーザー発信コンテンツ(UGC)をベースにした他の多くのネット動画メディアと異なり、LINE LIVEは最初からプロが企画・制作するコンテンツを売り物にしている点で、ネット動画メディアの性格としてはよりNOTTV的なアプローチであると解釈できます。

第1回目の放送にはAKB48の番組が予定されている。このほか「東京ガールズコレクション」や「原宿駅前ステージ」といったイベントや劇場とのコラボレーション、TBSの「第57回輝く!日本レコード大賞」の事前特別番組やニッポン放送の「オールナイトニッポン」といったテレビやラジオとの連動番組も実施。バンダイチャンネルから「ラブライブ!」のμ's(ミューズ)によるライブ全7公演を特別編集版として配信予定とするなど、コンテンツプロバイダーとの連携も進める。AV Watch
こうなると、NOTTVで仕事をしていた制作関係者や出演者などがそのままLINE LIVEへ流れて来たとしてもまったく不思議ではありませんし、実際そういう事例はありそうです。

LINEとしては今後LINE LIVEで有料コンテンツを立ち上げることができるかどうかがビジネス的に一つの大きなハードルとなりそうですが、コンテンツそのものを有料化しなくても、期待される視聴者数の規模を考えれば広告やECだけでもかなり稼ぐことができるという目論みは十分にあるでしょう。

なお、発表によれば今後は一般個人向けにも動画配信機能を公開する予定のようですが、ニコ生などで起きたような無謀な個人ユーザーによる数々の不適切な動画配信事故を考えると、LINEがわざわざ火中の栗を拾うようなことを自らする必要があるのかどうかは気になるところです。もちろん、本格的にLINEが個人配信に参入するよという話になりますと、ただでさえツイキャスの急伸で旗色の悪いニコニコ動画は一層のオワコン化を進めてしまうことになりますので、このあたりの業界地図はまた大きく塗り替えられることとなります。

いずれにしても、NOTTVが終わるタイミングでLINE LIVEが出てきたというのはなかなかに面白く、本来であれば正にこのLINE LIVEのようなポジションを狙っていたであろうソフトバンク傘下のUstream Asiaも失敗に終わった事実なども加味しつつ、これからLINE LIVEが微妙にスタンスの異なるYouTubeやニコニコ動画とどう拮抗していくのか、生温く見守っていきたいと思います。

ところで、Yahoo!JAPANはリアルタイム配信事業に参入しないんでしょうか(ゲス顔)。