無縫地帯

「元村上ファンド」村上世彰さん、絢さん親娘などへの強制調査に感じるどうでもよさ

11月25日、村上ファンド事件で一世を風靡した村上世彰さんとその娘・絢さんを含む関係先に証券取引委員会が強制調査をしたというのでニュースになっておりましたが、あんま騒ぐ必要もなさそうです。

山本一郎です。資源株で逃げ遅れて秋口にそこそこ損を出しましたが私は元気です。

ところで、昨日15時ちょうどにNHKが証券取引等監視委員会による強制調査が「元村上ファンド」代表の村上世彰さん、絢さん親娘を含む関係先に家宅捜索された、ということであれこれ報じておりました。

村上世彰元代表に相場操縦の疑い 強制調査(NHKオンライン 15/11/25)


お昼前には村上ファンド方面で何かあったという情報が駆け巡っていて、元村上さん方面の関係者が派手にやっていた「黒田電気」絡みではないかという話はあったんですが、結論からいうと別の銘柄での終値関与による相場操縦の疑いだという報道が出ました。

旧村上ファンド関係者も関与株価操作疑い、元代表指示か(日本経済新聞 15/11/26)
村上世彰氏「終値関与」手口で相場操縦か(日テレNEWS24 15/11/26)

ほかにも「複数の口座を同一証券会社で開設」し、今回問題となったアパレル大手の「TSIホールディングス」だけでなく、「原弘産」やプロキシファイトで騒ぎの拡大していた「黒田電気」、「アコーディアゴルフ」や、最後には創業者の金策で不思議な資本政策の末にベインキャピタルにTOBかけられ非公開になった「マクロミル」など、様々な銘柄が対象になっているのではないかという風評が多数出てきている状態です。

すでに手口として「別働隊」を使った運用について具体的な内容が報じられ始めていますが、後述のとおり村上絢さんは「C&Iは自己資金」としか言っておらず、どういう構造になっていて、支持系統はどうなっているのかが解明されるといろんなパンドラの箱が空いてしまうのではないかと思うわけです。

そういう総崩れ観測もあって、いわゆる「村上銘柄」と見られる各チャートは軒並み暴落しており、これがまたどこもかなりアレな銘柄ばかりなもので、要するにそういう銘柄を買い上がるタイプの人はそういう理由で買っているのだということが良く分かる事例になっております。

個人的に村上親子を擁護するわけではありませんが、今回報道で出るような終値関与で相場操縦という話になりますと、似たような手口を繰り返している金融グループはそれなりにおり、そういう人たちは知名度が無いが故に野放しになる一方、うっかり経済誌に「私たちは復活しました」とばかりに顔出し陳列されるような「モノいう株主」というより「声のデカい投資家」は鉄砲持った猟師の前で鳴いて飛ぶ雉のようなものなのでしょう。

そこまで村上さんとこ悪いことしてたか?と感じてしまうのは投資家界隈の毒気を日々吸って暮らしている私たちの職業病か何かでしょうか。現在出ている報道だけで、ことさらに「村上世彰や絢はインチキであり、摘発されるべき存在だ」とは言えない状態だと思います。徐々に報道が出る中で、ああそういうことだったのかという話はあるのかもしれませんけれども。

2006年のライブドアショックから足掛け10年、さすがにわが国の証券市場もそれなりの成熟を見せているのか、目立つ投資家の筆頭格である村上世彰さんのグループが今回摘発になるとしてもそれほど大きな動揺を見せていないのは、いわば「モノいう株主」の手口がある程度浸透してきているからでしょう。

相場操縦、モメンタム、情報開示(投資の消費性について 15/11/26)

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ゴンゴンと市場インパクトが価格を動かすとき、特に当該企業を取り巻く環境に変化がなかったとしても、「何かあるかもしれない」と、とりあえず追随してみる連中が出てくる。そう、繁華街の行列商法と同じである。あるいは「呼び水」を高らかに宣言したセントラルバンカーもいた気がする*1が、その話はまた今度にしよう。ともあれつまり、何も考えずに後追いしてくれる「フリーライダー」は、この手の相場操縦に対してプレミアムを支払うことになる。
要するに「村上さんがあの銘柄に関心を持って買い上がっているらしい」と聞いてその銘柄に飛びつく投資家の層は一定割合いて、行列商法よろしく「村上が買ったなら仕掛かる、上がる」とたいしてその銘柄について調べずに買う人たちを当局が村上さんの摘発によって救うことが長期的に正しい話なのか、という問題でもあります。10年前も、村上さんがやっていた「聞いちゃった」売買というのは仕手の手口のように捉える人たちもいて、アクティビストと呼ばれる「モノいう株主」も結局はその出口戦略をグリーンメーラーだと蔑む向きは強かったわけです。

実際、「黒田電気」で村上さんのグループがやっているのは、いつか見た懐かしい村上ファンド全盛期の姿でもあります。

ガバナンス向上を求め「ルール違反」を徹底追求?村上絢 ・C&I Holdings CEOに聞く(nippon.com 15/9/28)
新村上ファンドの第2ラウンド村上絢氏に父譲りの強面黒田電気の「捏造」追及で株価上昇?!(産経新聞 15/10/2)

個人的に惜しいなと思うのは、企業のガバナンスを向上させるために株主が正当な権利を行使するという教科書的な建前は、とても大事なことなんだよということです。それが、企業のガバナンスには株主のためにROIを引き上げろという一方で、自分たちのファンドは終値関与での相場操縦の疑いがかかるようなダブルスタンダードに見られてしまうのは残念ですけど、株主がしっかりと銘柄を見て、経営状態に関与して経済効率を引き上げるというのも正論です。

また、いずれ報じられると思いますが、今回の強制調査に関連して、村上親子を刺したであろう関係者からの情報提供に基づいて当局が動いたようであるというのは重要な点です。証券会社からも、通報制度に基づき異常な売買が検知されたとして当局に報告がなされたという情報があります。もしもこれらが事実だとするならば、意外とみんなやってそうな終値関与について、違法性を知りつつ収益を上げるために積極的に実施しようとした証拠が複数、証言つきで出てきてしまうことになります。

一部のシンガポール筋では、かねてからシンガポールに移住している日本人富裕層の行儀の悪さに辟易して、日本の当局に対して積極的に情報提供しているという話があります。今回の村上世彰さんの話がこういうネタのベルトコンベアーに乗ってしまっているとすると、現地で村上さんと横並びで儲けていた投資家も時間差で火達磨になる可能性は否定できないのでしょう。

村上親子が扱うファンドでは絶対にやっていないと思いますが、その周辺にいる別働隊が、こういう海外ルートで黒い金でも預かってないことを祈るほかありません。


「父がお客さんのお金を運用していたのと違い、C&Iは自己資産のみ。だからこそ、中長期の視点で企業に提言できる」とも。

実際、絢氏が「株主価値の向上」を繰り返し叫ぶなか、黒田電気の株価は値上がりを続けている。
新村上ファンドの第2ラウンド村上絢氏に父譲りの強面黒田電気の「捏造」追及で株価上昇?!
また、一連の記事ではあまり名前をお見かけしない三浦恵美女史はご健在なのでありましょうか。よく分かりませんが、13年当時の新生・村上ファンドをDISった記事に興味深い記述があるので、併せてご笑覧いただければと存じます。いったい誰が書いたんでしょうね。

実は新生・村上ファンドの内情はそれほど芳しいものではない。

これまで不動産投資はトラブル続きだ。08年夏、新興不動産会社リプラスに約50億円を貸し付けたところ、わずか2カ月後に同社は破産。勝村建設に貸した15億円も焦げ付いた。破綻ゴルフ場を全国で買いあさっている経営者に融通した3億円も回収不能になったが、その人物は暴力団が実質支配したゴルフ場とも一時接点があったような厄介な先だ。

さらにパートナーの離反にも見舞われている。10年12月に前出の赤根氏が関係先の役職を一方的に辞任してしまったのである。その後、赤根氏はレノ株の受け皿会社「フォルティス」の持ち分を高値で買い戻すよう村上氏側に要求。対する村上氏は恐喝まがいの行為だと反発。両者の対立は訴訟にまで発展している。
新生・村上ファンドその野望と内情(東洋経済 13/2/11)
新生・村上ファンドその野望と内情(東洋経済 13/2/11)
写真週刊誌に噛みついた村上世彰のイライラ(FACTA 14年1月号)
「村上父娘鷹」の次の一手27歳の長女を「広告塔」に舞い戻った村上世彰氏。不動産投資は今も泥濘に嵌まったまま。資金余力はそれほどない?(FACTA 15年10月号)


いろいろ気になることが現在進行形になっておりますが、こちらからは以上です。