無縫地帯

三越伊勢丹とイード社運営「ファッションヘッドライン」、ステマ記事を乱発しお詫びを出すも改善しないの巻

三越伊勢丹とイード社(6038)が出資するウェブメディア企業「ファッションヘッドライン」社で、継続的で大規模なステマ案件が発覚していたようです。

山本一郎です。あまりにも慌しいので何だろうと思ったんですが、おそらく街角で流れ始めたクリスマスソングが前倒しで師走感を高めてテンションを底上げしているのではないかという疑惑を感じました。ロハス的にはもっとスローであるべきと思うのですが、如何でしょうか。

ところで、先日三越伊勢丹とイード社が出資し運営している「ファッションヘッドライン」で、突然謎のお詫びが出ました。

弊社ニュースメディアにおける記事掲載に関するお詫び(株式会社ファッションヘッドライン 15/10/31)

:
弊社といたしましては、過去の記事について早急に内容を確認し改善するとともに今後、有償の掲載記事につきましては誤解を招かないよう【PR】等の表記をしてまいります。
そうですか。

なかなか興味深い内容ですが…それにしても誰ですか、そんな過去の記事についてステマ記事を指摘した人は。野暮なことをする奴がいるんですね。

で、お詫び文の中に「早急に内容を確認し改善する」と書いてあったので、二週間ぐらいのうちには問題となった記事が削除されるか、「PR」表記でもされるのかと思って期待して見ておったわけです。

ところがですな、この運営の母体となっているイード社が何を考えているのか分かりませんが(分かってるけど)、クライアントから資金を提供されてアップされた記事にはほとんど改善が為されていません。自らお詫び文を出して早急に確認し改善するとまで言っておいて、問題の記事には「PR」表記もしないとかあんまり考えられないわけです。

イード社内からの情報提供によると、今年に入ってから少なくとも30件以上のステマ記事が掲載されているのですが(タイアップを除く)、イード社が直接販売した記事も、戦略PR会社や広告代理店から打診されて掲載した記事も、いずれもきちんと対処されていないというのはおかしいことです。本稿ではタレコミのあった内容から厳選した記事を解説しつつ、仕組みを紹介したいと思います。

では、いちいち見てみましょう。

斎藤工とデート気分なランチタイム過ごせる特設サイトがオープン(ファッションヘッドライン 15/3/23)
魚拓
Yahoo! Xbrand

大手広告代理店系PR会社から発注されたと見られる本件は、掲載料込みで30万円の値段がついて堂々とステマが展開されています。クライアントは日清食品、対象商品は”女性向けカップヌードル「カップヌードルライトプラス ラタトゥイユ/バーニャカウダ」”ですが、年末に日清食品に対してPR成果として報告されているようです。

「イメージキャラクターの斎藤工が、カップ麺を食べようとしている女子にメッセージを贈る動画を公開。カップ麺を食べる間の時間を、斎藤工と2人っきりで過ごせる」そうなんですが、カップ麺を食べるような女性にはこういうのを観せておけば喜ぶ、というような話なのでしょうか。

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足元に旬のエッセンスをプラス。今シーズンは“素材で魅せる”シューズに注目(ファッションヘッドライン 15/8/26)

魚拓
エキサイト
ライブドアpeachy

こちらはJIAAの業界ガイドラインが確定したはるか後、そんな決め事など守る気あるかとばかりに、靴メーカーのリーガル社の製品を激しく一押しするステマ記事が炸裂しています。記事冒頭にスタンダードな最新ファッションの解説を打ち込み、そのテーマを解決してくれるお前向きの靴はこれだとリーガル社の製品を惜しみなく推薦し、最後にはリーガルレディースのオフィシャルサイト向けのリンクを置くという定番の展開に水戸黄門もかくやというテンプレ感を際立たせる逸品になっています。

何を隠そう私も昔リーガル社の靴をしばらく愛用していて、酔っ払って靴にビール注いで一気飲みしたり宴会芸に一役買っていたのはいい思い出です。

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ピーチ・ジョンが紗栄子出演の新CM公開。“抜け感”新作ランジェリー姿でNYの街へ(ファッションヘッドライン 15/8/27)

魚拓
朝日新聞デジタル
エキサイト

こちらのクライアントはピーチジョン。記事の冒頭から末尾にいたるまでダルビッシュのストライクゾーンの広さに深い感銘を覚える内容になっており、ステマ記事の最高峰とも言える絶妙な味わいになっております。三越伊勢丹的にはこういう雰囲気も容認される開けた社風なんだなあと思うわけですが、こちらも代理店経由で不思議な報告書が出ていると耳にしております。紗栄子の魅力に、思わず朝日新聞デジタルも転載してしまう魔性の何かを感じる次第です。

個人的には、紗栄子の「抜け感」というよりは「ぬけさく」な感じが否めないのですが、如何でしょうか。

ぬけさく(google画像検索)

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すっぴんからゴージャスメイクまで、レディー・ガガが資生堂新年広告で50セルフィー披露(ファッションヘッドライン 15/1/2)

魚拓
ヤフービューティー
中国ニュース速報

最近ネット界隈においてあらゆる意味で攻めている資生堂がクライアントの本件。新年早々の話で、編集部も眠かったのかPR会社から出てきたリリースの文面を丁寧に膨らませるだけの絶妙な提灯具合がネタの味わいを深めている作品に仕上がっています。資生堂の気合いの入り具合の割に書いている記事が雑というコントラストこそ、ステマに手を染めるウェブメディアの本懐なのかもしれず、そのプロ根性には恐怖さえも感じます。

本記事はヤフービューティーにも転載されている一方、なぜか中国ニュース速報などという見慣れない方面でも読まれていたようなのでピックアップ。「どんなウェブメディアでもいいからとにかくPRリストで報告できればいい」という真摯な姿勢に心洗われるあちきでした。

次。

伊靴職人が来日し実演。フェラガモが「ドライビング・シューズのメイド・トゥ・オーダー」イベントを開催(ファッションヘッドライン 15/9/4)
魚拓
朝日新聞デジタル
エキサイト

みんな大好きフェラガモの靴職人がのぼり立ててやってくるという胸躍る物件。まさか極東の島国でステマ記事解説の具になっているとは思わなかったでしょうが、そこは騙された朝日新聞デジタルの顔に免じて許してあげていただければと願うわけであります。せっかくいい話なんだから、普通に「PR」ってつければいいのに。

そんなこんなでファッションヘッドラインを中心に5本の記事を紹介したわけなんですが、同じくイード社については多数のステマ記事が報告されております。最近では、ベクトル社の関連会社からのステマ記事の依頼をイード社担当編集が断る事例が見られるようですが、他の広告代理店系の相談は普通に受けているようなので、単にベクトル社が信頼されていないのか、少しは心を改めてステマをしないようにしているのかはイマイチ分かりかねます。

例えば、RBB todayというガジェット系ニュースサイトの「エンタメ」なるタグに突然、ニオイケアグッズの記事が掲載されます。参照URL見てもステマ感を満喫できる素敵な仕上がりになっています。RBB todayというと、やはりニオう男子が読者の中心ということで、記事掲載すれば押すな押すなの盛況になると判断して打診したのでしょうか。

汗のニオイ、20度を境に一気に上昇!……最新ニオイケアグッズ(RBB today 15/4/27)
ヤフーに記事配信がされていた残骸

RBB todayに関しては、一日数本のステマ記事を掲載していると見られ、複数のライターからもステマ記事の執筆を依頼された(実際に書いたとは言ってない)そうです。ほんけんがじじつだとするとたいへんなじけんですね。

そんなステルスマーケティングの玉手箱なイード社には、何度か、また複数の公式窓口に対して取材を申し入れたのですが返答は無し。しかし、上記のようにヤフージャパンその他配信先にあるイード社の該当記事はこっそり削除するなど、それが問題であるという意識があることは良く分かるわけですね。

で、イード社関係者によると「JIAAに加盟申請を正式に行ったが、受理されるか微妙な情勢」とのことであります。毎日ステマ記事の配信に精励されていると見られるイード社が、クライアントからの金銭授受があって掲載する記事には「PR」表記など関係性を明示せよとガイドラインに出しているJIAAに参画するのは放火魔が消防団入り志願するようなものです。そこから始まる恋もあるのでしょうか。今後の成り行きに強く期待したいところでございます。

JIAA ネイティブ広告ガイドライン

なお、三越伊勢丹にもファッションヘッドライン社についての見解を求める質問状を送ったところ、非公式ながら関係者より「問題であることは充分に認識しており、イードとの合弁という形で3年経過して事業を見直すタイミングに入っているので、もう少ししたらしっかりとした返答をしたい。もう少しお時間をいただきたい」との回答を得ました。同様に、三越伊勢丹の別の関係者からは「ネットでの情報発信を安易に考え、また運営についてはイードに任せすぎていたと思っている。…(略)…ステマとまでは言わないが、不適切な表現が記事中にあったのだとするならば、責任もって是正するよう働きかけたい」との話でありました。

当然のことですが、差分も含めて当該サイトやイード社が運営している各媒体の記事については、発信したすべての記事の内容とURLを有志で保全しております。どの記事が修正され、また削除されたのか、当欄でも私が暇な限り全力で続報を書きたいと思っております。

今後ともよろしくお願い申し上げます。