無縫地帯

IoTが当たり前となりつつある時代に求められるもの

かなり広い産業にまたがったバズワードとして2年程ハイテク界隈の寵児だった「インターネット・オブ・シングス(IoT)」も、最近あまり表舞台で話を聞かなくなってきました。良い意味で消化されたのでしょうか。

山本一郎です。最近イチロー・オブ・シングスが立ち上がりに課題を抱えております。年は取りたくないものです。

ところで、単なるバズワードとしての「IoT」がそろそろ勢いを失いつつあるような印象もある今日この頃ですが、そうしたビジネスにおけるセールストークなどの都合とは関係なく、IoT的なるものが今後もどんどん我々の生活の中で当たり前の存在になっていくのは間違いないのでしょう。

先日発表されたガートナーのテクノロジー分野のハイプサイクルも、IoT自体は山のてっぺんに来ており、ああ、まあだいたいそんな感じと膝打ちしたくなるような絶妙なポイントを突いています。

ガートナー、「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2015年」を発表企業が注視すべきコンピューティング・イノベーションが明確に


そんなIoTの現状ですが、各事業者の思惑がぶつかり合った結果、やたらに多数の標準化団体が立ち上がってしまい、早期に統一規格が実現するのは夢物語でしかない状況となってしまっています。当たり前と言えば当たり前ですが。

IoTの標準化団体(IoT{Internet of Things}まとめ)

IoT 関連のコンソーシアム、標準化団体が多数あり、全てを把握しきれないほどに乱立しているように感じます。産業分野ではGEを中心としたIndustrial Internet Consortiumは150社以上も参加し、oneM2Mも、欧州や米国、アジアの通信関連標準化組織7団体によって2012年に設立され、5つの業界団体および200以上の企業が参加して強大な勢力となって標準化を進めています。一方で、スマートホーム分野は、複数のコンソーシアム・標準化団体が乱立している状況です。IoT{Internet of Things}まとめ
各団体はこれから数年をかけて互いを淘汰・吸収すべく戦いを繰り広げることになるのでしょうが、結局は規格が統一されることなく併存し、エンドユーザーが個別のIoTな製品やサービスを使うその都度に余計なコストを強いられる事態になってしまうのではないかと今から心配です。

日本も国レベルでIoTの通信規格を策定して国際標準を目指すようですが、いつか来た道再びとならないことを祈るばかりです。

IoTに新通信規格総務省、米欧と連携し国際標準に(日本経済新聞 15/9/19)

総務省は2016年度から、あらゆるモノがインターネットでつながる「IoT(インターネット・オブ・シングス)」用の新たな通信規格を開発する。NTT、NECなど通信や自動車など有力企業200社あまりに参加を呼びかけ、自動運転車などを実用化する前提となる技術をつくる。欧州委員会や米政府とも早い段階から連携し、新規格を国際標準に育てる。

新規格の開発は欧米とも初期段階で、早めに連携すれば日本も国際標準づくりに影響を与えられる。携帯電話のように日本国内での規格や技術が諸外国の潮流から離れて独自に進化し、市場を広げられなくなる「ガラパゴス化」を防ぐ。日本経済新聞
で、今後IoTが普及していく中で気になるのがセキュリティとプライバシーです。オープンな通信環境で多数のIoTデバイスが動作する状況において、悪意のあるサイバー攻撃が仕掛けられた場合、一体どういう事態が発生してしまうのか。もちろん最悪の想定はいくらでもできますが、そうした事態を未然に防ぐための仕組みを色々と考えていく必要があります。直接IoTの話題ではありませんが、以下の論考などはこれからの時代のセキュリティやプライバシーを考える上で参考になるかもしれません。

セキュリティやプライバシーはプログラマの仕事(責任)ではなく開発系のデフォルト機能になるべき(TechCrunch 15/9/29)

当然ながら通信環境についてもセキュアな方式が今後はどんどん求められることになりそうです。丁度この記事を書いているタイミングで、国内においてIoT向けのMVNOサービスが発表され、そこではセキュアな通信が売りとなっているようです。

【詳報】ソラコムがベールを脱いだ、月額300円からのIoT向けMVNOサービスの狙いとは?(TechCrunch 15/9/30)

IoTで未解決だった問題として、玉川氏はセキュリティーを挙げていた。これについてはクラウドで潤沢なリソースを使った「SORACOM Beam」というサービスで解決可能だという。SORACOM Beamはデバイスとサービスを繋ぐ通信経路を暗号化したり、ルーティングするサービスだ。TechCrunch
同社の提供するサービスがはたしてどこまで種々の悪意ある攻撃に対抗できるのかについては今後の運用を見て判断していきたいところですが、最初からこうしたセキュリティへの配慮を謳う事業者が出てきたのはまさに時代の趨勢であると感じます。

つらつらとネット上の記事を眺めてみても、9月ぐらいまでと10月以降で、記事の量はともかく質がずいぶんと変わってきてしまって、他の単語にどんどん置き換えられていっている状況が良く分かります。

ようやく概念が浸透し、個別具体的なプロダクトやファンクションの世界に落とし込まれていく中で、各社のポジションが明確になってきたということなのでしょうか。いましばらく、状況の推移をしっかりと見守っていきたいです。