無縫地帯

Western DigitalによるSanDisk買収劇の裏にある中国の影が気になります

身売り観測が出ていたSanDiskが、あっさりWestern Digitalへの買収を発表…といったところで、中国政府の巨額ファンドの絡みも含めて興味深い事案が進んでいるようにも見えます。

山本一郎です。良い値段で買収されたいです。

ところで、ここしばらくSanDiskの身売り話がずっと噂されていましたが、遂に日本円に換算して2兆円を上回る巨額での取引が決まりました。

WDが2兆3千億円でSanDiskを買収(PC Watch 15/10/21)

米Western Digital(WD)と米SanDiskは21日(現地時間)、WDがSanDiskを買収することで合意したと発表した。買収の支払いは現金と株式で行なわれ、総額は約190億ドル。PC Watch
当初SanDiskの買収については中国のTsinghua Unigroup(紫光集団)が狙っているのではないかという憶測も飛び出したりしていたのですが、結果としてはその紫光集団が筆頭株主を務めるWestern Digitalによって買収されたあたり、火のない所に煙は立たないものだなと感じ入った次第です。

Toshiba, SanDisk reportedly among takeover targets of Tsinghua(DIGITIMES 15/10/8)
清華大学系の紫光が4500億円投資、米ウェスタン・デジタル筆頭株主に(newsclip 15/10/2)

ちなみに、紫光集団は中国清華大学傘下の複合企業で、ちょうど同じような時期に米半導体大手Micronの買収も試みていたようですが、こちらは今のところ成立していません。

紫光集団、マイクロンに230億ドルで買収提案=関係筋(WSJ 15/7/14)

中国企業がこうした企業買収や投資を積極的に進める背景には当然国策が絡んでいると考えるべきですが、そのあたりを論考した記事があったのでご紹介しておきます。

中国によるマイクロン買収の真相(NEWS & CHIPS 15/7/23)

中国企業が外国の半導体企業を買収する背景には、昨年10月に中国政府のMIIT(Ministry of Industry and Information Technology:日本の経済産業省に相当)が国家集積回路産業投資ファンドを設立したことがある。このファンドこそ、中国に半導体産業を拡大発展させるための資金となる。総額は2兆円とも言われる。この時以来、中国の買収活動が表面化してきた。中国は、半導体業界の優秀な人材を探しており、これから人材の引き抜きも表面化してくるだろう。NEWS & CHIPS
一方で、米中関係は現在かなり緊張した状態にあると考えるべきでしょう。

米企業7社に中国のサイバー攻撃、首脳会談後=クラウドストライク(ロイター 15/10/19)

9月の米中首脳会談でサイバー攻撃による産業スパイ行為を容認しないことで合意してから3週間のうちに、中国政府と関係するハッカーが少なくとも米企業7社にサイバー攻撃を仕掛けていたことが分かった。ロイター
米、中国の人工島12カイリ内に軍派遣へ南シナ海(朝日新聞 15/10/22)

オバマ米政権が、中国が南シナ海で埋め立てた人工島から、国際法で領海とされる12カイリ(約22キロ)内に、米軍の艦船または航空機を近く派遣する決断をしたことがわかった。複数の米政府関係筋が明らかにした。(中略)派遣の時期や場所などを最終調整しているが、中国政府が反発するのは必至で、中国側の対応次第では米中関係が緊張する可能性がある。朝日新聞
買収戦略を進めたい中国政府はその裏の手でサイバー攻撃を激化させておることを考えると、このまま売ってよいのかという議論になるのはアリババ集団のニューヨーク市場上場後の顛末を見ても分かるような気もします。

やはりこうした状況で注目されるのは、事実上の中国国策企業である紫光集団の資本が入った企業による大規模な買収案件が米規制当局によってすんなりと承認されるのかどうかというところでしょうか。さらに面白いのは、紫光集団によるWestern Digitalへの投資さえもが当局の精査を済んでないらしいということです。

SanDisk身売り検討で東芝はどうするWestern Digitalを選ぶ可能性大との指摘(ITmedia 15/10/16)

Western Digitalは、中国政府系企業Tsinghua Holdingsから約40億ドルの資金注入を受けることにもなっている。ただし、この取引は米規制当局による精査を通過する必要がある。ITmedia
いろいろすったもんだが進行中、といったところでありましょうか。

今後のストレージ業界のあり方を大きく変える可能性もある買収劇ですが、はたして二大国間の緊張状態によって何らかの異変が生じるのかどうか、やや気になる話でもあります。