無縫地帯

Facebookのメディアサービス「Instant Articles」が本格展開に向けて始動へ

若い人の利用者は減っているようにも見える一方、いまなお勢力を保っているFacebookが、新しいメディアサービス「Instant Articles」をローンチ。注目が集まっています。

山本一郎です。寄る年波に連敗中です。

ところで、Facebookがこれまで一部ユーザーに限定してテスト提供してきたサービス「Instant Articles」をすべてのiPhoneユーザー向けに拡大、さらにAndroid向けも年内中には正式な提供を開始する予定だそうです。

Facebook、「Instant Articles」の提供を全てのiPhone版ユーザーに拡大(マイナビニュース 15/10/21)

Instant Articlesというのは、Facebookのサービス内だけで各コンテンツプロバイダが提供する記事をそのまま購読したり他のユーザーとシェアしたりできるサービスですが、同サービス向けに提供されるコンテンツ内の掲載広告収入は100%がCP側に保証されるなどの破格な好条件もあり、概要発表時からメディア関係者の間ではかなり話題になっていました。

Facebook、メディアの記事を公式モバイルアプリ内で読める「Instant Articles」(ITmedia 15/5/13)

パートナーメディアは自社のツールを使って記事を作成し、それをFacebookのサーバにアップロードする。それが自動的にFacebookアプリ向けに変換されるという。Instant Articlesには広告の掲載ができ、広告収入の100%がメディアのものになる(広告ネットワークを使う場合は通常通り70%がメディア分)。
(中略)
Instant ArticlesはFacebookのサーバ上にあるので、当然従来の記事のようなオリジナルへのリフェラルトラフィックはなくなるが、米comScoreとの協力により、Instant Articlesのページビューをオリジナルへのトラフィックとしてカウントする機能を搭載したという。また、Google Analyticsなど各種ツールでの解析も可能だ。ITmedia
しかも、最初からThe New York Timesのような大手報道メディアが参加したことも注目すべき事態でありました。

The New York TimesとFacebookのファウスト的契約…ニュースのビジネスモデルはどう変わるべきか?(Techcrunch 15/5/15)

現代社会の‘新聞の一面’はTwitterでありFacebookだ。紙面というより、個々の記事を読み、その話題や、見解を知る。メディアではなく、ライターがブランドだ。放送メディアのニュース番組も、重要性が薄れている。
(中略)
Facebookはこれまでも、ブランドをあまり厚遇していない。無料でやって長続きしなかったものを、有料に切り替えたことはある。FacebookがWebへの一般的なポータルになり、世界へのポータルにもなりそうな今日、ニュースの高級ブランドは絶滅危惧種になる。それから先は、どうなるのか?Techcrunch
もはやネット上の情報の導線がFacebookなどのSNSに支配されてしまい、そこからしか読者を集められないのであれば、なにもわざわざ自社でサイトを運営して集客施策に苦労するよりは、最初から人気のあるSNS上だけで完結するならその方がビジネスになるという割り切りがCP側に生まれてもおかしくないのかもしれません。もっとも、広告収入が100%確保できるというような条件が未来永劫保証されるのかどうかは神のみぞ知るという感じかもしれませんが。

いずれにしても、FacebookのInstant Articlesは年内中にAndroidでも対応してより本格的な展開となる予定ですから、当然のように参加するCPもさらに増加していくことでしょう。また、現在のところは主に米国内CPだけですが今後は世界中の様々な事業者が加わっていくことでしょうし、そこには日本のメディア名もリストされていくことになるのでしょう。

昨今は若者のFacebook離れという話題もあるためFacebookでメディア展開すれば盤石というわけでもないとは思いますが、依然としてFacebookの影響力は他のSNSに較べてはるかに大きいと思われます。そうした状況でInstant Articlesはどこまでネットメディアのあり方に影響を与えていくのか気になるところです。

米国の10代、急激にフェイスブック離れが進む一方で、インスタグラムとスナップチャットの人気急騰(media pub 15/10/18)
Facebook、1日の利用者数が初めて10億人に到達(CNET Japan 15/8/28)

さて、このFacebook Instant Article、契約書の雛形を見ると在外法人との契約を義務付けられており、今後日本でもサービスを展開するぞとなってFacebookの提携先であるヤフージャパンが挙手しないまま日本のメディアがここに配信を行った場合、日本の法律には当然のことながら守られづらい状況になります。

ノーティスとして思うのは、上記指摘したように現在はCP側に100%の広告収入が確保できるといっても、うまくいってから途中で梯子を外されるというのは往々にしてあり得ます。そういう場合に、優越的地位の乱用だと公取マターにするべきところが、いや大将これ実は海外法人との取引なんで日本法の適用は限定的なんすよと言われると手も足も出ません。

もちろん、Facebookに限らずこれらの取引の税法上、法範囲の問題と言うのは個人情報の越境データでも問題になるところですが、最近になって、EU司法裁判所が10月6日にEUと米国が2000年に取り決めた個人情報に関するセーフハーバールールは無効という結構な判断を下しましたし、今後はこの手の徴税とデータを巡る争いは実務の世界で壮大な闘争となるのではないかと思っております。

うまくいくとヤフーニュースはともかくGunosy、Smartnewsなどニュース系アプリは吹き飛ぶ可能性もないわけではないので、ぜひGunosyだけ吹き飛びmixiとはてなが巻き込まれて後は全員無事という展開を希望してやみません。