SEALDsの活動に身を投じる若者の本音は何か、後藤宏基さんに訊く
安保法案の参議院での議論が始まり、国会前もさわさわしている中、SEALDsの活動に参加し賛否両論を巻き起こしたスピーチで話題になった後藤宏基さんにお話を伺う機会がありました。
山本一郎です。一連の安保法案については是々非々で考えるほうですが、個人的にはやや賛成です。
その一方で、反対派や、違憲判断など問題点についてはきちんと詳らかにして、問題がある部分についてはきちんと説明をし、内容について理解できるよう広く意見を交わして国民全体が議論をして可決か否決か結論を国会で出していく透明性あるプロセスにして欲しいと願う次第です。
15日、SEALDsを率いる奥田愛基さんが、参議院の中央公聴会で意見陳述をされました。いろいろな人々の支援もあり、非常に堂々とした、理路整然の議論になっていて、これはこれで傾聴に充分値する優れたものだったと思います。
9月15日 奥田愛基(公述人 SEALDs 明治学院大学 学生)の意見陳述(全文・注釈あり) 参議院『平和安全特別委員会・中央公聴会』
それに先だって、外交分野において著名な論客である評論家で立命館大学客員教授の宮家邦彦さんも、一連の法改正の必要性について論じられています。
9月8日 宮家邦彦(参考人 立命館大学 客員教授)の意見陳述(全文) 参議院『平和安全特別委員会』
この奥田さんの議論と、宮家さんの議論を両方読むと、この法律についての両方の立ち位置と、モノの考え方が立体的にわかるようになります。はっきりいって、この議論を、この一連の安保法案の問題が騒ぎになったときからきちんとしていれば、ここまで問題がこじれることなく国民は議論を受け止め、賛否を明らかにすることができたのではないかと思うわけであります。
参議院で議論になる直前の8月28日。福岡の西南学院大学から、SEALDs主催の金曜国会前抗議活動に参加するために「生まれて始めて国会前に」来た後藤宏基さんが、ある意味で魂の叫び的なスピーチをされ、話題になりました。彼自身は、福岡でSEALDsとは別の団体を率いておられるのだそうです。
【スピーチ全文掲載】「好き放題やっている安倍総理へ、僕らはこの怒りを絶対に燃やし続けます」――“アジアの玄関口”福岡から来た学生がもの申す! 10万人国会前抗議直前のSEALDs金曜行動で訴え]([魚拓IWJ Independent Web Journal 15/8/29)
ウェブでは、この後藤さんの発言について賛否両論が投げかけられ、一部はTogetterで盛大に取り上げられるなど、絶賛と冷笑という非常に極端な評価が出ていて、これこそ民主主義のあるべき姿なんじゃないのと思ったわけですよ。
SEALDs福岡の大学生「もし中国や韓国が攻めてくるなら、僕が九州の玄関口で、とことん話して、酒を飲んで、遊んで、食い止めます。それが本当の抑止力でしょう?」(Togetter 15/8/28)
そこに、東京大学の玉井克哉先生が登場して騒ぎが拡大するわけなんですが、参政権を持った若者が、自身の信条や、無知や未熟なりに政治的な意識を持ち、堂々と意見を述べて議論を湧かせるというのは、民主主義的にはいいことなんじゃないのと思うわけであります。
無知な学生に、無知でいいんだ、行動の方が大事なんだといったメッセージを送る大人は、われわれ教師の敵です。彰義隊の騒乱をよそに洋書を講じた福澤先生こそ、師とするに足る方です。そんな後藤さんがせっかく生まれて初めて国会まで来てくれていたので、本当は安保法制の賛成派と反対派とに分かれて酒を飲み交わして議論してみたかったんですけど、さすがにそれはお互いの予定が合わなかったので電話で話を聞いてみました。インタビュー日時は9月3日です。
玉井克哉(Katsuya TAMAI)
[[image:image01|center|賛否両論あった後藤宏基さんのスピーチ。(引用元:IWJ)]]
山本「はじめまして、よろしくお願いします」
後藤「こちらこそ、よろしくお願いします」
山本「や、騒ぎになっていますね」
後藤「自分でもここまで話題になるとは思っても見ませんでした」
山本「驚いている?」
後藤「そうですね。自分が本当に言いたかったことがちゃんと伝わらなかったり、もどかしい気持ちはあります」
山本「でも、今回はSEALDsの活動に参加した後藤さんの本音や心の叫びのようなものは凄く伝わってきましたよ。批判もあったなりに、いろんな人が反応できるつかみどころのあった、良いスピーチだったと思います」
後藤「ありがとうございます。僕はSEALDsメンバーではなく福岡で団体を作って安保法案に反対する活動をしているんですよ。もしも次にスピーチの機会があれば、もっと考えて、きちんとしたスピーチができるようにしたいです」
山本「後藤さんは安保法案に反対ということで、活動に参加されたわけですが、どういう動機だったんですか」
後藤「SEALDsというのは、いろんな人たちがそれぞれの気持ちで参加しているグループなので、必ずしも僕がSEALDsのメンバー全員を代弁しているわけではないのです。あくまで、僕個人の考えや気持ちということでいいですか」
山本「もちろんですとも」
後藤「僕は、安保法案が議論されないまま通ってしまうことで、日本が戦争する国になってしまうんじゃないかという純粋な危機感を持って参加したんです」
山本「確かに、SEALDsの活動や主張は、今回の安保法案が『戦争法案』であるとして論陣を張ってますよね」
後藤「はい。僕は法律を学ぶ学部生に過ぎませんが、分からないものについては、僕らなりに勉強会に参加して、いろんな人の話を聞いて、勉強している途上なんです」
山本「貴殿が『韓国人や中国人と話して、遊んで、酒を飲み交わし、もっともっと仲良くなって』『僕自身が抑止力になってやります』という話をされたので、これは平時の草の根外交で相互理解しますよという内容であって、安保法制とは違う次元かなと思ったんですが」
後藤「その辺を、僕らはどうしたら戦争しないですむ日本にできるのか、真剣に考えて行動するべきだと思っているんですよ」
山本「なるほど。戦争をしないためには、どういうアクションを興すのが望ましいのか、貴殿なりに考えての行動だということですね」
後藤「そうです。武力による抑止力だけでは、日本を守ることはできない。また、アメリカが引き起こす戦争があったとして、それに日本が参加することで、僕ら日本の若者が、戦争に参加できる道を拓いてしまう法案だと怖れているんです」
山本「集団的自衛権に関する議論で、とりわけ違憲だとされる部分で、貴殿の仰る危惧を持つ方はいらっしゃいますね」
後藤「はい。韓国や中国が槍玉に挙げられていますが、僕は福岡で暮らしていて、身近にそういう友達もたくさんいます。彼らと語り合う中で、分かり合えるものはたくさんあるのに、彼らと戦争が起きるかもしれないと危機を煽って、安倍首相が独裁的に法律を通すのは民主主義からしておかしいと思います」
山本「お考えは理解できます。ただ、強行採決といっても、単なる与党多数による与党単独採決であって、民主主義的には手続き上正しい方法ですね」
後藤「そこはSEALDsでも僕らの団体でも各々みんな集まって議論をしたのですが、もちろん議会制民主主義では正しく採決をされているとしても、憲法に関わる法律で、違憲じゃないかという怖れも論じられてるものを、フリーハンドで与党多数だからと単独採決するのは問題じゃないでしょうか」
山本「つまり、違憲の可能性があるならば、きちんと憲法を改正してから安保法案を審議するべきということですか」
後藤「もちろん、その憲法改正が戦争に日本を導く内容なら、僕は反対です。絶対に、反対します」
山本「それは国民全員で話し合うことですね」
後藤「はい。だから、SEALDsは『日本を戦争できる国にしてはならない』という統一された考えが真ん中に立って、そこへ向けてみんなが集まっているから、心ある若者も意識を持っているお年寄りもみんな参加できると思うんです」
山本「安保法案というのは、戦争をしないために日本がどういう対処をするべきかを規定した法律だと思うのですが、一連の法改正や立法の中で合憲と見られる部分も駄目なんでしょうか」
後藤「この法律改正のどの部分が合憲で、どこが違憲かというのは、僕もまだ勉強途上なんです」
山本「そうなんですね。実は私がちょっと違和感を感じたのは、そもそも安保法案というのは戦争をしないで済ませるための法律ですね。もちろん、集団的自衛権の問題ではアメリカの戦争に巻き込まれるという話もありますが、基本的には日本が戦争を回避するための抑止力をどうするのかという法律のように見えます」
後藤「そこは、もっと政府が時間をかけて国民というか僕らと向き合い、時間をかけて議論をして、これは日本のために必要、ここは違憲だから憲法改正を議論してから進めるべき、という切り分けをしないといけないと思います」
山本「なるほど。例えば、海外に住む日本人が戦争に巻き込まれて、自衛隊が駆けつけ救護をして日本人の生命や財産を守らなければならない、みたいな事態は、現行法ではなかなか実施できません。相手国にも主権があるからです」
後藤「はい」
山本「憲法に直接関わらない自衛隊法や周辺事態法の改正のようなものも、SEALDsでは一律に反対なのでしょうか。先日も、イスラム国で拉致された日本人が2名殺害されたり、日本のプラントが攻撃されて日本人10名が亡くなったアルジェリア人質事件では、日本政府がなす術がなかったとおおいに批判をされました」
後藤「そのあたりの話は、山本さんとゆっくり酒を飲みながら議論したいところですが、SEALDsでは広く安保法案の問題だという立場でこれに反対し、廃案にするんだということで活動をしています。若い人たちに意識を持ってもらって、政治に関心を持ち、思うこと、感じることを論じることのできる開かれた民主主義であって欲しいと僕は思っています」
山本「そこですよ。私がSEALDsを見ていて夢があるなと思ったのは、いろいろと共産党系や活動家のグループも入り込んできていてむつかしく危うい状況も見られるけれども、そこに参画している若い人たちが、分からないなりに自分の考えを述べることのできる環境は大事にするべきだと思うんです」
後藤「えっ、僕は山本さんにそこを否定されるのかと思ってドキドキしていたんですが」
山本「えっ、それって民主主義の根幹じゃないですか。変な左翼活動家になってどうのこうのというリスクはあるけれども、どういう形であれ若い人たちが政治意識を持ち、どんどんモノをいい、考えを持って投票所にいき、自分たちの時代にはこういう問題が起きるかもしれない、どうしてくれるんだ、みたいなことを表明できる社会にするのが一番いいんじゃないかと」
後藤「そういう気持ちを持って参画しているSEALDsメンバーは多いと思いますよ」
山本「それは健全な民主主義だと思うんですよね。活動に身を投じて社会が混乱するのは良くないかもしれないけど、思う意見をしっかり述べる、分からないなりに考え、議論をして政治に参加することが大事だ、と」
後藤「山本さんの意見は良く分かりました。ありがとうございます」
山本「私も、貴殿の純粋な気持ちやなさりたいことが分かって良かったです。感謝します。また意見を聞かせてください」
後藤「よろしくお願いします」
(了)