無縫地帯

iPhoneも老成してケータイビジネスの曲がり角がやって来そうですね

「iPhone 6S」「iPhone 6S Plus」が発表されたものの、さすがにそこまでの盛り上がりではなくなり、携帯電話の行き渡った通信業界の飽和具合から次の一手の打ち出しにくさを論じます。

山本一郎です。肌がすっかり曲がっています。

ところで、Appleが新型iPhoneを発表しました。好むと好まざるとに関わらずスマホの基準を考える際、どうしてもiPhoneは無視できない存在でありますが、スマホという存在そのものがキャズムを越えて久しい今日この頃ということもあるのでしょう、さすがにIT情報を専門に扱うメディアはそれなりにスペースを割いていても、一般ニュースメディアでiPhoneの文字を見たり聞いたりする機会は随分と減った印象を覚えます。注目はされているのかもしれないけど、新鮮さはさすがに失われた感じでしょうか。

そうした状況の中で興味深かったのはキャリアの対応です。新しいiPhone 6s/6s Plusの発売日は、世界主要マーケットとなる12か国・地域において9月25日発売と決定。国内におけるAppleのWeb直販については、9月12日の午後4時01分から予約注文を受け付けると発表しました。これに合わせて国内各キャリアもAppleと同じ日時から予約受付を開始する流れとなりつつあったのですが、なぜかドコモだけは独自ルールとして「事前予約」という謎の施策を計画し、他キャリアよりも有利な展開を目論んでいたようです。

「いたようです」というのは、実際にはこのドコモの目論み、残念ながら実現することはかないませんでした。しかし、報道機関にはその証拠となるプレスリリースが事前に幅広くばらまかれていたようで、その内訳がしっかりと暴露されています。

ドコモの「iPhone 6s/6s Plus」は予約の事前登録、つまり「予約の予約」が可能(Gigazine 15/9/10)

本日未明に開催されたAppleのスペシャルイベント内で正式に発表された「iPhone 6s/6s Plus」について、NTTドコモは予約の方法を発表。なんと、iPhone 6s/6s Plusを速攻でゲットするには「予約の予約」が必要であることが明らかになりました。
(中略)
報道機関向けに出されたリリースには「なお、9月12日(土)午後4時1分から予約受付を開始としておりますが、それに先立ち、予約の事前登録を本日より開始いたします。予約の事前登録の開始時間に関しては別途、本日午前中を目途にご連絡いたします。」と、9月12日(土)の午後4時1分から始まる予約とともに「予約の事前登録」なるものが計画されています。

「予約の事前登録」という一見、「予約の予約」が必要とも思える手続きの詳細については、正式に発表され次第、追記予定です。Gigazine
流れとしては、このドコモの思惑を受けて大手量販店などが事前登録を一般ユーザー向けに告知するのですが、その後詳細発表を中止。結局ドコモから正式に予約の事前登録は実施しないことが発表されます。

予約の事前登録について(NTTドコモ 15/9/20)

iPhone 6s、iPhone 6s Plusについて、9月12日(土曜)午後4時1分からの予約受付に先立ち、予約の事前登録を本日より開始できるように進めておりましたが、弊社側の準備が整わなかったため、見送りさせていただくことになりました。NTTドコモ
ドコモ側で一体どのような「準備」が整わなかったのかは謎ですが、この件を朝日新聞は「他社より先に事実上の予約を受けようとしたが、かなわなかった」と報道しています。穿った見方をすれば、ドコモは本家AppleのWeb直販を出し抜いて集客しようとしたけれど、やはりAppleはそれを許してくれなかったということではないでしょうか。それにしても、Appleを相手によくそんなことを実行しようとしたなと感心することしきりです。これまでどの端末メーカーにも一切文句を言わせず好き放題をやってきたドコモならではということなのかもしれませんが、そうした同社の「常識」がもはや通用しなくなったという話でもありそうです。あるいは、ようやくドコモがなりふり構っていられない状況の果てに商魂に目覚めたという前向き話かも知れず、どちらにせよドコモには一ユーザーとして暖かい視線を送り続けたいと思います。

で、国内における携帯端末の販売にまつわる諸々の生殺与奪権はこれまでずっとキャリアがしっかりと握ってきたところで、iPhone登場によりそのパワーバランスがじわじわと崩れ去りつつあるわけですが、さらに米国ではAppleがキャリアのビジネスと拮抗するようなプランを打ち出し、その余波がじわじわと我が国にも押し寄せてきそうな気配です。

アップル、「iPhone 6S」「iPhone 6S Plus」を発表 ― 自社での分割購入プログラム提供も(WirelessWire News 15/9/10)

アップルは米国向けとして「Apple Upgrade Program」という新たな端末購入プログラムも発表している。同プログラムは「毎年新しいiPhoneに買い換えたい」というユーザー向けの施策で、内容はSIMロックなしの最新iPhoneを「AppleCare+」(アップルの補償制度)付きで毎月32ドル(6S Plusの場合は37ドル)から購入できるという一種の割賦販売の仕組み。またユーザーは支払い回数が12回を過ぎた後では新しい機種へのアップグレードも行えるという。WirelessWire News
「新iPhone端末は“サブスクリプション”になった」――西田宗千佳氏(ASCII.jp 15/9/11)

まずはアメリカからスタートするが、「準備ができれば世界で展開したい」と説明されている。
(中略)
iPhone Upgrade Programは、ソフトやサービスを「サブスクリプション」で契約するように、ハードウエアも「サブスクリプクション」化するものだ。しかも、契約先は携帯電話事業者ではなく「アップル」。通信事業者との力関係はすでに逆転しており、アップルは強気に出られる。ASCII.jp
まずはアメリカからという話ですが、すでにiPhoneをどう売るか決めるのは日本国内でもAppleに拠るところが大きく、同様な施策がいつ突然発表されても不思議ではない状況。こうした背景もあってか、KDDIは早速新しいユーザー囲い込み施策を発表しました。

最新機種への買い替えをサポート! 12ヵ月ご利用で買い替え可能な「スーパーアップグレードキャンペーン」開始(KDDI 15/9/11)

2015年9月18日より、12ヵ月間のご利用で最新機種に機種変更が可能となる「スーパーアップグレードキャンペーン」を実施します。KDDI
このキャンペーン、毎度のキャリアによる独特な分かりにくい言い回しを多用しており、実際のところ本当に何が得になるのか不明なものですが、強調されているのは1年ごとに最新機種に機種変更したいユーザーを応援するというところで、まさに今回Appleが米国向けに発表したプランを連想させてユーザーの心を掴もうという思惑が見え見えであります。それにしても「実質無料」のような謎の日本語はそろそろ広告では使用禁止にしてほしいところです。

良くも悪くもiPhoneがスマホ市場を支配し、そしてiPhone市場自体が老成したと言えそうな状況。さらには全キャリアにおいて新型iPhoneはSIMロック解除が前提となり、今後はMVNOもより積極的な営業を仕掛けてくるでしょう。新型iPhone発売以降のスマホ市場売上推移も見てみなければ分からない部分はたくさんありますが、ケータイビジネス全体が大きな曲がり角に差し掛かったのは間違いないと感じる今日この頃です。

一方、東洋経済ではソフトバンクの有利子負債が11兆円という見出しの割には内容が絶妙な腰砕け具合の良記事が、またブルームバーグではソフトバンクが含み益を自由に使いたいからという理由で非上場化を検討していたというニュースが入ってきています。

ソフトバンク、膨らむ借金「11.6兆円」の重圧(東洋経済 15/9/13)
http://toyokeizai.net/articles/-/83202
孫氏、ソフトバンク非上場化を一時検討、条件合わず断念-関係者 (2)(Bloomberg 15/9/11)
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NUHQX96S972B01.html

このあたりのニュースを見ていると、盛大に借金して日米携帯電話事業に夢を描き突撃していったものの、米中対立や米通信行政の方針を読み違えて一敗地にまみれ、にっちもさっちもいかなくなっているソフトバンクの素敵な現状が垣間見えて心が暖まります。技術革新があって、規模の経済が発揮できれば、飽和から衰退に向かう産業分野でも頑張れるんじゃないかとちょっと期待したんですけど、まあ無理だったんですかね。

本件に関してはいろいろいいたいことはあるんだけど、ソフトバンクが大株主のヤフージャパンのサービスで書くことじゃねえな(自制)。