
オリンピックエンブレムのデザインに剽窃は無かったであろうと判断するに十分足る論考を読んで
騒ぎがなかなか収まらない佐野研二郎さんのオリンピックのエンブレムデザインに関して、これ単体で見る場合は剽窃ではないだろうという有力な意見と、業界を取り巻く環境について論じた生地を紹介したいと思います。
山本一郎です。剽窃でも構いませんので、ご長男を儲けられましたら是非「一郎」というシンプルで力強い名前を命名されますと波乱万丈な人生をお約束できます。
ところで、ネット民のみならずテレビのワイドショーや週刊誌の類まで巻き込んで日本国民の多くを惹き付けて止むことのないオリンピックエンブレム問題でありますが、ここに来てUIデザイナーの深津貴之さんによる冷静な論考が公開され、五輪エンブレムのデザインで何が問題であったのかその疑問が一つ解消されるのではないかと感じています。
よくわかる、なぜ「五輪とリエージュのロゴは似てない」と考えるデザイナーが多いのか?(Yahoo!ニュース個人 15/9/7)
なぜデザイナーと世間において、これほど大きな認識の違いが生まれたのでしょうか?本稿では、デザイナーと世間の間にある「類似性のギャップ」に関しできる限りわかりやすく説明します。最大公約数的な意見としては、このような感じではないかと思います。Yahoo!ニュース個人結論としては、五輪エンブレムそのものについては、そこに他作品等からの剽窃は無かったと解釈するのが妥当であろうということですが、なぜそうした結論に至るのかについてはここで乱暴に要約することは避けたく、是非とも上記にリンクしたやや長文ではありますが優れた記事を皆さんがそれぞれ丁寧に読んでみることをおすすめします。
深津さんご自身はデザイナーとして数々のお仕事をされてきた方であり、その人となりは以下のインタビューなどが参考となります。
エンジニアの生存戦略第2回深津貴之―アプリ開発者からその先へ(gihyo.jp 14/10/14)
五輪エンブレムの論考を読んで興味深く感じたのは、ほぼ全編が論理的な筆致で進められた中、最後のまとめにおいてデザイナーという仕事に従事する個人的な立場からの意見が記されていたところです。
本来は専門性の高い意思決定は、信任によりプロへ権限委託されるべきものです。しかしながら、日本においてはデザイナーの地位が低い上に、選出過程が不透明だったり、選考理由の説明が適切にされなかった点…などが重なり、国民の納得を得ることができず権限委託に失敗しました。そして盗用騒動(あくまで盗作ではなく盗用です)によって、基盤となる「プロへの信用」が破壊されてしまった…というのが、現状の認識かと思います。Yahoo!ニュース個人かなりあっさりと書かれていますが、デザイナーという職業が日本においてはプロとして権限を依託されていない現実が痛烈に批判されていると読めました。この指摘をどうとらえるかは各人各様でしょうが、プロとして仕上げたデザインをクライアントの無知な要求から大幅に劣化させるといったシチュエーションは容易に想像できますし、今回の事件はその最も極端な事例であったとも言えそうです。
一方で、デザイナー側がクライアント(今回のオリンピックエンブレムの場合は日本国民でしょうか)に対して適切な説明をできなかったことが信用を失う結果につながったという話も頷けるところでして、こうしたおざなりな対処の数々が結果的に感情的な軋轢を強める方向にしか作用せず大きな炎上へ繋がってしまったということでもありました。
そうした諸々の側面を考えると、事件の渦中にある佐野さん本人が事態の説明をほとんど拒否する形になってしまっているのは得策なのだろうかと疑問に感じる部分もあります。まあ、今彼が置かれた立場からすれば会見をしても叩かれるだけで無駄だという読みもあるのでしょうが。
佐野氏代理人通じ報道機関に申し入れも会見「ない」(東スポWeb 15/9/6)
オリンピックのエンブレムデザインが採用されなければ、他の仕事における盗用疑惑は発覚しなかったのかもしれませんが、残念ながらすでに事は起きてしまっています。この点についてはプロとしてしっかりと説明していただきたいものだなと感じるところです。
何というか、本人が直々に「ない」と宣言した剽窃が、問題となったオリンピックのエンブレムデザイン以外に見つかったことで、佐野さんの発言への信頼が失墜する原因となったばかりでなく、一時期は(私も多少同情的でしたが)佐野さんを擁護していた人たちの一斉手の平返しというビッグウェーブを作り上げてしまった間の悪さもあります。
常識的に考えて、小保方さん問題でも明らかなように、剽窃ひとつで致命的な世界が数多ある中で、シンプルなデザインが他と類似しやすい状況でビジネスをされるのは大変なのかもしれませんけれども、この落としどころの無さ、救いの無さというのはちょっと異常です。さすがにそろそろどうにかならないんだろうかと思うようになってきました。
そんじゃーね。