
佐野研二郎さんのエンブレム問題の先にあるもの
東京五輪エンブレムで、ついに使用中止にまで発展してしまった佐野研二郎さんのパクリ問題、ネット時代らしい検証方法が問題の露顕に拍車をかける一方、このまま佐野さん一人に責任をおしつけていいのでしょうか。
山本一郎です。ひじが痛いです。
ところで、2020年に向けて華々しくオリンピックの準備が進むのかと思いきや、色々と前途多難を思わせるような話ばかりが露呈してきております。東京五輪組織委員会もネガティブな方向で話題が豊富になっても何もいいことはありませんから、ここはしっかりと事態を整理していただきたいと思う次第ですが、今日になって、エンブレムの利用を中止するという発表まで出てしまいました。大丈夫なのでしょうか。
「国民の理解得られない」…新エンブレム公募へ(読売新聞 15/9/1)
スポンサー企業は困惑=使用中止手遅れの例も―五輪エンブレム(時事通信 15/9/1)
混乱も困惑もさまざまといった趣ですが、各位心を強く持って前向きに生きていっていただければと願う次第であります。
それにしても、今回の五輪エンブレムを巡る騒動は、ネットにおいて騒ぎとなった歴代の著作権絡みのいざこざをまるで総括するかのような派手な事態となっておりますね。丁度スマホがほぼ全国的に普及して、老若男女問わず多くの人々がSNSなどを使って流言を弄ぶのにも慣れたタイミングでの出来事だけに、騒動の渦中に巻き込まれてしまった皆さんは本当についてなかったといえそうです。
また、このような事態が起きてしまった背景には、ネット検索における画像対応の力がここ数年で格段に進歩したことも大いに関係しているのは間違いありません。Googleが無ければこんな騒ぎは起こりようがなかったのにと恨めしく思っている関係者の方も少なくないのかもしれません。
さらには、メディアが恥ずかしくもなくネットの話題をそのまま、さも自分達が取材して見つけたと言わんばかりに平気で報道するようになってしまったのも、今回の事件では悪い方に影響したのではないでしょうか。
その辺りの諸々の社会的な事情が相互に作用・影響しあって、この件は本当に大きな話題になってしまいました。あっという間に掘り尽くされ、可燃性のところはたちどころに燃え上がり、まさに人呼んで『ファイヤーエンブレム』という仇名もぴったりの情勢であります。
次々とネット民によって発掘されるネタの応酬には、さすがの組織委もそろそろ何か抜本的な対応を考えないといけないのかもしれませんが、昨日出たニュースから今日の使用中止の内容まで、文字通り急転直下という流れです。
【五輪エンブレム問題】展示例の写真、無断転用?佐野氏側が制作(産経新聞 15/8/31)
2020年東京五輪のエンブレムがベルギーの劇場ロゴと似ていると指摘されている問題で、エンブレムの展示例の画像に使われている写真が、インターネット上の個人サイトなどから無断転用された疑いがあることが30日、分かった。大会組織委員会は産経新聞の取材に、作者の佐野研二郎氏側が画像を制作したことを認め、「事実関係などを確認する」としている。さらに、プレゼン資料では他にも色々と他人の素材が無断でそのまま流用されていたようです。さすがにここまでやると話にならないよなあ…というところで。
(中略)
組織委の高谷正哲戦略広報課長は「展示例の原案は佐野氏がコンペの応募段階で提出した。無断転用であれば著作権の問題が生じると考えており、31日以降に佐野氏本人から事実関係を確認したい」としている。産経新聞
東京五輪エンブレムの展示例ブログの画像を無断転用か(ねとらぼ 15/8/31)
2020年東京五輪のエンブレムに関して、展示例に使われた写真が無断転用された疑いが持たれている。8月30日にはイギリス出身の技術者・デイヴィッドさんが、自身の写真が用いられているとサイトで報告。使用について特に連絡はなかったという。写真を流用されたご本人もこれで話題になるならそれもおもしろかろうといった空気もあり、ここはお互い上手に和解することでそれぞれの利とするのが良いのかと思います。
(中略)
ディヴィッドさんは「私の写真がこんな風に使われるのはクールだが、少なくとも聞いてくれればよかったのに」とコメントしている。ねとらぼ
なお、本件については知財権利関係に詳しい弁理士の栗原さんもコメントされていますが、まさにその辺りが謎でもあります。
五輪エンブレムの組織内検討資料に他人の写真を使うのはどうなのか(追記あり)(Yahoo!ニュース個人 15/8/29)
大手デザイン事務所はストックフォト提供企業とコーポレート契約を結んでいるものかと思っていましたが、そういうわけでもないのでしょうか?たとえば、ストックフォト大手のアフロのサイトを検索してみると、この展開例の素材として使えそうな空港の写真はいくつかあります。よほど経費をけちりたいのか、それとも、著作権に関する基本知識を欠いているということなんでしょうか?Yahoo!ニュース個人さすがに、五輪のような国を挙げてのイベント絡みであれば、普段のやっつけ広告仕事と同じような手抜きをしてしまったのはあまりよろしくなかったというか、こうしたカンプを出されてすっかり騙されたような形になってしまった組織委としては内心面白からぬところでしょうが、そこはそれ、大人な対応として気付かないふりをしてこのままやり過ごすのかもしれないですね。
話がここまで広がると、いわゆる広告代理店系のみならずデザイン業界全体がどういうパクりパクられ構造になっているのかという話になってまいります。文字通り、姉歯事件で耐震偽装を指摘して見たら、かなり多数の構造計算上の問題が浮かび上がり、さらには中古物件で耐震性能の不足が次々と明らかになって、しめやかに幕引きをするような事例もあったわけです。
「本来は問題なんだけど、もはや業界標準になってしまっている界隈の悪い慣習」みたいなものの陥穽に嵌っている可能性があるのであれば佐野さん単体の問題ではなくなりますし、そもそも論としてどうしてそういうコンペが通ってしまっていたのか、誰もそれに気づけなかったのかという話に発展するのは当然です。
すなわち、お手盛りでやらかした佐野さんは問題だったよねというのは間違いないまでも、それがまかり通ってきた我が国のシステムの問題を置き去りにして、トカゲの尻尾きりのような形で佐野さんのやらかしに責任を押し付けエンブレムを撤回して済ませる、というのも違うだろうという話で。
もはやスキャンダルの年度代表馬最右翼のような状態になってしまった佐野さんに、私たちはどんな言葉をかけてあげればよいのか…実に悩ましい気持ちを抱きつつ、夏の終わりらしからぬ冷たい雨に打たれて今日も東京を彷徨っております。