無縫地帯

不倫サイトのクラッキング事件で考えるネットサービスの信頼性みたいなもの

世界的規模で会員を集めていた不倫専門ウェブサイト「アシュレイ・マディソン」がハッキングされて利用客の個人情報が流出した件で、大規模訴訟に見舞われるトラブルに発展して騒動が広がっております。

山本一郎です。私個人の価値観ですが、不倫はとても嫌いです。少なくとも自分は人生をかけて絶対に不実な行為をしないことは神に誓います。結婚のとき、神に宣言をして、夫婦になったのです。相手がどうであるか、環境はどうかは関係ありません。私は私の人生が続く限り、妻を愛し、家族を守る使命があると考えるほうです。また、身の回りで不倫があって揉めている人々があるときは、どうしても関係が疎遠になります。私の価値観を押し付けるつもりはありませんが、人々は己の背徳から立ち直るため、原罪を負って苦しい日々を一歩一歩前に往くのだと思っております。

で、登場当時からネタ感満載で話題だった不倫サイトの「アシュレイ・マディソン」がクラッキング被害に遭い、その結果、3000万人を上回ると言われる登録会員ユーザーの個人情報の多くがネット上にダダ漏れとなる事件が起きております。

会員の個人情報がダダ漏れした不倫・浮気サイト、前回の2倍のデータが公開されるという事態に(Gigazine 15/8/21)

世界最大級の不倫・浮気SNS「Ashley Madison(アシュリー・マディソン)」がハッキングされて約3700万人分もの個人情報が流出し、クレジットカード情報や個人の性的嗜好などの情報がインターネットで公開されるという事件が世間を賑わせていますが、ハッカーグループが取得したデータの「第2弾」とみられる巨大なtorrentファイルを公開したことが判明しました。Gigazine
海外では情報流出が原因で自殺者も出ているという痛ましい話も出ております。

不倫サイト情報流出で2人自殺か カナダ警察(AFP 15/8/25)

利用者の電子メールアドレスや登録情報がインターネット上に公開されたことにより、恐喝や、流出データへのアクセスやネット上からの削除をうたう詐欺など、「二次的な」犯罪が生まれているという。
(中略)
ハッキングにより流出し公表されたデータはネット上ですでに広く拡散しており、「もはや情報の消去は誰にもできないだろう」としている。AFP
いやはやなんとも酷い展開です。しかし、このアシュレイ・マディソン、今年の5月には東洋経済でも注目のネットビジネスとして大々的に取り上げるほどに絶好調なイケイケぶりでした。

「不倫ビジネス」が成功?世界最大サイトの謎(東洋経済 15//5/4)

現在は46カ国に展開していて、24の言語で提供されている。2014年末の会員数は3400万人と、前年比35%伸びた。4秒に1人加入している計算で、ネットワーキングサイトの中ではトップクラスだ。
(中略)
従来のサービスは独身者が対象だが、だいたいの国の人口における独身者の比率は10~20%に過ぎない。対して、アシュレイ・マディソンはその逆、80~90%の人たちを対象としているのでパイが大きい。東洋経済
インタビューに答える同社国際事業ディレクターのクレイマー氏はこの世の春という感じで楽しそうです。まさか、その数カ月後にこんな事態が起きるとは夢にも思っていなかったことでしょう。すでにカナダでは会員ユーザーによる大規模な集団訴訟も起きており、いやはや人生一寸先は何が起きるか分からないものです。

Ashley Madison: 個人データ漏えいで5億7800万ドルの損害賠償請求の集団訴訟(BusinessNewsline 15/8/24)

出会い系サイト「Ashley Madison(アシュレイ・マディソン)」の個人情報3900万件が外部の攻撃を受けて漏えいした問題に関連して、カナダでAshley Madisonの運営元企業に対して5億7800ドルの賠償金の支払いを求める集団訴訟が起こされたことが23日、Timeの報道により明らかとなった。BusinessNewsline
それはそうなるのも仕方のないことでしょう。

で、会員ユーザーがアシュレイ・マディソン側を訴えるのは当然として、その登録ユーザーも社会的な制裁を受ける可能性が色々と出てきているようです。

米郵政公社、不倫サイトに公務メール使った職員の有無を内部調査(ロイター 15/8/21)

不倫相手探しサイト「アシュレイ・マディソン」がハッカー攻撃を受けた事件に関連し、米郵政公社(USPS)は、職務規定に違反し、公務メールを使って同サイトにアクセスした職員がいないかどうか内部調査する考えを示した。
(中略)
USPSの内部調査を行う監察当局によると、職員は公務メールを私的に使うことを厳しく制限されており、任務の遂行を妨げることや倫理基準に反することは禁じられている。ロイター
ああ、これはやってしまいましたね。要は職場のPCからエロサイトを閲覧していたのがばれたのと同じような感じでしょうか。他にも流出したメールアカウントをそのまま信用するのであれば、かなり地位のある立場の方々が登録していたという話も出ています。

不倫個人情報大流出Ashley Madisonのハッキング被害(クラウドWatch 15/8/24)

米国や英国の政府職員、欧米の大手企業の幹部、ハーバード大学やイェール大学などアイビーリーグのメールアドレスもあり、Washington Postは、米軍のメールアドレス「army.mil」は6788件、海軍「navy.mil」は1665件などと詳細を報じている。クラウドWatch
で、なかなか恐ろしいのが、そうした登録会員のメールアドレスが必ずしも本人が登録したとは限らない状況であり、「無料アカウントについては本物かどうかの確認を行うプロセスがなく、なりすましで他人のメールアドレスを登録することも可能」だったそうです。これはもしかしてUSPSでは冤罪で処分を受けてしまう人が出てしまう可能性もあるということでしょうか。誰かがいたずらで登録してそのまま身に覚えの無い罪に陥れられたりすると浮かばれませんね。

さて、今回の件でもっとも注目されるのは、アシュリー・マディソン側が有料サービスとして登録したデータの抹消を有料で請け負っておきながら実際には削除しないままデータを保持し続けていたという話でありまして、これが事実だとするとかなり不気味です。もしかして、いつの日かこうした不倫サービスに登録された個人データを別の何かに使い回そうとしていた可能性があったりするのでしょうか。今となってはよく分かりませんが、こういうサービスを信用して何でもかんでも個人情報を相手に渡してしまうのは危険過ぎる行為であるのは間違いありません。

しかし、よく考えてみれば、たとえばSNSを利用して極秘のやり取りをしていれば、そのコミュニケーションの全てはSNS運営側には筒抜けである可能性は否定できず、いつの日かそのログが誰かに利用されてしまう可能性が100パーセント無いとは言えないわけです。ユーザーはネットサービスを一体どこまで信用できるのかという問題に突き当たってしまうのですが、同時にサービサー側からすればどこまでユーザーの個人情報保護対策を強化しなければならないのかという問題でもあります。サービスに関わるほとんど全員がお互いに善意で行動していても、誰か一人が悪意を持っていれば、バランスはあっと言う間に崩れサービスの信頼性は破綻してしまう。なかなかにむつかしいものがあります。

アシュレイ・マディソンは日本でも180万人の会員がいたと言われておりまして、なにがしかの思惑で登録してしまった皆さんはどうしておられるのでしょうか。東洋経済であんな風に記事になっていると信用してしまった人もいたかもしれないですね。さすがにあれはネイティブ広告ではなかったと思いますが、やはり人の背徳を促し手助けするサービスについては、たとえビジネス的な成功がちらついていたとしても前面に出すべきではないとも感じるところであります。

先日も、我が国のわいせつ物陳列の話でFC2経営者が国際指名手配という話がニュースになっておりましたが、銭形みたいな人が追いかけたりするんでしょうか。

FC2創業者に逮捕状、指名手配…わいせつ動画を公開の疑い京都府警などの合同捜査本部(産経新聞 15/8/20)



一連の事案は興味を持って見守ってまいりたいと思います。