無縫地帯

上杉隆に乞われ、自由報道協会「会長」に就任した苫米地英人さんに事実関係を伺ってきたでござるの巻

6月に公益社団法人「自由報道協会」の”会長”という謎の役職に就任された苫米地英人さん。周囲の取材から上杉隆からの就任要請に応じたものとみられましたが、真実は何なのか。お話を伺ってきました。

山本一郎です。平素は大変お世話になっております。

先日、どこからともなく自由報道協会の会長に就任したという苫米地英人さんの話題がネットを駆け巡りましたが、公益社団法人であるにもかかわらず”会長”というイマイチ謎な役職であることも含めて憶測を呼んだ本件。過去に関わった人だけでなく、現在進行形でさまざまな濃い面々の交錯する本件について、私のメルマガ『人間迷路』で取材した一部をとりまとめヤフーニュース個人に掲載したいと思います。また、後日当団体有力理事OBからもお話を聞いておりまして、これも併せてヤフーニュースに(気が向いたら)掲載いたします。なお、苫米地さんへの取材日時は7月31日現在です。

山本どうも長らくご無沙汰しております。ご活躍はかねてから拝見しております。

苫米地久しぶりなんだけど、あんまりそういう感じもしないね(笑)。

山本ありがとうございます。さっそくなんですが、今日お伺いしたかったのは、苫米地さんが自由報道協会の会長になられたということで。

苫米地うん。

山本いままで、色々な方がそこに関わってきて、ずっとやってらっしゃる方もいれば、主義主張や組織のあり方、方針その他のところで相容れず離れた方もいる。自由報道協会はその理念も崇高で必要なものですし、面白い活動もやられているので、凄く興味を抱いていました。

苫米地俺もそういう組織があって、彼らが社会にとって何か重要なことをやろうとしているみたいだとは認識していました。

山本そうですね。ただ色々ないきさつがあったようにも見えましたし、公益法人になったにもかかわらず、組織活動の内容について情報開示も少なく、何より財政的に大丈夫なのかなあと。一方で色々な人が関わっている中でやっていくにあたって、苫米地さんは協会への関わり方をどうお考えなのかなと。そのあたりを是非伺いたいなと思いまして。

苫米地まず、俺は自由報道協会について、いうほど知らないんです。山本さんに教えてほしいくらい(笑)。もちろん名前は知っていたよ。あとは民主党が政権を持っていた頃、記者クラブ開放をうたって、ドワンゴとニコ生などで一緒にやっていたぐらいしか知らない。だから本当に第三者だった。そこに、上杉隆くんから「そろそろ公益社団法人である自由報道協会の経営から離れたい」という話をもちかけられたんです。

山本そうだったんですか。もともと上杉さんとはお親しかったんですか?

苫米地全然。

山本えっ?

苫米地上杉隆の名前は知っていたけど、会ったのはその時が初対面だから。

山本そうなんですか? 上杉さん、周辺には苫米地さんとずいぶん親しいってお話を……。

苫米でも一回会っただけで、だいぶ仲良くなったよ。

山本なるほど……そういう感じなんですか?

苫米地もともとは古賀茂明さんを俺に紹介したいという人がいて、古賀さんと会食することになったの。なんだかんだあって、古賀さんがテレビを降ろされたって話を聞いてほしいと。俺は、あのとき安倍政権が『報道ステーション』だけでなくほうぼうプレッシャーかけているのを知ってるからね。ただ、菅官房長官が、たかが番組で政権を酷評されたからって、そんなストレートに「あいつを降ろせ」と言うわけないよね。

山本当然です。名指しで降ろすようなことはリスクありますからね。古賀さんが番組を降りた理由はコメンテーターの定期的な入れ替えが理由だったと聞かされていますし、古賀さんに事実と異なった説明をテレビで国民にされるのは問題だ、ぐらいの話が自民党からあっただけだとテレビ朝日側も説明していますね。

苫米地だから古賀さんの言っていることは、本当はどうなのか分かっていないけど、現象だけ見れば酷い話だともいえるので、俺も周囲も凄く古賀さんに同情的だった。その時、知り合いで古賀さんととても親しい人がいて、食事会をセッティングしてくれて、そこに上杉くん同席したのがはじまり。

山本もともとは、苫米地さんに古賀さんを紹介する席が、上杉さんとの接点だったということですね。

苫米地そう。古賀さんがいる席だから、自由報道協会の具体的な話はあまりしなかった。そこで出た話としては、協会を立ち上げた上杉くんがなんとなく経営から離れたいという内容で、経営面で俺に面倒を見てくれたら嬉しいと。俺はそのときもの凄く単純に、ジャーナリズムに携わる組織だったら、経営と活動現場が分離するのは当たり前だよね、という話をしました。

山本はい、それはそうですね。上杉さんが協会の活動現場も見るし、団体の経営もするとなると、非常に大変でしょうから。

苫米地自由報道協会は財政的にも厳しいようで、今も毎月マイナスが出ていて、立て直しが必要という感じだった。それなら、俺は経営には自信があるから、色々と協会の経営を成り立たせるためのノウハウをアドバイスをしてもいいよ、と。すると、上杉くんからは協会の事務局の運営を俺に任せたいという話が出たんです。それが、俺が自由報道協会にかかわることになったきっかけ。5月頭のことだったんじゃないかな。

山本でも、現段階ではまだ代表理事でもない、“会長”という謎のポジションですね。

苫米地うん。経営を任せてもらうんだから、運営の実権を握る必要があるけど、俺はまだ理事でもない。代表理事に就任するにしても、改選時期の問題や他の理事の理解を得るための時間が必要とか色々あるようで、まずは会長という職を上杉くんが用意してくれたんだけど、今は名誉職みたいなもの。そもそも俺は、代表理事の大貫康雄さんしか紹介してもらってなくて、今も他の理事にお会いしたことがないんです。

山本大貫さんとはお話しされてるんですよね?彼は、苫米地さんが協会の経営を見るということに賛成なんですか?

苫米地そうだと思う。上杉くんは“苫米地に協会の経営の面倒みてもらうにあたって、大貫さん、あなたが苫米地という人物を評価してくれ”みたいな感じで、大貫さんを連れてきたんじゃないかな。俺が見られる側。

山本なるほど、ある種のフィーリングカップルみたいな。大貫さんってどちらかというと気鋭のジャーナリストというよりは、非常にほわーんとした方で、人当りも良いし、裏表の無い方ですよね。

苫米地うん。その時に結局、「会長っていうポジションをお願いします」ってことで、大貫さんも俺に任せたいという感じだった。俺は財団法人もたくさん経営しているからね。言葉は悪いけど、上杉くんは経理の素人というか、経営の仕方を詳しくは知らないんだよ。だからそれはちゃんとBSやPL(山本註:貸借対照表と損益計算書といった、会社の経理、財務を把握するために必要とされる基礎的な財務諸表)を見て、健全な経営になるよう俺が介入してあげないと公益社団法人格を取り消しされちゃうだろうなと想像した。上杉くんもそう感じていたようで、俺に任せることで協会が維持、立て直しできるなら、経営をお任せしますという感じだった。ただ、公益社団法人は会社みたいに売買できるもんじゃないでしょう。

山本ないですね。シェアホルダーという概念はありませんし。

苫米地だから、俺の感覚としては、何月何日付けを持って俺が経営の全部を面倒見てもいい。そのためには、まずは事務局の運営をすべて俺の管理下に置く必要があるという話をしてるんです。それで今、うちのスタッフを事務局に通わせて、引き継ぎをしているところ。ただ、引き継ぎ以前の経営に対しては、上杉くんなり、それまでの理事が責任を取らないといけない。そこがいま、上杉くんとの間で認識に齟齬が生じているところで、もう一度、直接話をしないといけないと思っている。彼は、これまでの協会の負債なども俺に引き受けてほしいんだろうけど。

山本それまでの債権債務に関して、苫米地さんは背負わないよ、肩代わりしたり、代位弁済したりするようなお金は出さないよ、ということですね。

苫米地それは、俺が社団法人の経営するべきポジション、たとえば代表理事になって、資金の出入りや、活動の指揮が取れることが確定して、自分の責任で経営することができるようになったら、その日から発生する債権債務は全部引き受ける。活動資金も全部その日から俺が面倒をみます。責任を取るとはそういうこと。俺はそう上杉くんに言い続けてきた。もしも赤字が毎月500万円だったら、俺に引き継ぐのが早ければ早いほうが協会の赤字も減っていくわけだから、そうしようって。仮に半年早く俺に引き継いでもらったら、将来のマイナス分で見れば、3000万円は浮くわけだよ。いままでは、上杉くんが自由報道協会のために自分のお金を相当つぎ込んでいるのかもしれないけど、現実には上杉くんの会社と協会との間であまりに大きな貸し借りがあったら、公益認定も危なくなるしね。

山本上杉さんは自由報道協会に1億円以上お金を突っ込んだと周囲に言っていますね。

苫米地今、うちの会計士にまかせて協会のデューデリ(山本註:デューデリジェンス。収益性や法的なリスクなどを総合的かつ詳細に調査して、対象法人の資産価値を適正に評価する手続き)をしてもらっている段階なので具体的な金額はわからないけど、公開されている財務書類を山本さんも見ているでしょう?

山本はい、拝見しています。なんと直前期の資料が公開されてないんですが、その前の期だと300万円程度が上杉さんからの短期借入金として計上されているだけですね。

[[image:image01|left|思うところを含みのたっぷりある表現で語る苫米地さん。そうですか。]]

苫米地一般論だけど、公益社団法人として理事からの借り入れがあるのは健全ではないから、1日でも早く解消したいというのは分かる。理事や事務局の個人との間の金銭の貸し借りが帳簿に載っていたら大変だし、そうでないところで金銭の授受があったら、「簿外」だよ。なによりも透明性が求められる公益社団法人の運営において、それはもっとまずいでしょう。

山本実際そういうことですよね。ただ、上杉さんとしては、その簿外を認識している節があります。お金だけではなく、自身の経営する会社のスタッフや事務所を、自由報道協会事務局のそれに当ててるため、帳簿上は費用が発生してませんが、事実上は立て替えている形になっているということではないでしょうか。だからといって、そのお金まで苫米地さんが肩代わりするとなると、大変なことになる。すでに財団をいくつも経営しておられる苫米地さんは、その辺はご存知でしょうから、たぶんそうはされないんだろうなと私は思っているのですが。

苫米地上杉くんが公益社団法人と自分の財布をグレーにしちゃって、彼個人や自身が経営する会社のお金とか人員とかのやりとりが協会との間にあって、それが協会に対する債権という認識があって……というのは可能性としてはあるわけだけど、それがもしファクトとして出てきたら、アウトなわけだし。

山本もし自由報道協会にお金を苫米地さんが入れて、それを上杉さんへの返済に回したら、苫米地さんが共犯になっちゃう。

苫米地うん、完全にクロ。その逆のシロいやり方を俺はやりたいわけだから。健全にね。公益社団法人をクリーンな組織として引き継ぐことで、その後の公益性や社団法人格に疑いをもたれないような綺麗なBSとPLにする。そしてきちんと事業収入のある団体にして、意義のある活動をし、寄付を集めて、経営できるようにする。俺はそれを実現する自信があるんですよ。すぐにでもできることでいえば、これまでは記者会見を開く度に赤字が増えていったようだけど、その会見も価値が高いものだけに絞るとか、ジャーナリストを講師にして協会主催のセミナーを開催するとか、フリージャーナリストに海外の会見でも通用するという協会のプレスパスを条件付きで有料発行するとか。公益性を考えながら、運営維持に必要な売り上げを立てていく。凄く単純なこと。

山本団体として、できることをまじめにやるってことですね。

苫米地そう。債務超過にならないようにして、あとは定款の目的通りのことをやって、定期的にその管轄官庁と話ができたらいいだけの話。堂々とやっていることを説明すればいい。それをやる自信はあるわけ。それまでの債権債務は関係ない。ただし、帳簿に乗っちゃっている債務は代表理事などになってその権限ができたら、まずは理事個人や事務局スタッフとは関係のない債務であることを確認します。さらにその時点で、顧問弁護士や会計士、税理士などの外注先に未払い金があれば、きちんと彼らのもとに話に行くよ。今後、自由報道協会の事業収入や寄付金との兼ね合いの中で分割して精算できるようすると。

山本なるほど。事業の収益の範囲内で、ちょっとずつお返ししますってことですね。

苫米地だから簿外があったとしても、その弁済に乗ることはできない。上杉くんは協会の活動や取材活動に一生懸命で、悪気がなく会計的にやってはいけないことをしている可能性はあるからね。良いこととグレーゾーンの境が分かってないだけかもしれない。でも、俺は気にしてないんだよ。過去に興味はない。未来を価値あるものにすればいい。ある日から先、俺が協会の面倒を見るだけで、その日までは誰とどんな貸し借りがあろうが、帳簿に載っていないものや、利害関係者の間での貸し借りがあろうが、俺は知らないから。いずれにせよ、上杉くんには、素晴らしい社会性を持った公益社団法人の創業者としての偉業が残るってこと。その大事な協会を維持するために責任もってやってあげるということしか、俺は考えていないんです。

山本何と言うか、苫米地さんが凄まじい勢いで火中の栗でも拾いにいったのかと思っていましたが、そのあたりはしっかりお考えだったと言うのはお話を伺って納得できました。

苫米地そらそうよ。

山本お、おう……。

(構成/神田桂一)

そのほかにも、いろいろと苫米地さんの近況や今後されたいこともぼちぼち聞いてきましたが、ともあれお元気そうで何よりでした。早いところ、自由報道協会の実権を掌握する過程でいろんなものが出てきて苫米地英人無双でもプレイされる日が来るといいなと期待を込めてヲチしておりますので、引き続きよろしくお願い申し上げます。