無縫地帯

Windows 10登場で国内ネットバンキングが色々と大変そうです

7月29日、Windows10のアップグレードが始まりましたが、ネットバンキングサービスを提供している銀行各行で混乱も見られ、まあ分かるんだけどそろそろどうにかならないものなのでしょうか。

山本一郎です。暑さとゲリラ豪雨で大変な日々ですが、皆さん如何お過ごしでしょうか。

ところで、7月29日となり、いよいよWindows 10の正式なアップグレード提供が開始されました。IT系ニュースサイトの多くがこのネタで盛り上がっているようです。

Windows 10の時代が始まる―間違いなく過去最高のWindows(Techcrunch 15/7/29)

この記事のタイトルは大げさと思った読者もいかもしれない。しかしそうではない。Windows 10はOSの機能として新しいだけなく、その配布手法もこれまでと全く異なる。今日以降、Windowsは新しい時代に入る。Techcrunch
お、おう…。

おそらく今頃ギークな方々は勇猛果敢にアップグレードへ挑んでいるのかもしれませんが、新しいOSというのは予期せぬ不具合などもあるのが常です。まずはそうした人柱の皆さんの悲喜交々たる報告が一通り出揃うまでは様子見するのが、一般ユーザーの正しいあり方だとは思います。

で、今回のWindows 10については既に銀行方面などからアップグレードを踏みとどまるようにといった警告が出ております。

一部銀行、Windows 10へのアップグレード「控えて」(ITmedia 15/7/29)

まあ、オンラインバンキングサービスについては、それでなくてもフィッシングや乗っ取りといったセキュリティ面での不安も常に抱えていますから、どうしても新しいOSへの対応については慎重にならざるを得ないといった事情があるのでしょう。

それにしても、国内銀行の多くがネットバンキングシステムでIEをデフォルトブラウザとして運用してきたツケがここに来て相当大きな痛手となりそうな気配濃厚であります。たとえば、十八銀行の事例を以下に見てみましょう。

<18>ダイレクトおよび<18>ビジネスWEBをご利用のお客さまへ~Windows 10の動作確認予定等について~(十八銀行 15/7/6)

Microsoft社の次期OS「Windows 10」が、平成27年7月29日にリリース予定となっておりますが、現在、「Windows 10」環境での<18>ダイレクトおよび<18>ビジネスWEBの動作について確認中であり、利用可能予定日は平成27年9月7日となっております。
(中略)
「Windows 10」には、標準ブラウザソフトとして「Microsoft Edge」が新たに搭載されますが、<18>ダイレクトおよび<18>ビジネスWEBの動作に問題があることから、当面の間、ご利用できません。十八銀行
うーん、これだとサービスとして使い物にならない気もします。大丈夫なのでしょうか。

Microsoftが新たにWindows 10で導入する新ブラウザがまず利用できないのはいたしかたないのでしょう。ただ、問題は今後Microsoftのブラウザ施策が大きく変わることにより来年初頭から利用できなくなるOSとブラウザの組み合わせが一気に増えます。

Microsoft社より、平成28年1月12日より、テクニカルサポートとセキュリティ更新プログラムの更新対象が、各OSの最新バージョンの「Internet Explorer」のみとなる旨発表されております。

これに伴い、<18>ダイレクトおよび<18>ビジネスWEBのご利用環境につきましても、平成28年1月12日より、以下のOSとブラウザソフトの組み合わせでのご利用は動作保証の対象外となりますので、ご利用されているOSの最新バージョンの「Internet Explorer」をご利用いただきますようお願い申し上げます。


【動作保証対象外となるOSとブラウザソフトの組み合わせ】
・「Windows Vista」×「Internet Explorer 7」
・「Windows Vista」×「Internet Explorer 8」
・「Windows 7」×「Internet Explorer 8」
・「Windows 7」×「Internet Explorer 9」
・「Windows 7」×「Internet Explorer 10」
・「Windows 8」×「Internet Explorer 10」十八銀行
これ、当然ながら他行のオンラインバンキングシステムでも同様な対応になるはずでして、今後はブラウザのバージョンアップがある毎にバンキングシステム側の対応作業と、ユーザーへのブラウザアップデートの周知が必須となってくると思われます。

興味深いのは、従来であれば銀行側システムの都合により、ユーザーが勝手にブラウザの最新版を利用しないように周知するのが常でありました。たとえば、百十四銀行では法人ユーザーに対して以下のような告知を行っております。

「Internet Explorer 11」をご利用のお客さまへ(百十四銀行)

とにかく、最新版のIEをいかに使わないで済ませるかが細かく解説されているわけですが、今後のMicrosoftのブラウザサポート方針と180度逆行する流れです。はたして、百十四銀行はこれからどうやっていくのか気になるところです。

ちなみに、今後のIEサポート事情については以下の記事が参考になります。

各Windows OSでのInternet Explorerのサポート終了時期を知る(@IT 15/3/11)

国内のWebアプリケーション市場は過去長きに渡ってWindows XPとIE 6に特化して成長してきた背景があり、昨年のXP終了時においてもIE 6に最適化されたWebアプリ環境だけは延命しようといった取り組みも見られたりしました。

XPサポート終了でIE 6互換ブラウザーに脚光(ITpro 15/5/13)

Windows XPの延長サポート終了により、ここにきてInternet Explorer 6(IE 6)互換のブラウザーが脚光を浴びている。Windows XPを使っていた多くの企業は、IE 6向けに開発されたWebアプリケーション資産を抱えている。だが、IE 6はXPの後継となるWindows 7や同8では使えない。そこでIE 6互換ブラウザーを使うことで、既存のWebアプリケーションを延命させようというわけだ。ITpro
しかし、Microsoftがブラウザに対する方針を大きく変えてきたことによって、こうした流れはこれから大きく変わっていくのかもしれません。

それにしても、各銀行のシステムをこれから担当する各関係者のご苦労は察するに余りあります。皆さまお体にお気をつけて、ご自愛のほどお祈り申し上げる次第です。銀行も客商売のわりに、乗り付けてくる車の新旧で判断して「新車でのご来行お断り」という意味にも取れる仕事の仕方は、さすがにどうなのかと思うわけですね。

また、銀行は「優秀な借り手がいない」ことが慢性的な悩みですが、先進的な事業に取り組む会社ほどこれらのICT投資にはしっかりと対応するから経営基盤が安定して良いとも言えるわけで、銀行側の情報投資や事業環境の都合で客に「最新のソフトウェアを使わないでください」と言ってしまうのはさすがに非効率の極みだと思うのですがどうでしょうか。